【第18話】『 襲撃 』
57.花束の約束【第1章】- The Twilight World -〈第18話〉『 襲撃 』
気がつくと僕は、真っ暗で冷たい牢屋の中でスヤスヤとお昼寝をしていたらしい。その体は壁によりかかって静かに目を瞑っていた。
ここまでの疲れがドッと押し寄せてくる中、僕が目を閉じると天世界で再会した友人達の顔が浮かんできた。
そして、決まって最後に聞こえてくるのは、椎菜の“あの言葉”だった。
僕は半開きになった目をゆっくりと開き、落ち着く様子でフッと笑ってみせた。
「……ったく、叶わないな。」
夢と現実が交錯する中、僕は小さな声で呟いた。
その時だった。
ドゴォォォォンン!!!
けたたましい爆音と衝撃が地下にまで響き渡ってきた。
まるで大きな爆発があったような、地震にも似た衝撃波に一瞬体が宙に浮いた。
「……な、なんだ?!」
あたりは騒がしい。鉄格子の向こうでは慌ただしい兵士達が状況を整理する為に地上へと走っていった。彼らの影が牢屋の中を行き来する様子からしても、今起こった衝撃は只事では無い事が理解できる。
「新兵!!ただちに碧門へ集まれ!」
「今の衝撃なんだ?!」
「知らないよ!!あんな音生まれて初めてだ。」
「まさか敵襲か?!」
「分からん。とにかく地上へ行ってみよう。」
音は今も鳴り続け、次第に大きくなっていく。
その音は地響きのように大きく、小刻みに。そして立っているのがやっとなくらいの揺れが続いていた。
幸い、この牢屋は頑丈で、崩落の危険性は無いだろう。
僕はその衝撃によって完全に目が覚め、意識が回復していた。そして鉄格子を掴み、大きな声で兵士達を呼び止めた。
「ねぇ!今の音は?!何があったの?!」
廊下を走る兵士達は、僕の声にはお構い無しと言わんばかりに過ぎ去っていく。どうやら誰もこの状況を理解できている人は居ないように思えた。
するとそこに、先程まで話していたアルフも走ってやって来た。
咥えていたはずのタバコはどこかに消え、鉄格子越しに見えるその手は小刻みに震えている。あの陽気で余裕のあった看守の姿は、そこには無かった。
「アルフ!!」
僕がそう叫ぶと彼は止まった。
そして先程までの酔っ払った表情とは違い、全身に汗をかきながら深刻そうな様子で僕の方へ振り向いた。
「何が起こっているの???」
彼の顔には恐怖が映っていた。その表情はまさに切羽詰まった様子で、息も荒く、とても落ち着かない顔をしていた。そんな彼の目を見て、僕の声も自然と震えてしまっていた。
「今のは……?」
アルフは神妙な面持ちで答えた。
「分からん!すぐに確認してくる。ここで少し待っていてくれ!!」
彼は焦った様子で他の兵士と共に地上へと走り去ってしまった。一人牢屋の中に取り残された僕は、彼の背中を鉄格子越しに眺める事しか出来なかった。
彼らが急いで地上へ続く階段を登っていく中、僕は現状何も出来ない自分に怒りすら覚えていた。
あれだけシミュレーションして、あれだけ考えて、あれだけ慎重に行動しても、結局僕はいつもこうして蚊帳の外で何も分からないままだ。
僕の脳裏に、あの日の惨劇が想い起こされる。
もしここで、この場所から逃げ出せる力があれば。
上で起こっていることを瞬時に理解できる程の知恵があれば。
この状況を打開できるほどの能力を持っていれば。
そう考える中、地上から地面を伝って聞こえてくる地響きは絶え間なく鳴り響いている。それも少しづつ大きく、力強くなっていた。
僕はその場で、ぎゅっと拳に力を入れた。
落ち込むのも、後悔も、今やるべきことじゃ無い。
どんな時も冷静に、目の前の困難に向き合うしか無い。状況を整理し、想像し、全体を俯瞰して考えよう。
今の僕がやるべき行動は……???
僕は静かに目を閉じ、深く息を吸い込んだ。
ここには居ないはずのかつての友人達の悲鳴が、まだ耳の奥にこびりついている。
その時、僕の脳裏には最悪な光景が想像されていた。もちろんこれは単なる妄想だ、考えすぎであれば良い。しかし、何が起こるか分からない以上は最悪な場合を想定して動こう。
「待ってて。……今、行くから。」
僕はゆっくりと目を開き、軋む鉄格子へと力強く手をかけた。
◆
「何事だ!!!!!!!!」
同時刻、マーフは急いで部屋を飛び出していた。今尚続いている衝撃や爆音の正体を確認する為、すぐに王宮から街全体を一望できるバルコニーへと早々とした足取りで向かった。
その護衛に王宮直属の近衛騎士隊がマーフの前後左右を固め、王族の守護に務める。
「姫殿下、今外へ出るのは危険かと。」
「私達が確認してまいりますので、姫様はどうぞ自室へ!!」
使用人、そしてお付きのイエラ侯爵は姫であるマーフを自室へ戻るように促していた。
それを払い除けるように、彼女は近衛騎士隊達を前に使わした。そして強い目をして、使用人とイエラ侯爵達に言い聞かせた。
「私の国で何が起こっているのか、私が直接この目で確認するのを阻むか。それよりお前達は王宮の奥へ。私は前に出る。」
イエラ侯爵は長年の彼女の側近である。
その彼女の性格は一度言った言葉を曲げない事はよく理解していた。
「イエラ=ライフマン侯爵、頼む行かせてくれ。私はこの国を守らなければ!!」
少しの沈黙の後、イエラは答えた。
「まったく、変わりませんな、姫。では我々も行きましょう。王と共に。」
彼の顔つきが変わった。
その顔を見てマーガレット・アイン・バーディング姫殿下はイエラ=ライフマンを側近に付けて進むことを決意した。
「よし行こう。」
その小さな背中は、本当は誰かにすがりついて泣き出したいほど震えていたはずだ。
それでも彼女は、部屋に置いてきたボロボロの絵本と共に自分の心を封じ込め、『国家の心臓』としての仮面を深く被り直した。例えこの身がどうなろうと、二度と大切なものを奪わせはしないと。
そう言って彼女は歩み、それに騎士や使用人達も後ろに続き付いていく。
そして彼女はついに、この国に迫る新たな最悪をその目に焼き付けるのであった。
最後まで読んでいただき、
誠にありがとうございました。
今後とも、
この作品を完結まで描き続ける所存であります。
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