第三百九話 VS新納魁世Ⅶたとえ世界が違くとも
斃れたはずのアナザー魁世の復活、そして変化。目を剥いた藍たちが思考を整理する間も与えず、明可たちのいる下の方から声が張り上げられる。
「あのアナザー魁世は進化形態だ。あれにこの結界を破壊してもらう。八田、説得できるな」
「は?」
藍は赤の他人に撫でられて不審がる豹猫の表情をするが、明可の隣に立つ直は顎をしゃくって急かしてくる。
「俺たちに説明を求めるな。あとで魁世にでも聞いておけ」
藍は渋々アナザー魁世だったモノ、四対八翼の円環大目玉に向かって飛び上がる。うねる黒鉄の触手を走って伝い、恐らく中枢である円環が映る大目玉の真上に足をかけた。
真上にいる藍を排除するでもなく、円環大目玉はただ瞳孔を藍のいる上に向けてくるだけで、何故だか藍はそれに愛嬌を感じてしまう。
だが今はそんな時では無い。藍は円環の瞳にむかって囁いた。
「魁世、この結界を壊して。もし出来たら私があんたを殺してあげる」
すると円環は瞳をすっと閉じて、再び開いたかと思えば八つの大翼を、黒鉄の触手を忙しなく動かし、上昇を始める。同時に他のアナザー魁世たち、ヒメ魁世や隻眼の魁世の遺骸を触手で絡めとって、眼球の下にあるタコのような口にそれらを入れていく。一緒に連れていく。
藍が下に降りると、円環の巨大な眼玉は天井を向いた。そこで大翼と触手の動きに緩急がついていき、まるで目標に照準を合わせていくような動きだった。
円環の瞳は光源のない白い大空間に照らされて、禍々しい見た目からは感じられない神々しさを醸し出す。
「天の降臨だ」
琥太郎の呟きは、多少の違いはあっても、その場にいた明可たちの概ねの感想だった。
円環の瞳にむかって光の粒子が集まりだす。円環の縁に溜まっていき、それが満杯になった途端、大空間の天蓋に向かって極大で玉虫色の光線が放たれた。
あまりの眩しさに明可は咄嗟に手で目を覆う。そこへ耳も覆いたくなる大音量が襲ってきた。
明可たちの目線の先には玉虫色の大光線が天蓋へとぶち当たる姿があって、めりめりと軋みと亀裂を生みながら大空間全体がうねり始め、間もなく光線を増やして空間全体に強力な出力光線を振り撒きはじめた。
明可たち隻眼の魁世と戦ったメンバーからすれば、この空間の天井さらに上に魁世とコガミがいて、そこへ繋がれば良いのであって、なにもこの空間全てに大出力光線をばら撒けとは思っていない。
飛び散った結界の外壁や光線の残骸が飛んでくる。明可たちは避けながら叫んだ。
「神の一撃かよ!強すぎだ‼」
「八田の煽りが効いたみたいだな、このままだとこの空間が維持できなくなる」
明可に直は冷静そうにそう分析するが、もうとっくに槍は構えていて、飛んできた破片を弾いていく。
あまりに想定外の破壊光線に、興壱と琥太郎は投げやり気味な呆れの表情をつくった。
「やり過ぎだろ。藍ちゃんは一体なんて言って嗾けたんだ」
「さあ……そういえば天井の上にぼくらの魁世がいるって伝えたっけ」
「……言ってないな」
男たちの暢気な会話の間に結界に走った亀裂は深くなって、見るからに危険な類の紫色の煙が漏れはじめる。その煙が高濃度な魔力の粒子体で出来た霧と知るのは寧乃と魁世くらいだった。明可は自らの浅い
「まずい、結界が崩落する」
「閉鎖された空間に逃げ場なんて有るか。上に魁世とコガミ・ナントカがいるらしいからな、落ちていく瓦礫を足場にすれば目指せるだろうよ」
堕ちてくる瓦礫を足場に、明可たちが穴の開いた天蓋へと昇っていき、それに気づいた藍たちも奔る。
円環の瞳もようやく周囲の状況を認識したようで、大出力光線を止める。それが合図となった。
「——掛けまくも畏き八翼神の大前に。冀くば照覧冥助を垂れ給はんことを。この矢よ、八翼神を討滅せん——」
「ご褒美だから、殺してあげる」
弓取り興壱から疾風にして大威力の鋭矢が、円環の瞳その中央めがけて放たれる。だがそれより早く、藍が特殊短刀で円環の瞳を真上から突き刺した。
どちらの一手が原因かは判然としない。たしかなのは巨大な円環の瞳が、瞼を眠るようにして閉じ、大翼を休め、黒鉄の触手を垂らした。そうして今度こそ黒い粒子を撒きながら消失をはじめる。
「さようなら。魁世」
藍たち十名は空間のその先を目指した。自分たちにとっての魁世を救い出す。いいや、引きずり出す為に。




