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【161】自宅に連行



「イシドロと申します〜! すいませんウチのアホが。ですが、我々はその、所詮は下賎な平民ですし、ただの旅行者でカスなんで……とりあえず、お邪魔でしょうからそろそろ退散しま〜す!」

 ヘラヘラ笑いつつ、微妙に中腰でペコペコ頭を下げているが、ちょっと、口の端のあたり引き攣ってる。

 とりあえずこの場から逃げたい感を隠そうともしないのはもういっそ潔い。というか、この人、さっきハインリヒさんとハイレベルな戦いを繰り広げていたぐらい実力があるのだろうに、この小物っぽさは逆に凄い!

 シレッと「旅行者です」なんて、ある意味では間違っていなさそうなグレーゾーンの嘘で誤魔化しているのも高ポイント。

 私の目は誤魔化せない。

 香ってくるぜインテリジェンス。プライドとか名誉とか関係ねぇ、実利だけ取るぜというその鋼のような強い意志。冷静な判断力。

 オラシオさんからも証言が上がっていることだし……囲め囲め! 詳しく細かい制度まで頭に入っているタイプの賢い人だ! 洗いざらいアルバンが楽しめる情報を吐いて貰おうじゃねぇか!

「我が領地では騎士と兵士が領民を守っている」

「左様で! いやぁ〜、皆さん立派な方々ばかりで!」

「魔獣や犯罪者から領民を守るために働いている騎士の活動を妨害した場合、騎士の警告を無視してその作戦行動の妨げとなった場合は禁錮十日から二十日、または銀貨八枚相当の罰金」

 ヘラヘラ揉み手をしていたおじさん、改めイシドロさんが石のように固まった。

「オッサン、どうする?」

「……っ、あ〜、分かりました。すいませんね。今、払いますんで」

「因みに一人頭銀貨八枚。二人で十六枚ね」

 真顔で退屈そうに言ったアルバンを前に、イシドロおじさんの顔色が変わった。

 あ、この二人、さてはもう旅費が心許ない塩梅だったんだな?

「禁錮刑でも良いんだけど、知らぬこととはいえ辺境伯である僕に対する無礼と狼藉、それから辺境伯夫人に対する拐かしの容疑もプラスかな。僕は怖がられているからそうでもないだろうけど、ツェツィーリアは領民から大人気の辺境伯夫人だから、罪状からしてまあ……率直に言って、刑務官は冷たいだろうね」

「えーと、働いて返すとかって……?」

「うん? それでも良いけど、ウチは魔獣の討伐は全て騎士や兵士の仕事だから、やるにしても他の業種しかないよ? 斡旋するとしたら、鉱山での採掘作業かな〜? 他国の人間だからルビーやサファイアの鉱山には入れられないし、やるとしたら岩塩なんだけど、どうする? それとも、何か他に職業技能とかある?」

「ナイデス」

 声が小さい。

 アルバン、情け容赦がない。

 多分これ本人に悪気はそんなに無いんだろうけど、虐めに近い。もうやめてあげて、と言いたくなる。とりあえず可哀想過ぎるのでふざけてたら良く無いなと思い、アルバンの膝から降りてスッと後ろに控えることにする。

「じゃあ、こうしよう。罰金を建て替えるかわりに、冒険者という職種と制度、並びに税金の種類と制度とその実情を情報提供すること。ついでに、ダンジョン内部に棲息する魔獣の種類と特徴、植生なんかも教えて欲しいかな? 禁錮刑の代わりとして、十日間、名目上は客人としてうちの屋敷に滞在。もちろん宿泊費はタダ」

「よろしくお願いしますッ!」

 直角に頭を下げて片手まで差し出したイシドロおじさん、迷いがない。なさ過ぎる。いやアルバンは差し出された手を完全にスルーしているが。

 えぇ、これアルバンの要求してる内容、少しのお金と宿代のかわりに、国の情報を売り渡せって言ってるのと同義なんだけど、良いんだろうか?

 いや別に隠してはないのだろうから、税金の制度とかは教えてもらったところでこっちも「へぇ、そうなんだ〜」くらいで終わるが、ダンジョンは西の国独自の資源。その情報をポンポン渡してしまって良いのだろうか? いや、嘘吐かれる可能性もかなりあるけれども。

「君もそれで良いかな?」

「おう。良いぜ! 金もなかったところだしな」

 オラシオさんも即快諾。

 それでいいのか冒険者。

 私は貝のように沈黙します。

 何故なら、子供が生まれてからこっち、アルバンは趣味の魔獣研究の時間を減らして子育てに力を入れているため、ここらで息抜きをさせてあげたいのだ。

 以前、本人に確認したが、子供たちと過ごせるのは今この時だけだから別にいいよ、という出来た回答ではあったものの、ダンジョンの魔獣とか、アルバンが絶対に好きな分野なんだよなぁ。

 話だけでも聞かせてあげて欲しい。

 そんな訳で、オラシオさんとイシドロさんの冒険者コンビを穏便に我が家へ連行。とりあえず悪い人ではなさそうだけど、普通に強いし余所者だからということで、何人か腕利きの騎士を屋敷の警備に引っ張ってきて強引に警備面の問題を解決。

 私が居るために、お客だからということで四人で馬車に乗ったのだが、二人とも引いてた。

 すみません、うちの馬車、やたらデカいのもそうだけど、かなりゴリゴリの金持ち仕様ですよね。

 知ってる。

 慣れてしまったものではあるが、確かに初めて見たら引くと思う。溢れ出る財力の香り。黒一色の馬車ではあるが、ツヤッツヤにニスが塗ってあってピカピカだし、まだ北の初春は寒いのだけど、使っている木材が優秀なために、入った途端に暖かいのだ。天下の辺境伯家の馬車は断熱性にも優れているのである。

「あ、武器は置いてくれる? 槍だと入らないし、内装傷付くから。そっちの騎士に預けて。馬で運ばせるから」

「お、ぉう」

「こりゃドーモ」

 冒険者二人、なんか知らんが急におとなしい。

 なんでだ?

 疑問に思いつつも帰宅。

 にこやかにおかえりなさいませ、と出迎えてくれたメイドさんに、二人のお客が来たのでお部屋の準備を、とお願いしようとしたのだが……。

「なぁ、あんた、俺の恋人にならないか?」

「ノーセンキュー」

 いつもニコニコ働き者な我が家のメイドに対し、オラシオさんが流れるような動きで片膝を着いて求愛かましていた。と、同時に、うちのメイドさんからも笑顔でズバッと振られていた。

 この間五秒。

 スピーディー過ぎる。

「お客様ですね。それでは客室をご用意致しますので、少々お待ちください」

 どうでもいいけど、うちのメイドさんの心が鋼過ぎる。ズバッと振った後なのにテキパキ対応。すごい。流石プロフェッショナル。

「ありがとよお嬢さん」

 一方で、オラシオさんの方もアッサリしたもので、さっき渾身の口説き用の顔と声を駆使してキメていたというのに「ならしょうがないよね」ぐらいのノリであっさり対応である。おぉ、しつこくない。出会い頭の通り魔的な告白だというのに、粘着しないあたりいっそ貫禄すら感じる。

 というか、改めて見ると……オラシオさん、これ、多分だけど私よりちょっと年下なんだろうな。

 濃い茶色い髪をベース短くして、襟足だけ長くしてあってそれを縛っている。尻尾があるような形になっており、あまり見ない髪型ではあるのだが、それが似合っているし、よくよく確認すると……その奇抜な髪型でも違和感がないくらい整っているかも。誰もが認める美形のコンラートさんや、アレクサンダー殿下とはまた違った系統だけど、これ、若い女の子にモテそう。うん、遊び慣れているのかも知れない。

「部屋を整えるまでまだ時間があるから、一旦お茶でも飲もう。温室ならすぐ使えるよね?」

「畏まりました」

「僕は二人から話を聞くけど、ツェツィーリアはどうする?」

「興味はあるのですが、私は一旦、体を洗ってきますね」

「あぁ、そうだよね。ごめんね。熊の血を浴びたんだから、先に洗浄した方が良い。不衛生だからね。僕は手を洗えば済む程度だったけど、ツェツィーリアはきっと衣類にも飛んでるだろうから、すぐ洗わないと」

「はい。なので、後から参りますね」

「ゆっくりおいで。それと、今日は木蓮のお風呂を使ったら?」

「分かりました」

 熊の血、顔に付いたのは濡らしたハンカチ使って拭いたのだけど、服にもまだ散っていそうだし、髪にも付いているかも知れないので先に落としたい。

 私の髪は黒いので、血が付いていても気付きにくいのである。

 アルバンの勧めに従って、昨日はカテリーナさんとマヌエラさんに解放していた「高貴な方用おもてなし浴室」を使わせて頂く。

 前に何度かアルバンと使ったことはあるのだが、私たちの寝室からちょっと遠いので普段はそんなに使っていない。が、今回は、多分心配ないとはいえ、冒険者の男性二人が同じ屋敷の中に居るので、間違っても湯上がり姿で鉢合わせしないように導線を変えたいということであろう。

 この来客モード、前から想定だけはされていたのだが、初めての実用である。

 失礼がないように、そして私たち夫婦の評判が落ちないように、夫婦のお客さん、男性のお客さん、女性のお客さんと色々パターンを決めてあるのだ。

 きっかけとしては、昨年の狩猟大会の時にガルデーニア姉弟が子供部屋に迷い込んでしまったこと。あれは完全に想定外だったし、大勢の来客を一斉に邸内に放牧したことが原因であって、完全にこちら側の落ち度。なので、それはやはり改善すべきだろうということで、家令を中心に、お屋敷のおもてなしチームで色々考えて貰ったのだ。

 昨日のようにカテリーナさんたち女性のみが泊まる時にはアルバンが導線を変えれば良いが、今回はオラシオさんとイシドロさん男性グループなので、私が導線を変えねばならない。なので、導線を変更する場合は、自分の家ではあるのだけれど、細かく臨機応変に変更も発生したりするため、メイドさんの先導で移動することになるのである。

 万全を期すため、来客時に私が一人移動するならば、自動的にニーナもセット。

 後から追い付いたニーナとミトンを引き連れて、メイドさんに案内されてお風呂へ。

「……そうだ、折角ですし、ニーナも一緒に済ませてしまいましょうか」

「入りたい! でも、お風呂場に剣を持っていってもいい?」

「お風呂場に?」

「いついかなる時でも、騎士は貴婦人を守らなくちゃいけないんだ」

「あっ、うーん、そうですよね。ニーナは護衛だから、私と同時に無防備になってはいけないんですものね。なら、メイドさんを六人ぐらい呼んで、前室と廊下に待機して貰うのはどうでしょうか?」

 王宮だと女官が六人控えていて、それが対策になっていたので、そのまんま応用。猿真似でもなんでも良いものは取り入れて、ガンガン使っていく所存。

「それなら、良いかも知れない……けど、やっぱり、剣をお風呂場に持ってきても良い?」

「良いですよ」

 うちのお風呂は温泉引いているから、剣、錆びてしまいそうだけど、ニーナはやっぱり剣を手放すリスクを無視できないらしい。偉い。

 ニーナは間違ってない。護衛が護衛対象の入浴中に武器を手放すなど言語道断ではある。まあここ自宅だし、お客さんである二人はアルバンと居るからほぼ心配とか無いのだけれど、まあ……この世は色々起きるので、打てる手は打っておいた方が良いのだ。

 そんな訳で、脱衣所に六人のメイドさんと、濡れるのが嫌いなミトンを待たせて、私とニーナはお風呂。

「凄く綺麗なタイルだ。木蓮の形のランプも良い。凄く良い。ツェツィーリアさまが立ってると、名画みたいだ。クサヴェリアが見たらきっと喜ぶ」

「ニーナはクサヴェリアと趣味が合うんですね」

「んん、でも、ニーナよりもクサヴェリアの方がセンスがある。ニーナはドレスとか髪型しか分からないけど、クサヴェリアはその他のこともよく見ている。画家はすごいんだって分かった」

 その凄さが分かる時点でニーナも只者ではないのだけど、本人は気付いていないようだ。

 綺麗でお洒落なお風呂を前にニーナの目がキラキラ。かわいい。

 これが見たかった。

 このお風呂、私は「わぁ豪華」で終わってしまうのだけど、ニーナは絶対に好きだろうなぁ、と前々から思っていたのだ。でも、ニーナは庶民の子だし、幾ら私付きの女騎士とはいえ、王妃殿下も使うようなお風呂にはちょっと……と周囲からやんわり止められそうだなと思っていたのだけれど、国王陛下から騎士爵にして貰ったし、私と一緒ならなぁなぁで許されそうだしで、満を持しての初利用である。

 ニーナが嬉しそうで良かった!

 体を洗って二人でサッパリ。

 優しいメイドさん達に二人して世話を焼かれまくって、髪はサラツヤ、肌はモチモチに仕上がったところで、人前に出るからともう一回、自宅用寛ぎドレス着て温室へ。

 ニーナも汚れた服を着替えて、清潔になった。

 温室に到着すると……アルバンが絶好調だった。

「なるほど。じゃあダンジョン内には同一種であっても変異個体のバリエーションが多岐に渡っていて、深度、環境によってある程度はその変異の種類も限定されると考えて良いのかな? 地上に棲息する通常個体とは異なる魔法属性を持つ変異個体が居るって話だけど、それは魔獣の種類によって傾向があるかどうかも知りたい。ミルメコレオなんかは地上でも火または土属性になるし、同一の群れで統計を取ると比率が一定水準で安定する特性があるけど、それと類似性が見られるのかな? とりあえず、最も変異個体のバリエーションが多いっていうスライムについて、君たちが遭遇したことのある個体の特徴を全部教えて」

 ボードとペンを手に、ガリガリ書きまくっている。

 怒涛の質問。

 久しぶりの好奇心爆発モンスターなアルバン、イキイキしている。

 よかった。凄く楽しそうだ!

 というか、スライムってなに?

 私が読んだ魔獣の図鑑には載っていなかったのだけど、ダンジョン固有の特別な魔獣なのかな?

 面白そうだし、私で理解できるかどうかは分からないけど、聞きに行こうっと。

「お待たせしました」

「ああ、ツェツィーリア、おかえり! 今、二人からとても興味深い話を聞いていたんだ。ダンジョン内部にのみ棲息するスライムって魔獣が面白くてね。僕も前々から、取り寄せた書籍で存在だけは知っていたんだけど、実態はもっと奥深い生き物みたいなんだ」

「スライム……どんな魔獣なんですか?」

「これを見て。西から取り寄せた初心者冒険者向けの図鑑なんだけど、この図にあるように、人間が抱えられるぐらいの、主に楕円形をした魔獣なんだ。目や鼻や口などの器官がなくて、もっと単純で原始的な構造の魔獣のようでね。皮膚もないんだって。ダンジョン内で枯れた植物や生き物の死骸を食べる腐肉食性で、対象の腐汁を触れて取り込むことで吸収するんだって」

「腐汁を……では、固形物はどうやって食べるのでしょうか?」

「それが、分からないんだって。魔獣の死骸に群がっていたり、枯れた植物を包み込んでいる姿は頻繁に目撃されているらしいんだけど、どうやって固形物を消化しているかは不明なんだって。だけど、軽く打撃を与えたり尖ったもので突くと弾けてしまうらしいから、主に水で構成されているみたいだ」

「水で……ガルムに近い生き物なのでしょうか?」

「そう! そうなんだ! ツェツィーリア、君は本当に素晴らしいよ! スライムは討伐後にその場を濡らすだけで、他には何も残らないし、解剖なんかも不可能なんだって。殆どが水で構成されているからだと考えると納得出来るんだけど、ガルムと大きく違う点としては、腐肉を食べている最中に討伐しても、残る水は汚れていないらしいんだ。つまり、何らかの方法でスライムは摂取した水分を浄化、ないしは濾過している筈なんだけど、どうやっているのかは謎なんだって。しかも、他の魔獣に比べても圧倒的に変異個体の種類が多く確認されているらしくって……! 本当に興味深いよ!」

 ワクワクが止まらないアルバンを前に、オラシオさんとイシドロさんが半笑いでドン引きしている。

 二人してかったるそうな感じでずずず、とお茶を啜っている。

「お、この茶、美味いな」

 あっ、オラシオさんが会話と説明を諦めた!

 我が家の気の利いた使用人の皆様が、抜かりなくホットなミルクティーとお菓子をご用意してくれたらしい。

 ちょうど午後のお茶の時間だし、なんだかんだお昼を食いっぱぐれてしまったので、ガッツリめのアフタヌーンティー。

 三段のケーキスタンドに加えて、乗り切らなかったサンドイッチとスコーンが山盛り。クロテッドクリームもドカンと山になってご用意されているし、ジャムは三種類。アップルシナモンと温室で育てた苺とオレンジママレード。サンドイッチも三種類で、スモークサーモンと、それから胡椒たっぷりの鴨のハムに、チキンソテー。ケーキはレアチーズケーキに、ドライフルーツとナッツのケーキ。それから小さい器に注がれたチョコレートムース。うぅん、今日も今日とて、いきなりの来客にもめげず、素晴らしいシェフのお仕事である。控えめに言って最高。

「スライムは基本が水属性だけど、変異個体には水銀と思われる特徴を備えたものも確認されているってことは、土属性と考えて良いのかな? その場合、俗にメタルスライムと呼ばれているスライムを討伐した場合、飛散した液体がどのような特徴を示すのかが知りたいんだけど、所感を聞かせて欲しいなっ!」

「え〜と、メタルスライムの場合、飛び散るのは銀色の液体で……だけど、水銀よりはかなり水っぽくてですね……。」

「臭いは!?」

「に、臭い……?」

 アルバンに質問責めされるイシドロさんを後目に、オラシオさんは既に食べるモードに移行しており、次から次へとひょいぱくひょいぱく。サンドイッチとスコーンがどんどん消えていっている。

 た、食べる力があるな、この人……!?

 負けていられるか。

 私のぶんのお昼ご飯がなくなりそうな勢い。これは会話に参加してる場合じゃねぇ。面白そうな話題ではあるけど、まずはご飯。腹が減ってはなんとやら。お腹ペコペコ。恥も外聞もなくサンドイッチを貪らせて頂く。うっ、美味しい。この鴨ハムサンド、旨味がすごい。

 さりげなく皿ごと後ろのニーナにパスしたら、怒られなさそうと判断したらしく、ニーナも立ったまま食べ始めた。

 アルバンはもう飲食を忘れているらしく、ガンガンにマニアックな質問をイシドロさんに繰り出しまくっているため、二人は放置で私とニーナとオラシオさんの三人でサンドイッチの皿をガンガンに空にしていく。

「すげぇな。貴族の飯。何食ってもうめぇ……!」

 いいえ、違います。こんなに美味しいのはうちのシェフが特別優秀だからです、と言いたかったのだが、流石に食べ盛りの肉体労働者であるオラシオさんの勢いがすごい。

 くっ、この私が、食い負けるだと……!?

 いや別にそこまで驚くことでもないな?

 所詮私は箱入りの一人娘。しかも貴族の生まれだし、甘々の両親に育てられたお陰でひもじい思いをしたことなど一度もないし、自分のご飯は常に充分な量が自分用として確保されていたから、急いで食べるという習慣がない。というか、普段からそこそこ量を食べる癖に食べるのが遅いので、これは今更だな。

 だけど、うん、あの……オラシオさん、スコーンを半分にバコっと割って、私がやってるの見てクロテッドクリームとジャムを見様見真似で乗せて食べ始めたのだけど、一口が、デカいな……?

 なんか、あぐ、もぐ、がぶ、むしゃ。の四回ぐらいでスコーンが消える。どうなってるの。

 私が半分食べるまでに、ジャムの味を変えつつ三個食べているのですが。

「……足りない。追加を貰ってくる」

 この場所に既にマナーなどなかった。

 油断していても大丈夫そうだと考えたらしいニーナが堂々とおかわり宣言。ニーナの足りない発言に対し、オラシオさんが真面目にこっくりと頷いているので、まあ間違ってはいない。

 すぐ近くでイシドロさんが「いいなぁ、食べたいなぁ」という顔で見てくるが、私はそっと手元のスコーンに視線を固定させて頂く。

「うーん、もしかして、スライムってこんなに特異な魔獣なのに、研究してる人が少ないのかな? 君は討伐した後のスライムって触ったこと、あるかな? 感触とか匂いとか、そういう情報があれば理想的なんだけど……。」

「いや、スライムとか意識して見たことねぇや。たまたま当たって潰してもその後は知らねぇな」

「見てないのか。なら仕方ない。出来れば二人から聞きたかったんだけど……それじゃあ、スライムの中にはたまに植物と共生してるグリーンスライムって個体も居るって話だけど、ベースは土か泥ってことで良いのかな? だとすると、グリーンスライムに生えている植物や苔の種類を調べることで、移動距離が割り出せる可能性があると思うんだけど、それに関しての研究とかはーー」

 イシドロさんの目が死んでいるし、助けを求めるように相棒を見詰めているのだが、オラシオさんはそれを無視して、そっとケーキに手を伸ばした。

 ありがとう、イシドロさん。

 尊い犠牲のお陰でアルバンの目が叡智によって光り輝いているぜ。



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