第三百六話 VS新納魁世Ⅳ
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魁世は純白の世界で目を覚ました。
自分が今座った状態で、鉄臭い鎖を何重にも巻きつけられた状態なのを認めつつ、数少ない自由に動く首で見回すでもなく、正面に座るコガミ・ガイゼンを円環の瞳で捉えた。光源も出口もない。
「面と向かって話すのは初めてだな。ニィロォウ」
この結界は二重ではない、三重、いや四重か。コガミが内三つ、最後の外側は僕が一つ構築したが、咄嗟に寧乃と開発していた防御結界を張っただけで、大幕営後方の魔法大隊と演算共有を断たれた僕に魔法はもう行使できない
「どうだ、俺様もけっこうイケメンだろう。今まではニィロォウの頭に入ってからしかコミュニケーションできなかったからな。思う存分見るといい、俺様もニィロォウをたっぷりと鑑賞する」
僕は魔法使いを大量に用意し、その力をつかってあれだけの大魔法を使用できた。だがコガミたち異世界委員会に魔法使いを集めていた情報は無かった。なら、全部自分一人でやったのか
「おい聞いてるのか?どう?イメチェンしたんだけど」
この状態だと僕はコガミを殺せない、なんなら拘束されている今ならコガミから殺される。外にいる昌斗たちフィーリアたちはどうしているんだろう。さすがにこの正体不明の結界へ侵入はしないだろうが、心配だ。いや、案外普通に次の主君は誰にするかの話でもしているのかもな。けど僕はここで死にたくはない、ならどうするか
まずこの鎖を切る
「うーん、人の頭を覗けないのは不便だな。やはりコミュニケーションを空気の振動に頼る方式は問題がある」
雨雪は怒っているよなぁ。明可あたりがどうにかしてくれるとしても、死んだことに備えておけばよかった。前にドラクル公戦で僕が死んだ場合を想定したら雨雪は怒ったからな……嫌だな、会えなくなるのは
「聞けやニィロォウ」
「聞いてるよ。いまお前を殺すにはどうしたらいいか考えていたんだ」
ようやく会話をしてくれて、コガミ・ガイゼンは美彫刻の顔でころころと笑う。
「違うね。いまニィロォウは俺様への悪感情はあっても、どうも殺す気にはなれない。何故ならば俺様とニィロォウは似た者どうしだから。そしてニィロォウは俺様を気付かぬうちに俺様を愛している。どうよこの推理」
「推理?まず証拠を出すべきだろ」
有効な手立てが見いだせない以上、魁世は時間を稼ぐことにした。
「証拠なんて無えよ。ニィロォウは自分の出来ること持てるもの全てを尽くして戦うヤツが好きだろ?榛名を殺した、惟義を殺した俺様は嫌いでも、それで逼塞した状況を変えさせた俺様に対して、委員会の奴らに向ける感情とは別のものを抱いている」
「異世界合同委員会はカス、お前も俺様もそう思っている。宇宙の果てにいるドミトリーズ世界政府を恐れ、技術を後退させ、ぬくぬく国づくりごっこをしている委員会。自分たちの持てる全てをつくしてやる事が抑制と逃避なんてキッショイにも程がある」
「ニィロォウたちが国も持っていなかった時から、片や委員会は国々を支配し、圧倒的な力を持っている筈なのにロクにニィロォウ達を圧倒できなかった。ニィロォウは思った筈だ。もっとやれるって、この程度な筈が無いって」
「すると俺様が現れた。予想つくだろうが万国修好の平和条約を締結前夜に破壊したのは俺様だし、公称・異世界委員会ってことで異種族まで巻き込んで大戦争を指揮したのも俺様だ。ニィロォウは歓喜した、こんなに最高の敵が現れてくれたことに、自分の大切なものを奪い、自分の進む道を阻もうとする、これほど戦うのに躊躇の無い敵に出会えて嬉しかった」
「ニィロォウお前が一番に充実できるのは戦ったとき、強い敵と戦っている時だ。一度ニィロォウたちの命を狙ったドミトリーズ世界政府が存在するとはいえ、正直あれは災害の類。俺様たちは蟻ンコ、小さな世界で資源と誇りを奪い合うちんけな存在」
「だが俺様とニィロォウはそんなちんけな存在であっても命一杯、全力で殴り合える!元いた世界では感じられなかった感情を沸き立たせ、新たな出会いや発見をもたらしてくれる!俺様とニィロォウは相互に求めあう関係にある!」
「俺様はニィロォウと出会えて嬉しかった。きっとニィロォウもそうだって信じている。これが理由だ」
コガミ・ガイゼンからの告白に、魁世は円環の瞳にうっすらと侮蔑を浮かべ吐いた。
「ならまずこの拘束を解いてくれ。僕はお前を殺す気が無いらしいじゃないか」
魔王の顔から笑みが消えた。振り上げられるのはコガミの剛腕。
「ちょっと口の利き方がなってないなあ‼‼」
コガミが魔法で生み出した鎖に拘束されている魁世の顔に向けて、拳が何度も振り上げられてはぶち当てられる。
「結果出すからって調子に乗りやがって!会話も出来ず、人間関係おざなりなのは人間じゃねえ!」
その強烈な殴打に、魁世は歯を食いしばる暇もなく、痛みを逃がす術もない。
「沢山の人と関係をもって、平気で寝るくせに!表面では全員が大事だとか均衡担保だとか思ってんだろうが、結局は他人が踏み込んでくるのが怖いだけだろうが!」
魁世の顔から幾度も血しぶきが飛び、コガミは久方ぶりの憤怒の表情で殴り続ける。
「それでよく組織のボスが務まるよ。ニィロォウの組織は組織じゃない、狼の群れだよ!合理的な風でいつも感情で動いてるし!ああアレか、がむしゃらにやれば人を人と感じずにいられるってか。最低だなあ、物と人の区別がつかなくなるなんて!」
瞳孔を歪ませ、錯乱しながらもコガミは的確に魁世の頬へ拳を衝突させる。どこか声も湿らせ、感情を高ぶらせていく。
「死ね!死ね!もっと感覚で生きろ!へんに理屈付けんじゃねえよ。殺すんだよ。殺されるんだよ。この世はすべてが闘争、ニィロォウが一番よく分かってんだろ⁈」
「そんなんだからいつまでたっても雨雪ちゃんと一緒になれないんだぞ!ちゃんと好きな子全員に責任を持て!最初の相手はもちろん俺様なあ!」
永遠に続くかと思われたその時、魁世は力いっぱいに両足で地面をけり上げ、その場を退避。立ち上がると同時に鎖から緩く脱した。
殴る体勢のままだったコガミは一瞬だけ茫然とするが、すぐに居ずまいを正して円環の瞳に向けて指差した。
「ニィロォウ、もしかして俺様との会話中に鎖を解いたのか。怒らせて周りが見えなくなるのも計算の内で」
魁世の方は口の血を端へ吐き、残りの血を手の甲で拭う。
会話をし、そしてコガミに殴られ続ける間、魁世はずっと己を縛る鎖を解こうと試行錯誤の末、今解くことに成功した。
「拘束する鎖の結びが甘かった。だが、これもコガミの計算の内だろ」
コガミは変わって素っ頓狂な声で返した。
「いや?感覚でやったぞ」
感覚を愛するとはいえ、コガミは残念がった。もっと魁世と話したかった。最早まともな会話は出来ないだろうし、魁世が基本的に近寄る他人を自分の領域に踏み込む異邦人と思い続ける限り、自身に心を開いてくれることは無い。コガミは悲しそうは貌をするも、感覚で習得した体術の構えをとった。
「コレが一番いいかもな。占領し、全てを奪う。俺様もニィロォウを占領してから色々と奪うことにするよ」
肺いっぱいに空気を入れ、コガミは叫んだ。
「最後だ。いくぞ、ニィロォウ!!!」




