第三百十話 VS新納魁世Ⅷ
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アナザー魁世が羽根つき目玉に変貌する少し前。魁世とコガミは決まった型の存在しない、互いにこれまで生きてきた中で自然に会得した、体術とも呼べぬ、体をつかって相手を死なせる格闘を続けていた。
「結界の話だが、爆魔導結界、あれを既に知っていたから即座に防御結界で対抗できた。そうだな?」
コガミの右手、奥手から清々しく美しい一直線の殴打を首を傾けて避ける。
「あれは後方に魔法使いを配置していたから対処しただけで、殆ど反射ですが」
魁世もそれなりに返答した。会話の中で、これから使えそうな情報を引き出すつもりだった。ここで殺す以上はもう敵方の情報を聞き出すことは出来ない。
「ニィロォウ、さてはアレをこの世界全土に展開させるつもりだろ。自爆ではなく指向性さえ与えればどんな存在も、自然法則を強制変更させて爆砕する魔法。全周囲攻守一体の巨大すぎる力。技術の上では逆立ちしても勝てないドミトリーズ世界政府に対抗するには悪くない手だ」
次々と拳撃が飛んでくる。魁世はそれを回避し、とりあえず多少の攻勢にも出るが、一番はコガミからの足技に警戒をしていた。魁世自身がよく足技を使い、何故か一向に足は捌きに徹しているだけなのが不気味だった。
カイザーとも呼ばれる魁世が個人的に戦うことは減ったが、魁世が足技を多用するのには彼の好き嫌いではない理由があった。南奧州ができたばかりの頃、一歳年下のトリフォンから宴席で決闘を申し込まれた際に先制で拳を多用し、それで倒したのだが、宴席も終わって蔦の絡まる古屋敷に帰った際に、血だらけになった拳を桑名鶴夏に見られ、怖がられてしまう。それ以降は拳を使わなくなった。
「ところで、俺様がどうやってこの爆魔導結界を生み出せたか分かるか?」
欺瞞の目潰しが飛んできて、魁世は後方へ宙返りする。
「気合い?」「……俺様そんなに精神論好きじゃない」
この結界の発動方法は魁世が欲する情報の一つだった。これだけ高度の結界を三つ、結果として魁世の手で四つに増えた多重の高密度な結界を発動し維持できる方法は如何なるものか。
「死者の魂、いいや、多くの死者が出た場合にのみ発動できる。そういう条件か」
「ご名答。さすがは強いニィロォウだ。ほんとに出会えてよかった」
コガミは機嫌の良い女子学級委員長な顔になった。
「魂ってファンタジーね。魔法に必要な主な要素は二つ、演算と力。違う言い方なら動力機関とエネルギー。一般的には魔法使いと魔力。この戦場で死んだ兵士、そのまだ温かい脳みそ全てを演算装置に、魔力はおなじく死んで漂う魂を魔力に変換して使った。捨てたらもったいないし、これで世界グリーン・エコ大会で優勝だよな!」
魁世たち大皇国の魔法使い、というよりも殆どの魔法使いが自身の生まれ持った魔力でやりくりする中、コガミは珍しいアプローチを試み成功させた。
しかし死霊を行使する魔法や、死体を魔力を流し込んで動かす魔法といったものは、異世界合同委員会が五百年も昔に魔族と戦う中で殆ど消滅させ、魁世たちのいる現在には継承されていると言えるほど残っていなかった。魔族が死人を生き返らせるという魔法で人を誑かし、騒乱を起こしていたという事例や、当時の委員会が、自分たち以外の魔法の多様性を根絶することで委員会一強の状態をつくろうという思惑が死霊を扱う魔法の根絶を推し進めた。
「うちの委員会には異世界召喚ギフテッドで死体を操れるヤツ、死んだ魂を操れるヤツがいてね。三回ルールでもう三回使っちまった使えないヤツらだったから、もったいないだろ?だからソイツらの能力を喰って会得した。凄いだろー」
コガミが魔法ではなく、委員から奪った能力の使用に拘ったのは死霊魔法には致命的な欠陥が有ったからに他ならない。魂の扱いとは五百年前の抑制される以前の魔法使いであっても難しく、魔法の発動者が逆に死人の魂に引き寄せられて死んでしまう事が多発した。
「おかしいな。今の話が正しいなら結界それ以外の使い方でも良い、そのまま戦力にも出来る」
倫理の事は魁世の頭になかった。死んだ味方の兵を利用したことに腹は立つが、そこを話しても進まない。コガミはすこし伏し目がちになる。
「ここまでしないとニィロォウと二人きりで会えない。それが理由じゃ、だめ?」
話の確証を得るために動機を聞く気があったとはいえ、流石に鼻白む答えに魁世は反射で眉をひそめた。ひそめながら回し蹴りを放つが、コガミはそれを軽く避けた。
「色々と条件があるんだよ。三回ルールだって、昔いた委員会のヤツが能力で設けた制限でな。ソイツは即行で委員会全員にぶっ殺されたが後の祭り。俺様にも限界はある……軽蔑したか?」
昔の話をする際のコガミは、どこか今の戦闘の熱気とは違う熱を帯びていて、たしかに自分だって委員会のメンバーという彼なりの自負を振り撒いてくる。聞いている魁世としては鬱陶しい事この上ないが、自然と口は開いた。
「僕は弱い。だから武器を携帯するし、軍隊を持った。人によっては卑怯卑劣な手だって使ってきた。僕はなにがなんでも全力で戦う人を、そう熱っぽく批判する気はない」
この世に地獄があるのなら、自分は死ねばきっと地獄に落ちる。鳥居のある宗教に触れてきた魁世でも、そのくらいは思う。いくら大皇だ、カイザーだと敬われようと、どんな目的があろうと人を大量に殺すその元締めであることに変わりは無い。
「弱さを自認できるのは良いことだ。その弱さを部下に見せようとしない点も立派だ。ご褒美に一つ先人の失敗を教えておこう」
コガミは聖櫃で再び目を覚ますまで、魁世の頭に入り込むことがあった。だから魁世が他者にどう振る舞ってきたかも知っている。弱さや内面を見せようとしないだけで、けっこう漏れ出ている点もコガミには愛おしく思えた。
「ニィロォウがどのような手法で魔導爆結界、ないしそうしたドミトリーズ対策の魔力をどうやって集めるのか知らんが、天才な俺様はかつて、ドミトリーズ世界政府が派遣した浮遊艦隊を撃退するのに魔導爆結界を使う、そこで支配していた民衆を全部さくっと殺し、出てきた魂をエネルギーに変換することを思いついた。だが残念なことに弱っちい他の委員……あいつ、ドラ公とかヨシムラに大反対されてね」
ここまで状況を動かせようと、コガミ・ガイゼンの傍若無人ぶりだけで封印されたというのは考えにくい。魁世は幾つかの項目で合点がいった。
「そうしてコガミは内部で争った挙句に封印され、残った委員会メンバーはドミトリーズが行った大破壊を全て魔王の仕業、次いでその魔王は封印されたというシナリオで世界を黙らせた。この世界が自衛し、備えるべき敵の存在を無かったことにした」
果たして教皇庁の文書がどこまで正確だったのか、魁世は確認がしたかった。ここにきてコガミが嘘をつくとは思えない。
「なあんだ知ってたのか。さては教皇庁の文書を奪ったな」
「第三勢力、中立を気取って漁夫の利を狙う勢力が好かないだけ。僕は懐の狭い人間なんだ」




