【155】未来の理事長はド素人
ブチギレたアルバンに説明して貰ったことを纏めると、こんな感じらしい。
① 軍制度が終了
② 騎士制度が復活
③ 元騎士以外の兵士は新たに組織した警察になる
(軍の組織構造を警察に転用してリサイクル)
④ 騎士団と警察の編成が完了次第騎士制度に戻る
⑤ 今後の財源としては騎士団は領の税から、警察は国の税から提供される
⑥ 貴族の権限の強化
(以前の騎士制度と同等に回帰)
わぁお、大改革!
というか、これは結局、騎士制度のまま警察作った方が良くない? そんな狙いがあるっぽい。
以前の騎士制度、軍制度はどちらも、治安維持という観点から魔獣や猛獣の討伐、並びに犯罪者の取り締まりなんかも騎士や兵士がやっていた。
でも、昔はそれで良かったけど、最近は商人が台頭してきているし、法の穴を突いたり、グレーゾーンをひた走る感じの犯罪なのか合法なのかよくわかんないトラブルも増えているし、法律的な知識がないと無理じゃない? 武力だけあっても解決できなくない? そういう案件が増えているので、そこを分業するのが狙いのようだ。
これまでは騎士、軍人が人間同士のトラブルに対応していたが、彼らは法律を学んでいる訳でない。法知識がないと誰を捕まえて良いのか分からない、という案件に対しては確かに弱い分野だった。
単純に強い魔獣や猛獣、盗賊山賊など、考えるまでもなく捩じ伏せて武力による制圧が必要なものに対しては非常に強いが、狡賢い犯罪ばかりは筋肉と武力では解決できない。
騎士はどこでも人気者なので、単なる隣人トラブルなら「まあまあ落ち着いて」で大体どうにかなるものの、忙しい時には手が回らないのも事実。人と人との間で起きるトラブルや軽犯罪、勿論放置してはいけないのだけど、いきなり危険な魔獣が大量発見しましたスタンピードです、となると、やはり魔獣の討伐を優先せざるを得ないのである。
なので、騎士や従騎士の適性がない兵士は法律をある程度学んでもらって、軽犯罪専門に取り締まって貰いつつ、災害発生時などには騎士と協力して事態にあたろうね、という方針であるらしい。
う〜ん、確かにこれ、理想的ではあるかも。
アルバンが前に言っていたように、これから貴族は国益を守るために商人に対抗しなくてはならないのだし、騎士制度の時ぐらいまで貴族の権限を強めるというのは魅力的。領地で集めた税金の割り振りに関してはこっちの仕事になるが、軍ではなく警察なら維持費がそこまで掛からないため、領主が国に納める税金はちょっと安くなる。
ただし、デメリットとしては自分の領地の騎士団の維持費は自腹なので、領地運営でトチるとたちまち首が回らなくなるところ。いやでも、これは軍制度になる前と変わらないのだし、さして影響はないのか……。鎧とか装備売っちゃったところは、備品の再購入でお金が吹っ飛んでいきそうではあるけれど、とりあえず経済は活性化しそう。
少なくとも、うちの領民の方々、すっごい騎士が好きだし。なんとなく浮かれて祝杯あげたりしそうではある。
と、アルバンの説明に対して、私の認識というか、感想っぽいものを述べたのだけど、アルバンはこんなことを言った。
「うん、いや……合ってるよ。この冬の作業が無駄になったのは僕も残念だけど、でも……ツェツィーリア、現実を直視しようよ」
「えっ、何の話ですか?」
「こらっ、キョトンとしない! 見て!」
軽めに、大して怒ってなさそうな感じで叱られてしまった。
しおしおになりつつも、薄目でアルバンがずずいと差し出してくる紙の束を嫌々受け取る。
チラッ。
「あの、表紙……国立女子専門学校、って書いてあるのですが」
「うん。そうだね。しかもプロジェクトリーダー、ツェツィーリアになってるね」
「なってますねぇ……?」
つい、全力で目を逸らしてしまった。
なんか知らんけど、私はいきなり国王陛下と議会の方々からの依頼で、女子校を作らねばならぬらしい。
国王陛下と議会からの依頼で、抑えておかねばならないポイントは二つだけ。
まず、貴族令嬢向けに領地運営科を作ること。
これはイザベラ様のように家を継がなくてはならない一人娘向けに、女性が主導権を握れるくらいのレベルで諸々手続きやらお金の計算やらができるようになるのを目標にした学科であること。そこには普段からの諸手続きや領地運営に必要な知識なども含まれるが、非常事態、大型の魔獣や凶悪な害獣、或いは大規模な自然災害が起きた時の対処も含まれる。後者に関しては、私が火竜の首を王都まで素早く運んだので、そのノウハウを伝授して欲しいとのこと。つまり兵站輸送のためのやり方も教えてね、ということらしいが……無理!
だって、なんで出来たのかっていうと、それはアルバンが選りすぐった優秀かつインテリジェンスな文官の方々が揃っていたからで、私は「責任は取りますやってください!」とお願いしただけなのだ。
なので別に私の実力じゃない。号令掛けて許可出すだけなら何でも出来る。
が、まあ、それが出来る淑女を増やすことが国力増強に繋がることは理解できるし、もうなんか、国王陛下の御命令ならやるっきゃないよね、ということでシクシク泣きながらアルバンの手を借りてどうにか形にするしかなさそう。
次に、騎士科を作ること。こちらは当然、女子校なので女性騎士の育成を主とする。出自、身分に関係なく、女の子を集めて貴婦人令嬢の身を守ってくれる女騎士を育てて欲しいとのこと。こっちはどうにかなりそうな気がする。ハインリヒさんに相談の上で、引退する騎士の誰かしらを紹介して貰って先生役をやって貰えばとりあえず何とかはなる。ただし、男性と女性ではやっぱり、体の構造が違うし……理想を言うなら、女性の指導教官も欲しい所ではある。だって、フリートホーフ北方騎士団、凄く強いけど加減を知らないので。誰もがニーナのように体が強い訳じゃないし、女の子には月経もある。男性が指導教官だった場合、具合が悪くても言い出せないかも、とか考えると、やっぱり見守る側の大人も女性比率を多くしたい。
でも、武術を身に付けている女性、この国にはまず居ない。どうしよう。
色々つらつら考えつつも、企画書というか、依頼としては「学校作るにあたってアドバイザー的な視点からの意見提出だけでもいいよ。でもいけるなら、出来たら積極的に色々細かいところもやって欲しいな。人手とか予算は相談してくれれば出来る限りなんとかするよ」だったので、ひとまず、最低限必要な条件を箇条書きにしてみるなどする。
「えっ、ツェツィーリア、もう学校の仕事始めてるの!?」
「はい。国王陛下のご命令なので」
「偉すぎる。もうちょっとごねてみても良いんだよ? だっていきなり過ぎるし、そもそもツェツィーリアは学校に通った経験がない。いきなり押し付けられた形だし、議会にクレーム入れて、もっと良い条件を揃えてからでも良いんじゃないかな?」
「あっ、そうなんですね。でも……最初に条件を固めるよりも、後から我儘言って無茶振りを重ねた方が、退路が絶たれるので言うこと聞いて貰えるかなと思ったんです」
「……確かに。とりあえず、僕も騎士団と警察関連、それから予算の組み直しが終わったらそっちもやるから、ツェツィーリアは無理したり、あんまり悩んだりしないようにね?」
「分かりました。ありがとうございます」
流石に今のてんてこ舞いしているアルバンと文官の皆様に対して「教えてください手伝います」を言える状況ではない。
忙しさがヤバ過ぎる。
誰も私に一から教える余裕など無いのは明白。足手纏いになりそうなので、今回に関してはアルバンの負担を減らすためにも、この女子高作りのための仕事を私が先に始めておいた方が良いだろう。
新しく学校を作るとなると、これは間違いなくビッグなビジネス。
しかも、前代未聞の女子限定な学校。おまけに、貴族令嬢に限定せず、庶民の出の女の子も一箇所に集めての革新的過ぎるコンセプト。
だけど、理屈としては合っている。
恐らく国王陛下は、私とニーナをモデルケースとして考えたのだろう。領地運営を一時的にであれ代行可能な貴婦人と、それを守る女騎士。貴族の女性と、単なる村娘だった女性。それが運命共同体として動くことを想定するのなら、同じ敷地内で学んだ方が相互理解はスムーズ。だって、私もニーナが来てからはずっと交流を深めてきたし、それが結果として良い方向に作用してることはよく分かる。
まあ、それも……私が残念な淑女なのに、ニーナが物凄く良い子だからというのが原因ではあるのだけど。
「そうだ、ちょっとニーナにも話を聞きに行ってみますね」
「良いけど、ツェツィーリア、邸内からは出ないでね?」
「はい。ニーナが中に居なかったら、誰かに呼びに行って貰います」
ベルンシュタイン城砦から帰ってきて早々仕事に覚えてあっぷあっぷだが、ニーナはどこに居るかな〜? なんて考えていたら、子供部屋に居た。
なんでも、荷解きをしようとしたが、使用人用エリアでは同じように、本邸に帰ってきた女性陣が一斉にバタバタしているらしく、動きにくいからひとまず時間を潰しているとのこと。賢い。
かくかくしかじか、これこれこうで……とニーナにも事情を説明。
すると、ニーナの目がキラキラになった。
「女の子だけの学校……! 制服は絶対にかわいいやつが良い!」
「あっ、まずはそこなんですね?」
「うん。王都で、ガブリエラ様が着ていたアカデミーの制服も良かったけど、アカデミーのは上下ともラクダ色だし、可愛くないから令嬢は式典の時以外、あんまり着てないって言ってた。だから、式典がなくても着たくなるようなかわいくてお洒落な制服がいい。そうすれば、令嬢でもドレスをたくさん用意しなくて良くなる」
「な、なるほど。確かにそうですね。ドレスはお金が掛かりますし、やっぱり、同じ所で過ごすからには、貧富の差が目に見えない方が良いですよね……。」
思ったよりシビアな理由だった。
確かにそこ、大事。
私は実家の商船が沈んでしまうまで、お金に不自由したことがなかったし、そこら辺の感覚が鈍いのは否定できない。毎度どの社交でも新しいドレスに袖を通していたのだけど、ガルデーニア姉弟の話を聞いていると、下位貴族ではそんなことできないっていうのが普通みたいだし。
アカデミーではどうも、ニーナのリサーチ通り、制服が一応あるにはあるがダサいため、大体みんな一年生の時にしか着ていないらしい。ガルデーニア姉弟が言うには、二年生になっても毎日制服だと貧乏判定が下されて肩身が狭くなるそうだ。世知辛いし、そうなると制服とは何だったのか案件である。
可愛くてお洒落な制服、確かに重要問題かも!
「でも、騎士科となるとやはり、動きやすい服装の方が良いですし……フリートホーフ領は寒いですから、いっそズボンの方が良いのではないでしょうか?」
「それなら、ツェツィーリアさまが城に居る時と同じようにすれば良い。ブラウスや上着なんかは共通で、日によってズボンかスカートか選べるようにすれば良い。お金がない子は片方だけ買うのでも良いし、整列して立っていれば、下がスカートでもズボンでもそんなに見た目で違わないと思う」
「た、確かに……! えっ、すみません、ニーナ、もっと教えてくれますか? いつも騎士団の鍛錬をする時にはずっと男の子の服を着ていますよね? あれはやっぱり、その方が動きやすいんですか?」
「男の子の服の方が動きやすい。あと、投げ飛ばされたり転んだりして汚れるし、蹴りが使えるから戦うなら絶対にズボンが良い。布が一枚だけでも、脚が保護されるから。だから、グスタフがくれたような、汚しても良い騎士見習い用の服みたいなのがあった方が良いと思う」
「そうなんですね。では、騎士科を専攻する子には、鍛錬する時のための、装飾が少ないシンプルな作りで、丈夫な布で作った服を用意しなくてはなりませんね」
道理である。
騎士は式典の時にはサーコートに鎧を装備するが、普段の屋外活動時、ニーナは男の子の服の上から革鎧を装備していることが多い。プレートアーマーはここぞという時だけ。そうでない時、日常ではずっと男の子の服だけ。恐らく、ニーナにとって、というか……騎士見習いとして適したスタイルがそれなのだろう。なら、そっくりそのままそれを流用した方が良い。
「騎士になる子には、式典用の制服が一着と、屋外で実戦に行く時用のズボンとシャツと革鎧と、安全なところで体を鍛える時用のシャツとズボンが沢山必要だと思う」
「分かりました。プレートアーマーではなく、革鎧なのはどうしてですか?」
「高いから庶民は自分で作れないし、それは剣を捧げる貴婦人に貰うものだから……それに、ニーナは凄く強いけど、大体の女の子は力が弱いんだ。疲れやすいし、軽くて頑丈な革鎧の方が良いと思う」
「さすがですね。ニーナは普段の鍛錬の時用に使っている男の子用の服、どれくらい持っていますか?」
「シャツもズボンも三十枚くらい持ってる」
「三十枚……やはりそれくらい必要なんですか?」
多い。思った以上にニーナが衣裳持ち。
「ニーナは多い方だ。王城で、もう使わないからってグスタフがサイズの合うやつを全部くれた。だから増えた。お給料で古着屋から買ってるのもある。でも、冬にずっと汗で濡れたままだと死んでしまうこともあるし、なかなか乾かない時のためにも、十枚は要ると思う」
確かに、ベルンシュタイン城砦に居る間、筋トレしているニーナから湯気が立ち上っている場面、よくあった。極寒の中なのにたまに汗だくになってる時すらあった。
フリートホーフ領は秋や冬は晴れの日が少ない。乾燥しているから全然布が乾かない、とかはあんまり無さそうではあるけれど、冬は洗濯もうまくいかない時が多いのかも?
わからない。
洗濯のこと、何もわからない。やったことがない。
「ランドリーメイドに聞いてみましょうか」
「わかった。呼んでくる」
ニーナは素早く子供部屋を飛び出して、普段から仲が良いらしいランドリーメイドのお姉さんを連れて来てくれた。
ランドリーメイドさんはいきなり家の女主人である私に呼ばれたので驚いて慌てていたが、とりあえず「いつもお洗濯ありがとうございます」と言った上で、洗濯って洗って乾かして綺麗になるまでにどのくらい時間がかかるんですかと質問。
ランドリーメイドさんの話によると、このフリートホーフ辺境伯邸に関しては、洗濯物を乾かすための専用の部屋があるとのこと。
温泉の源泉を通したパイプを使った暖かい部屋なので乾くのが速いらしい。なので、天候に余り左右されないのですと教えてくれたが……知らなかった。そんな部屋あったのか。住んでいるのに知らない設備が沢山あるなぁ……!
だが、このランドリーメイドさんはベルンシュタイン城砦にも同行してくれた人であったらしく、乾燥室がない場合は、冬だとこのくらいです、とは教えてくれた。
とはいえ、洗うためのスペース、洗うべき量、乾かすためのスペース、乾かすべき量、洗濯にかかる人手など、総合的に見なくてはならぬとのお話なので、一概には言えないらしい。
ランドリーメイドさんに話を聞いて、これもちょっと考えさせられた。
学校となると生徒たちが沢山集まる。フリートホーフ領に建てるということは、大半の子は寮生活となるだろう。そうすると、大勢の人間の衣食住をまず確保しなくてはならない訳で……それはつまり、大勢の人間の洗濯がスムーズにこなせる施設が必要となる。食事に関しても同じだろう。調理施設も大規模なものが必要。人手も必要。学生寮を管理する人も必要だし、当然、警備する人だって必要だろう。
「とりあえず、この本邸の使用人の方々の役割をリストアップしてみましょうか」
ウェイティングメイドを兼任しているニーナにも協力して貰って、使用人の方々の各ポジションを全部書き出していく。
中には学校には必要無さそうなポジションとかもあるが、とりあえず漏れが無いほうが良いため、何も考えずに箇条書きにして、その横に具体的にどんな仕事をしているのかを記入。
「ま、まず、人を揃えないと話になりませんねこれは……!?」
結果、とりあえずポジションを埋めるだけでも百人以上雇わなくてはならないことが確定した。
生きるって大変。
そもそも、生徒は学校に勉強しに来る。努力は時間と労力を吸い上げるという特性があるため、それなら、理想を言えば衣食住に関しては誰かにやって貰って、学習する時間を多めに確保した方が良いのだが……どの程度にするべきか悩む。
私の中には既に、アルバンが教えてくれた「生きるために必要なこと」がある。
出来なかったとしてもやり方を知っていた方が良いこと、知っていないと、現場の人、特に騎士が困ることは多い。火を起こすとか、逃げるために必要なものを纏めるとか。もっと基本的なものになると、気候に合わせて自分で服を選ぶとか。
貴族令嬢のスタートはまずそこから。
服装は死なないためにはかなり重要。季節にもよるけど、冬とかだと薄着なら凍死してしまう可能性だってあるし、まずは自分を自分で生かすためには、というところもやっていかなくてはならないだろう。
が、私の場合は、アルバンが優しく丁寧に一つずつ教えてくれたのだけど、みんなで一斉にヨーイドン、でどの程度やれるものなのかわからない。
アルバンはアカデミーの寮に入っていた時期もあるみたいだし、後で聞いてみようっと。
そうだ、ついでにコンラートさんとモニカさんにも聞いてみよう。特にモニカさんは卒業まで通ったって話だし。女子生徒の寮生活ってどんな感じなのか教えて貰おう。あとは……うん、カテリーナさんかな?
具体的にアカデミーってどんな感じなの?
素朴な疑問を持ったので、お昼ご飯の席でアルバンに聞いてみた。
「なら、見学の申し込みをしてみようか」
「見学」
「うん。国からの依頼で新しく学校を作るんだし、モデルケースとして、アカデミーを見せて貰おう。制服の件にしても、どんな感じなのか見た方が分かりやすいだろうしね。良ければ僕から手紙を出しておくよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
アカデミーに通ってすらいない落ちこぼれ、エリートな夫のコネ、積極的に利用していきたい。
ヨレヨレの服着て、頭もボサボサぎみなアルバンだが、ニコニコなんでもないように笑って仕事を引き受けてくれるあたり、徳が高い。優しい。好き。
「ただ、見ただけでは内情とかは分からないだろうし……僕は一人も友達が居ない学生生活を送っていたから……他の人から話を聞くのも必要だと思う。立場や身分によっても見え方は変わってくるだろうし、ツェツィーリアが嫌じゃないなら、ラヴェンデル家とファイルフェン家を招いて、小規模なお茶会をすれば良いんじゃないかな?」
「そうですね。モニカさんや、カテリーナさん……なら率直な意見を言って下さるでしょうし」
あの二人なら、良い所も悪い所も全部まるっと教えてくれそう。特にカテリーナさん。
美味しいお菓子をシェフに頼んで用意して貰おう。
それか、いっそのことお茶会ではなく昼食会でも良いかも知れない。
今食べているこの、ラム肉とアスパラガスのラビオリのくるみソースがけ、意味が分からないくらい美味しい。口の中が春。食べると「ああ冬が終わったんだ」と実感できるこの味、ぜひ他の人にも食べてほしい。
ラヴェンデル領とファイルフェン領はフリートホーフ領のお隣。フリートホーフ程じゃないが北国なので、長い冬を耐えたね良かったおめでとう、という気持ちを共有したい。
それに……私はこれから、公的な場でも、お皿の上のものは美味しく余さず完食すると決めたのだ。
淑女は小鳥のように少食であるべし、を打ち破るとか廃止するとかそんな志はないが、体が大きい方が有利だし、しっかりご飯を食べられなくてひもじいのはシンプルに惨めだから、堂々とよく食べる女として生きていく所存。
ひょっとしたらモニカさんやカテリーナさんにはマナー違反でドン引きされるかも知れないが、私は……これから学校を作る上で、そこに通うであろう女の子たちには、お腹いっぱい食べて欲しい。
ニーナは一日六食ぐらい食べる。
アルバンもハインリヒさんも、女騎士が男の騎士に勝つためには少しでも体が大きい方が良いと言っているし、それは間違っていないのだと思う。だから、少なくとも、騎士科に入る女の子たちにはしっかりご飯を食べて貰う。これは絶対。だけど、もりもり食べているその隣で、令嬢たちが遠慮がちにチマチマ食べているの、良くない。遠慮してる人がいると食べにくい。
それに……私個人がやたら食い意地張っているのは事実だが、賢くて生き物に詳しいアルバンが、男女に関係なくお腹いっぱいお食べ派なので、アルバンが正しいと信じている。
「昼食会? 良いんじゃないかな?」
「でも、アルバン様もお忙しいですし、他領もそれは同じですから、時期をずらした方が良いでしょうか?」
「それなら、いっそのこと女性だけの昼食会にしてみれば? モニカ夫人も無事に出産を終えたって手紙がコンラートから届いていたし。本来なら今くらいから社交シーズンの筈だけど、どこもそんな余力はないだろうから、貴婦人たちのスケジュールは空いてるんじゃない?」
「確かにそうですね。モニカさんとカテリーナさんだけご招待してみます」
名案だ。女性だけの集まりというのが前提なら、夫が同席しなくても良い。夫婦でご招待となるとアルバンにも予定を空けて貰わないといけない所だが、女性同士の集まりならそれもクリア出来る。
それに……確かに、女子校を作るためのリサーチなんだから、お二人に話を聞ければそれで良いのだ。
と、いう訳で、ラヴェンデル家のモニカさんと、ファイルフェン家のカテリーナさんに「お久しぶりです。突然ですが、もしよろしければ一緒にお昼をどうですか?」というお手紙を出す。
モニカさんは何でも、冬の初めに無事、男の子を出産されたらしい。なので、出産おめでとうの旨も添えておく。
でも、ラヴェンデル領は観光シーズンが始まったところだし、社交シーズンともなるとカテリーナさんは引っ張りだこだろうし、すぐには無理だろうな。
なんて思っていたら、二人とも「明日にでもいけます」とのご回答。逆に焦る。メニューも部屋も決めてない。
慌てつつもシェフに泣き付き、春らしいメニューよろしくと丸投げ。シェフならいける。いつも全力で甘え倒して丸投げしている自覚はあるが、今回もよろしくお願いします、出来ればデザート付きで。あと、ひょっとしたら話が長引いて午後のお茶とお菓子も必要になるかもと添えておく。これでいつもどうにかしてしまえるシェフが居るからこそ可能な力技。そろそろもう一回シェフのお給料を上げるべきかも知れない。
お部屋とテーブルセッティングに関しては、パーラーメイドさんと相談。
そう! なんと! 社交嫌いコミュ障夫婦の私たちの住むこのお屋敷にも、とうとうパーラーメイドという役職が導入されたのである!
パーラーメイドは要するに、お客様対応を専門としたおもてなし担当のメイドさんである。普通のお家では、家令や執事の代理としてパーラーメイドが取り継ぎとか来客の対応をする。なので、我が家には家令も執事も居るし、本来なら必要なポジションではないのだけれど……今回みたいに、他家の、それも女性のゲストだけの時には、執事よりもパーラーメイドがご案内した方が良いよね、ということで導入となった。
特に、アルバンの親友コンラートさんは心配性の愛妻家。本当なら他所のお家にモニカさんを一人で行かせるのも嫌なくらいだろう。OKが出たのは偏にアルバンに対する信頼のお陰だし、極端な妻ラブ夫、使用人であれ、妻に他の男性が物理的に近寄ることを忌避しがち。
とはいえ、アルバンやコンラートさんは極端な例だが、世間体としても「女性のみの集まりだったので、応対に至るまで女性使用人のみで行いました」の方が花丸満点ベリーグッドなのは確かだし、厭らしい話だが……家令も執事も居るけど、そこについてもきちんと配慮していますよ、と示すことによって、格式がちょっと上がらないかな〜、という狙いもある。これは我が家にとっても「キチンとしたお金持ちの家ですよ」アピールになるが、同時に、お客様、この場合はモニカさんとカテリーナさんが「それくらい丁重に扱われて然るべき貴婦人ですよ」とアピールすることにもなる訳だ。
仲良くしてくれる人たちのことは大切に扱いたいというのが私とアルバンで一致した意見でもあるし「フリートホーフ辺境伯家は気難しいけど義理堅い」というキャラ付けで行きたいのである。
だって極力社交をしたくないから。
そういうキャラ、というか、家のカラーですよというスタンスでやってれば、仲良くなるのが難しいと認識してくれないかな〜、と企んでいる。
この企み、陰キャとしては上手くいってほしい。
そんな副次的作用を期待しつつ、新たに儲けた役職、パーラーメイドとなってくれたメイドさんたちの案で、まだ朝夕は冷えるので、温室を使おうということに決定。王妃殿下とお茶飲んだりしたぐらいには整えてある場所だし、室内だけど日当たり良いし、文句なしに暖かいのでそこに決定。
流行に敏感でセンスのあるお二人を招くことになるため、テーブルはこうで、クロスはこうで……と、細かい所もお任せ。
あっという間に段取りが決まったので、四日後にお越し下さいと返事を出した。
すると、カテリーナさんから「少し距離があるので、可能でしたら義妹も連れた上で、そちらに一泊させて頂けないでしょうか?」とのお申し出があった。
考えてみると、ファイルフェン領はちょっとここから距離があるし、カテリーナさんお一人での来訪となると大変なので、アルバンに報告した上で、勿論OKですよと回答。
そして、当日を迎えたのだけれど……。
「お久しぶりです、ツェツィーリア様!」
元気いっぱいな様子で現れたカテリーナさんだが、なんとドレスがマタニティ。あと、表情は明るいのに顔、真っ青。義理の妹であるマヌエラさんにぴったり寄り添われてのご来訪である。
し、しまった。カテリーナさん、これ、もしかしなくても妊娠中だし、悪阻が酷い時期だったのか……!
章立てとしては西の国編のスタートとなっていますが、実際に西の国が絡んでくるまでにはまだかなり和数がかかる予定です。
ほぼ全てノリと勢いで作っているため、新しい舞台と新しい登場人物についてはボンヤリ決まっていますが、西の国の名前すら決定していません。
……これから頑張ります。




