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【157】学生寮の食事情


「私はアカデミーは二年生までで退学しました。以前からマリウスとの、ファイルフェン家との縁談がありましたが、アカデミーで実際に候補となっている男性の人柄を確かめたかったので……その中で、マリウスはやはり条件が良かったですし、ウマが合ったので……婚約者が決まると同時に、家に戻って社交を本格的に始めましたわ」

「私は、一年生の時にコンラートとの縁談が纏まって婚約したのですが、コンラートがどうしても一緒に通いたいと強く主張したので、卒業まで一緒でした。恥ずかしながら、実家には私を卒業させるまで入寮費を出すだけの余裕もなかったので、すぐ自主退学するつもりだったのですが……それもコンラートが全て払ったのです」

「入寮費」

 つい驚いてしまった。

 私は入学できなかったのでやさぐれており、アカデミーに関する情報を全てスルーしてしまっていたので知らなかった。

 アカデミーは魔力の強い貴族の子供を集めて、魔法の使い方を指導するのが目的。学費は国が負担しているが……制服や教科書、その他、学園生活で必要なものは自己負担。だけど、入寮費がかかるとは知らなかった。

「ええ。理屈としては、自宅から通学する生徒は生活費が自己負担であるのに対して、寮生活を送る生徒が無料で、となると……不公平だから、だそうです」

「詭弁ですわね。確かに、領地のない中央貴族の子息令嬢にとっては大きな問題ですけれど、寮に入っていないのは高位貴族の令嬢令息ばかり。王都の中の自宅から通学出来るほどに裕福なのに!」

「入学が義務なのに、入寮費が自己負担、というのは確かに、地方の下位貴族には辛いですよね」

 この場に居る全員、出身が下位貴族なために、意見がどうしてもそっちに寄ってしまう。

 特に、フリートホーフ領もそうだが、ラヴェンデル領もファイルフェン領も王都から遠いので、子供たちが大きくなってアカデミーに入学するとなったら、王都で家を借りるか寮に入れるかしなくてはならないのだ。

 どこの家でも頭の痛い問題ではあるだろう。後継の長男だけは何があっても資金を捻出して卒業までは通わせるだろうが、地方の弱小貴族家となると、長男以外は無理なので、ちょっと通わせてから自主退学にならざるを得ない。特に、家督を継げない令嬢ともなると、お金をかけてアカデミーに通わせるよりは早めに嫁がせて社交に精を出して貰った方が家のためにはメリットが大きい。

 うーん、縁談に於いては圧倒的に不人気令嬢だったから知らなかった。

 フリートホーフ領に新しく作る女子校、いっそ全寮制にして、学費と寮費込み込みでやった方が良いんだろうな。

「寮での生活はどのような様子なのでしょう?」

「正直……余り良いものではありませんでしたね」

「同じ寮生でも、裕福でない家の高位貴族のご令嬢が威張っていましたわ! 他の家の令嬢は目立たぬように過ごさねばなりませんし……本当に窮屈ですのよ!」

 カテリーナさんの対人スキルをもってしても寮生活が大変なの!?

 そ、それは正直、相手の令嬢に問題があるのでは……?

「そうですね。下級生の頃には気を遣いましたが……高学年の頃になると、それなりに楽にはなりました。コンラートは成績優秀者でしたので。サポートがありましたし、幸い、同じ学年で卒業まで通ったご令嬢たちは親切にして下さいましたので……。」

 モニカさんの言っている件に関しては、モニカさん自身の人柄もあるのだろうけれど、卒業まで通うご令嬢は経済的にも余裕のあるお家の令嬢なので、気持ちとしても穏やかなのかも。シャルロッテさんやディートリンデさんとかのレベルを想定するのなら、確かに、絶対に虐めとか起きない。そんなくだらない事してる暇はないだろうし、そもそも、やろうとすら思わないだろう。

 あと、やっぱりコンラートさんが頑張ったんだろうな。高位貴族のご令嬢とお付き合いするとなると、やっぱり服やら何やらそれなりでないと距離を置かれてしまうだろうし、話だって合わないだろう。そんなハイソサエティなご令嬢と仲良くなれたのは、モニカさんの性格と、コンラートさんの稼ぎのお陰なのであろう。

 うん……コンラートさんのことだから「死んでもモニカに恥など搔かせてなるものか」でやり切ったんだろうな。

 で、結果的に、高位貴族のご令嬢と付き合いが生まれたお陰で、モニカさんは審美感が付いて、ラヴェンデル領の観光ビジネスで超有能アドバイザーをやれていると。ううん、無駄がない。

 でもなんか、モニカさん、何か言おうとして迷ってる空気出してるな?

「ただ……他家の令息とは余り……。特に、同じ下位貴族のご令息で、成績の奮わない方々からは、たまにご指摘を頂くことがありました。コンラートはあの通りの性格ですし、それもあったものとは思いますが」

「ああ、居ますわね。令嬢に成績で負けるとウダウダ言い始める面倒な殿方」

 カテリーナさん、一刀両断。

 な、なるほど、世間では女性は男性よりも劣っているとされているから、男性が女性に勉学で負けるとなったらそういう事が起きたりもするのか……! 

 生き物に詳しいアルバンの推測だと、女性が男性よりも頭が悪いというのは凄く疑わしい、とのことなので、私としてはそっちを信じたいが、でも……そうか。アルバンはその現実を知っていたから、そういう仮説を立てたのかも知れない。

 考えてみると、そこらの下位貴族の……それこそ私のクズな従兄弟は男だがアホだし、キャロラインさんやディートリンデさんには絶対に勝てないだろう。それに、カテリーナさんやモニカさんの方が賢いと思う。うん、これ、男性の方が女性より賢いの理屈、あんまり成立してないな?

 いやまあ、アルバンは別格だけど。

「高学年ともなると、人数が減りますから……成績上位者の欄に名前が載りやすくなったのです。低学年の頃は百位以内に入るかどうか、だったのですが、コンラートに付き合ったのもあって、私は五十位前後に入ったのですが……女のくせに慎みがない、生意気だと言われました」

「それは……その方個人の実力不足なのでは……?」

 理屈が通っていない。

 いやまあ確かに、勉強に向いているかどうかはあるけど、なんか、それは勉強が出来るかどうかとはまた別の問題な気がする。賢さが足りない。

 モニカさんに良い成績取るなってクレーム入れたってことですよね?

 えっ、コンラートさんという婚約者が居る、全く関係のない他家のご令嬢に喧嘩打ったりする?

 なんで?

 他の家と揉めたところでデメリットしかないのに。

「コンラートはあんな性格ですから……一度、私がそういったご指摘を受けた場面を目にして、その場で手袋を叩き付けたのです」

「さすがラヴェンデル卿ですわ!」

 カテリーナさん、楽しそうだな?

 血の気が多い。これ、カテリーナさんもコンラートさんと割と気が合うんじゃないだろうか?

「ですが、コンラートは剣術が不得意ですので、負けてしまいました。魔法行使ありの決闘でしたので、そう酷くもなかったのですが、顔に怪我を負って……それで、コンラートに怪我をさせるよりはと思い、卒業まで、試験ではわざと何問か間違えて、点数を調節していました」

 おおぅ、そうなっちゃったのか。

 コンラートさん、魔法は凄いのに、そうか、体を使うのが苦手なのかも知れない。本人も以前に、鍛えても筋肉が付かないと言っていたし、実戦なら強いのだろうけど、単純に剣による勝負だと不利なのか。

 モニカさんはコンラートさんが大好きだし、自分なりに守ろうとしてその選択をしたのだろう。

 でも、それだと……本来の実力を隠すことになるし、データ集積とか能力の把握のための指標である試験が意味を成さなくなってしまう。全体のためにはならないのだけど、でも……確かに、モニカさんの立場ではそれ以外になかったのかも。

 だってコンラートさん、どんなにボロボロになろうがモニカさんのためなら毎回怒って戦ってくれちゃいそうだし。

「モニカ様、それは……ラヴェンデル卿は気付かなかったのですか?」

「いいえ、気付いていたと思います。私にそのようなことを言った方のご実家には後日、何がしかが起きておりましたので」

「何がしかが」

「何がしかは起きたんですね?」

 なるほど、決闘に負けてもタダでは済まなさないぜということで、きっちりやり返しはしたんだな。コンラートさん恐るべし。努力と執念の男。

「何が起きたんですの?」

 カテリーナさんそこも聞くのか。

 いやまあ気にはなるけど、もうこれ完全に娯楽として聞いてるよね!? 社交ブン投げてますね!?

「ええと、その方のご実家が、事業に失敗されて……噂によると、金貨三百枚以上の負債を抱えたそうです。その後、その方は入寮費が払えず自主退学されました」

 思ったよりもエグい借金だった。

 コンラートさんを怒らせてはいけない。しっかり覚えておこう。

「女性同士では、そういったことは無いのですか?」

「無かったですね」

「そういえば、覚えがありませんわね?」

 意外。そこはないのか。身分が上の令嬢が下の令嬢に抜かせれて揉めるとか起きないのか。

「たまに下位貴族のご令嬢が成績上位者になっても、そうですわね、上位貴族のご令嬢は嫌な顔をしませんわ。そういった優秀な方が下位貴族でしたら、侍女としてスカウトすることも盛んに行われておりますので」

 そうかなるほど、侍女というのもあるのか!

 私とかイザベラ様みたく、一人娘ではないのなら、大抵の令嬢の行き先はどこかの家にお嫁入りして何不自由なく暮らし、同時に家同士の繋がりを作るのがベストルートとされる。が、一方で、領地を持った貴族の後継の令息は競争率が高い。

 誰もが領地のあるお家に縁付く訳ではないため、そうでなければ、商家に嫁ぐ。そのルートもあるけれど、もう一つ、身分があるなら、更に身分が上のご令嬢の侍女として就職するルートもある。

 侍女は女主人に仕えて婚家にも付いて、人生を共にする。いわば運命共同体。貴婦人の右腕にしてアドバイザーにして話し相手。出来れば賢く優秀な人が欲しい。優れた侍女は高位貴族の貴婦人にとってステータス。

 成績優秀な下位貴族の令嬢を早くからスカウトして侍女になって貰うというのは合理的。

 侍女は使用人という枠組みには入らない。もっとランクが上になるため、雇うのはよほど裕福な、それこそ公爵令嬢くらいでないとなかなか見ない。そもそもこなせる人、侍女になってくれる人を探すのが一苦労なので、数が少ないのである。

「そうですね。一年生、二年生のうちから、成績上位に入った下位貴族のご令嬢は引っ張りだこでした」

「むしろ、その優秀な侍女候補を巡って、高位貴族のご令嬢同士で火花を散らしていることの方が多かったですわね」

 そうなるのか〜〜!

 盲点だった。そうか。侍女。侍女か。

 確かに、私のために結婚前から色々準備しまくっていたアルバンが用意できなかったのが侍女。アルバンが人嫌いで厭世的なのも理由の一つではあるのだろうが、それくらい稀少な存在なのだ。

「上位貴族のご令嬢としては、下位貴族のご令嬢が成績優秀であるのは喜ばしいことなのですね」

「はい。優秀な侍女が居れば、大きなお家に嫁いだ場合でも、女主人としての仕事を割り振ることが出来ますから、将来の負担を減らすためにも、より優秀な方を求められる場合が大半です。わたくしが高学年になって他の方から親しくしていただけたのも……何かあった際に侍女として雇い入れたい、という意図があったのだと思います」

「モニカ様ならそうでしょう。ご卒業まで通われる下位貴族のご令嬢は稀ですし、それそのものがステータスですから」

 ……これ、もしかして、新しく作る女子校、騎士科だけじゃなくて、侍女科も作った方が良いのかな?

 需要高そう。

 でも、侍女を雇える家もそんなに多くないし、そこは今のアカデミーと同じように、成績上位に食い込んだ人をスカウトする方が効率的かも。

 もうちょっと考えよう。

 しかし、モニカさんのようにちょっと目立つとアホな男子生徒からの意地悪に晒されるというのはびっくりしたな……?

 でも、女子校だから、侍女欲しいの理論が発動するのであればそこはクリア出来そう。

 要するに、成績が奮わない男子生徒が、自分より優秀な女子生徒を虐めるのって「女は男より馬鹿な筈なのになんで負けるんだ」っていう圧力や批判があるからだろうし。それだって、周囲から言われたり実家から圧かけられたりしてるのも一因だろう。それに……女は男より馬鹿という通説、かなり強固だしそれが常識だから「あなた個人の実力不足です」と正論言ったところで受け取ってくれなさそう。

 なら確かに、女子校作って女の子たちだけ隔離してバキバキに育成する方が早いのかそうか……。

 そして、仕上がった優秀な令嬢と女騎士で世論をブン殴るということだな?

 ……国王陛下も議会も、パワフルすぎない?????

 荷が重い。

 えっ、そんなん学校に通ったこともない私じゃなくて、王太子妃とか第二王子妃とかにやって貰った方が良くないですか?

「……寮生活について、なのですが、お食事や、お召し物についてはどのようにされていたのでしょう?」

「手放しで美味しい、とは言えませんわね。食堂で頂くのですが、フリートホーフ辺境伯家でお召し上がりになるものとは全く違いますのよ」

「フリートホーフ辺境伯家は確か、王都にお屋敷を構えられておりましたよね? でしたら、ご子息やご息女もそちらから通われるので、余りご参考にはならないかと……。」

 あっ、しまった。主旨を説明していなかったから、カテリーナさんとモニカさんが不思議そうな顔をしている。

 まさか、辺境伯家なのにわざわざ子供を寮生にするのか……? と思われているのか。うぅん、違います。でも、やりかねないと思われても仕方がない人間であることは理解しているので、そこについては反論できない!

「実は、先日、国王陛下と議会から、新しくフリートホーフ領に女子のみの学園をというお話を頂いたのです」

 かくかくしかじか。こういうコンセプトと狙いで女子校作りたいから、リサーチ中ですよと説明。

 それなら……とカテリーナさんもモニカさんも、学校を作る上で参考になりそうなポイントを色々と教えてくれた。

 端的に言うと「ここが良かった寮生活」と「ここが最悪だったよ寮生活」を説明してくれた。お風呂が狭くて、でも身分が高かったり学年が上の人が優先だから待ちが長くて大変だったとか、寮のご飯があんまり美味しくないとか。洗濯はバスケットに入れて出しておけば洗って戻して貰えるけど、たまに順番が混んでたりすると数日間戻ってこないとか。トイレは共有だったので個室数少ないと列が長いとか。持ち物全部に名前書いてないとどこかに消えがちとか。ルームメイトと生活リズム合わないとキツイとか。

 ほうほうなるほど、と途中からメモ取らせて頂いた。

 参考になり過ぎる。

 どうやら、寮生活というのは楽しい反面、ストレスになることも多いらしい。

 しかし、お風呂とかご飯とか洗濯に関しては、頑張れば何とか出来そう。兵站輸送の知識が役に立つぜ。何人規模でどれくらいの施設規模が必要なのかは軍事的なもので最低ラインが算出可能。だけど、戦時における最低ラインは平時における最悪で不愉快。なので水回り関係はざっと三倍取っておけば良かろう!

 というか、お風呂に関しては我が家の大浴場を参考にしよう。そうしよう。結構来客からは好評だったし。トイレも聞けて良かった。女性だと月経があるし、そこについても考えないと。ハッ、もしや、トイレに関しては従来の兵站基準では参考にならない……? だって、兵站の基準だと男性の集団が前提だから、もうちょっとリサーチしないと無理かも?

 洗濯……アカデミーの寮でもちゃんと回らない時があるのは結構ショッキングな事実。だって令嬢はダンスとか以外基本インドア。汗をあんまり掻かない。でも騎士科の子なら年中汗だくは確定。ニーナが根拠だ。これ洗濯用の設備をどうにかしないと無理だな?

 だが、やはり私が一番気になるのはここだ。

「寮のお食事……質と量、具体的にはどのような感じなのでしょうか?」

 ちょっとの沈黙。

 カテリーナさんとモニカさんが顔を見合わせる。

 それからお互いに無言で頷いて、自己開示。

「私は余り裕福ではない子爵家の出身です。資産としてはファイルフェンと同等ですね」

「わたくしは、貧乏男爵家の出身です。資産は、今のラヴェンデルと比べれば雲泥の差です」

 ファイルフェン家はまあ、子爵家としては普通ぐらい。可もなく不可もなく。ただ、モニカさん……ご実家を貧乏と言い切るってことは、本当に貧乏なんだな!?

 今のところ、私の中での貧乏貴族ランキング、ガルデーニア姉弟がトップをひた走っているのだが、流石にガルデーニア家を上回るエピソードはないよね? あそこは開墾したばかりでそもそも人口が少ないから、領主一家自ら農作業やるらしいし。

「食べられない程ではないものの、なるべくなら食べたくないレベル、といった感じでしたわね。一度に全員が入れない規模でしたし、早い者勝ちなのですが……遅い回に行くとシチューの具が無かったり」

「味に関しては、わたくしは美味しいと思いました。当時はですが……ただ、上位貴族の寮生の方は、豚の餌とおっしゃっていました」

「そ、そうなんですね……?」

 具が無いシチューなんて悲し過ぎる。

 えっ、待ってください。そうなると、うちの使用人の方が充実している疑惑すらあるのですが?

 あっ、も、もしかして……学校側も、貴族令嬢は小鳥のように少食なんだから、そもそも量を用意していないのか!?

「ツェツィーリア様はアカデミーには通われていないのですよね? でしたら……フリートホーフ辺境伯家は勿論、ご実家のグリンマー子爵家の方が遥かに食事の内容は充実していると思いますわ」

 カテリーナさんとモニカさんが黙って首を振っている。

 アカデミー、思ったよりお金ないのかな……?

 少なくとも寮に良い料理人が居ないことだけはよく分かった。

「新しく建てる学校の食事は、内容を充実させようと思います」

「素晴らしいですわ! 私、もし娘が産まれたらその学校に通わせますわ!」

「あの、義姉さまがた……私、九月からアカデミーの寮に入る予定なのですが……?」

「グッドラッグですわ! マヌエラさん、もしも王都に寄ることがあったなら、必ず差し入れはしましてよ!」

 マヌエラさんが深く落ち込んでいる。

 それはそう。美味しくないご飯の出る場所で何年も生活しなくてはならないの誰だって嫌だよね……?

「辺境伯夫人……なるべく、なるべく早く、その新しい学校を創って頂けませんか? もしその学校が完成しましたら、すぐに、すぐに編入致しますのでっ……!」

「そ、そうすぐには……!」

 切実過ぎる。出来ることならすぐに食事情をどうにかしてあげたいが、どこに作るかすらまだ決まっていないので、マヌエラさんの就学には到底間に合わない。

「……王都で、何か機会がありましたら、お食事に行きましょうね」

「そうですね」

 大人三人で頷き合って、マヌエラさんを慰めるが……三者三様、みんな王都と領地が離れていて遠いので、まず大したことは出来ないのであった。

 それからモニカさんだけ先に帰宅。やっぱりコンラートさんが心配するからということで、また会いましょうねとお別れ。

 我が家からラヴェンデル家の邸宅は結構近いので大丈夫だろう。

 カテリーナさんとマヌエラさんは一泊されるので、みんなでモニカさんをお見送りしようね、と廊下を歩いていたら、アルバンが登場。

 仕事でヨレヨレの筈だが、私のお友達候補の前なので、髪も整えた上でちゃんとした服。

「ツェツィーリア、実りある話は出来たかな?」

「はい。カテリーナさんとモニカさんに色々とためになることを教えて頂きました」

「フリートホーフ卿……! お久しぶりです」

「ああ! ファイルフェン夫人、カーテシーは結構です。体調が優れないとは伺っています。モニカ夫人も構わず」

 これは異例の応対。辺境伯自ら貴婦人たちに対してカーテシーつらそうだしいいよ、の提案。これはなかなか無い。案の定、カテリーナさんとマヌエラさんが「えっ、優しい……!」って顔をしている。

 帰る頃合いだからと、一応顔だけ出しに来たのだろう。貴婦人たちが全員揃って纏まっていて、かつパーラーメイドも控えている状態なので、あらぬ疑いなど掛けられようもないシチュエーションであるのを前提としてのご挨拶。顔を出すことで歓迎していますよアピール。

 アルバンとは事前に、カテリーナさんとモニカさんが味方に欲しいよぅ、と打ち合わせしてあったし、今日はその二人とマヌエラさんしか居ないために態度も雰囲気も柔らかめ。

 おっとり丁寧な喋り方。

 ……これ、私は知ってるけど、三人は知らないだろうから、びっくりしただろうなぁ。

「なるほど、学生寮の食事の話を。懐かしいな。シェパーズパイが美味しかった」

 アルバンの何気ない思い出話を聞いて、カテリーナさんとモニカさんがピタリと足を止めた。

「シェ……?」

「シェパーズ、パイ……?」

 シェパーズパイとは、挽肉と玉ねぎを炒めたものを器に敷き詰めて、上からマッシュポテトで覆って蓋して焼いたものである。美味しい。知ってる。私も好きだ。

 割とスタンダードな料理だし、お二人も知っている筈だが、なんで固まっているのか分からない。

「ええ。あと、年末だけですが、七面鳥のローストとか」

「七面鳥のロースト!」

 カテリーナさんがクワッとなっている。

 なん、なに!?

 七面鳥のローストがどうしたっていうの?

 一方で、モニカさんは黙り込んでいる。

 何か考えているらしい。

「そんなもの、一度も出なかったわ……!」

「あるには、ありましたが……フリートホーフ卿、それは身分の高い人だけのメニューでは……?」

「え? いや、他の人も食べていたと……?」

 アルバンも記憶が曖昧らしい。他人に対して無関心だったからだとは思うが、しかし、私からすると、記憶力抜群なアルバンが記憶違いをするか? という点に疑念が沸く。

 そこから、カテリーナさんがモニカさんに同意を求めつつ、寮のご飯についての確認と擦り合わせをしたのだが……アルバンも途中で何だかおかしいぞ、と思ったらしい。

「うん。それは……男子寮と女子寮の差があるにしても、食事の質の落差があり過ぎる。そもそも、女子生徒は大半が二年までで自主退学するから、人数そのものも男子より少ない筈。なのに、食事が少なくて内容も質素というのはおかしい。まさかとは思うけど……僕も、家は別れたとはいえ、妹のガブリエラが寮に入っているから、心配だ。こちらでも確認しておくよ」

 アカデミーに対して色々直接問い合わせられるのもアルバンの強みのひとつ。



 その時にはモニカさんをお見送りして一旦解散となったのだけど……後日、アカデミーの女子寮の寮母が長年に渡って食費を横領していたことが発覚。

 なんでも、貴族令嬢なら「寮の食事が足りない」などと外部に訴えられないと考えたそうだ。

 貴族令嬢とは小鳥のように少食であらねばならない。なので、家族に食事のことを訴えたとしても「そんなことを言うべきではない」と嗜められることが多いため、発覚しないと踏んでいたらしい。

 あ、悪質〜〜〜!

 最悪。これは罪深い。ご飯を食べられないのが一番惨め。許すまじ横領寮母。人のやることではない。

 ガブリエラさんからも手紙が来たが、どうやら、あんまりにもご飯のクオリティが低いため、もう寮を出てアッヘンバッハ公爵家が所有する王都のお屋敷から通っているらしい。義母はこの冬で色々あったらしく隠居したとのことなので、一人で悠々自適に暮らしているようである。

 ガルデーニア姉、ことカトリンさんからは感謝の手紙が届いた。詳細を知らなかったのでいきなり晩御飯が豪華になって女子寮がザワついたらしい。のち、ガブリエラさんから話を聞いて、喜びと感謝のお手紙が。良かった良かった。

「どうやら、数十年に渡っての犯行だったせいで、今在籍している令嬢たちの母親も被害に遭っていたから“女子寮の食事はそんなもの”っていうのが前提だと思っていたらしいね。管理不十分だってことてで、今アカデミーの理事長室が苦情の山で埋まってるらしいよ?」

「わぁ。それは、でも、そうなりますよね……?」

「管理不十分な国立学校の失敗例は珍しいから、今度の見学の時にそこもしっかり見ていこうねっ!」

「はい。そうですね!」

 アルバンにとっては他人の失敗、全部参考資料。恐れ入るぜ。

 だけど、私が作らなくちゃならない女子校、来てくれる子たちにそんな思い、絶対にさせたくないのでそこは何をおいても譲れない。

 だって、私が理事長に内定しているってことは、実質アマーリアも入学決定。理事長の娘が入学しないってなったら「え、自分の娘は入れられないような学校ってこと?」と疑われたかねないので。

 可愛い我が子のためにも、美味しいご飯を用意してあげたい。

 学校作り、頑張るぞ!



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