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隣の席の三間坂さんは、俺の恋を応援するのが下手すぎる  作者: グミ食べたい
第2章 体育祭の三間坂さん

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9/12

第8話 ゾロ目の勝負

 五月になり、高校生になって初めての中間考査も、なんとか無事に終わった。

 一ノ瀬さんとは、ボウリングの後から何度かLINEをしていたが、中間考査が近づくと送るのを控え、気づけばやり取りは途切れていた。試験は終わったのに、なぜか今さら送りづらい。一ノ瀬さんから来ることはないから、再開するなら俺からなのに。

 一方で、三間坂さんからは試験前どころか、試験期間中ですらお構いなしにLINEが飛んできていた。

 そのたびに勉強の邪魔だと思ったし、そもそも本人は大丈夫なのかとも思った。彼女は「普段からちゃんとやってるから問題ない」と言っていたが――正直、怪しい。

 そんなことを考えている今も、現代文の授業では中間考査後、最初の答案返却が始まろうとしていた。俺は内心かなり緊張しているというのに、隣の三間坂さんはいつも通り落ち着き払い、動じている様子がまったくない。


「……三間坂さん、なんか余裕ありそうだね」

「そう?」


 くっ。

 この返し、完全に手応えがあった人間の反応じゃないか。

 もしかして、現代文が得意なのか?


「三間坂さん、現代文って得意?」

「文系はわりとね。まあ、特に苦手な科目もないし」


 ぐっ……なんだその余裕のセリフは!

 俺も一度でいいから言ってみたいぞ、そんなセリフ。

 もっとも、「苦手はない」と言っても基準は人それぞれだ。今の言葉だけじゃ、三間坂さんの実力はまだ測れない。

 答案は、出席番号順で返却されていく。先に呼ばれるのは、俺のほうだ。


「高居」


 先生に呼ばれ、教卓へ向かう。

 受け取った答案をさっと折り、周囲から見えないようにしながら、自分の体で壁を作って点数を確認した。

 ――88点。

 口元が緩みそうになる。90には届かなかったが、なかなかいい。現代文は得意科目だ。これは胸を張っていいだろう。

 少しだけ背筋を伸ばして、俺は席に戻った。


「その様子だと、点数よかったみたいだね」


 三間坂さんが、にやりとした笑みを向けてくる。

 心を見透かされている気がして少し癪だが、この点数なら負ける気もしない。今の俺には余裕がある。


「まあまあ、ってところかな」

「へぇ~。よかったらコツとか教えてよ」

「コツ? そうだな……」


 俺は少し考えてから言った。


「たまにさ、『作者の気持ちを答えなさい』って問題に、『本人じゃないのにわかるわけない』とか言う人いるだろ? でも、あれって人の心の内を当てる問題じゃないんだよ。この文章をどう読み取るのが妥当か、っていう理屈の問題なんだ。感情論じゃなくて、論理で考える。それが大事」

「へぇ~、そうなんだ」


 ……その反応。感心してるのか、適当に相槌打ってるだけなのか、どっちだ?

 本音を探ろうとしたそのとき、三間坂さんの名前が呼ばれた。

 彼女はすっと立ち上がり、答案を取りに向かう。

 先生から答案を受け取るなり、俺みたいに隠したりせず、その場でさっと点数を確認していた。

 ……堂々としてるな。見られるとか、気にしないタイプなのか?

 ここからじゃ答案の中身は見えない。

 せめて表情から手応えを読み取ろうと視線を移したが、三間坂さんの顔はいつも通りで、何の情報もくれなかった。

 ……手強い。


 答案を二つに折った三間坂さんが席に戻ってきた。

 俺は、彼女が腰を下ろすなり声をかける。


「三間坂さん、どうだった?」

「まあまあ、ってところかな」


 むむ。俺と同じ返しをしてきやがった。さすがに、あっさり点数を教えてくれるほど甘くはないか。

 でも、気になる。俺が勝ってるのか、それとも負けてるのか。たまにははっきりと、「俺のほうが上だ」って実感したい。


「……何点くらいだった?」

「高居君が教えてくれたら、私の点数も教えるけど?」


 ちっ、そう来たか。

 ギブアンドテイク。正論だ。

 だが、点数をはっきり言うのは、リスクが高い。万が一負けてたりしたら、精神的ダメージがデカすぎる。

 だけどやっぱり、気になる……!

 はっきり言わずに、探る方法はないのか――

 ……そうだ。


「……正確な点数は言えないけど、ヒントならいいよ。僕の点数、ゾロ目だったよ。三間坂さんもヒントちょうだい」


 さすが俺。

 これなら、点数を言ったようで言っていない。ゾロ目と言っただけで、11から99まで可能性は多岐にわたる。しかも、これで三間坂さんもヒントを返さざるを得なくなった。

 俺のような無難なヒントを咄嗟に返せるはずもなく、点数を推測できるようなヒントを出してくるはずだ。

 さあ、三間坂さん。迂闊なヒントを、この俺に出すがいい。


「あー、一緒だね。私もゾロ目」


 ……は?

 俺の期待をあっさり裏切る、まさかの同一ヒント。

 とはいえ、状況は少しだけ整理できた。

 今回の現代文のテストに、1点問題はなかった。つまり、99点はありえない。

 また、彼女の余裕ある態度からして、66点以下というのも考えにくい。

 つまり、残る可能性は、77点か88点。同点か、俺の勝ちか……この差は大きい。

 なんとかこの勝負を確定させたい。

 ただ、これ以上踏み込むには、俺が自分の点数を明かす必要がある。

 言ってしまうか?

 …………。

 ……いや、無理。

 やっぱり恥ずかしい。

 結局、俺は自分の点数を差し出す勇気が出ず、彼女の点数を知るのを諦めた。


「……ふぅ」


 小さく息を吐く。つくづく小心者だと自分に呆れる。

 俺は、三間坂さんの手元へと視線を落とした。


「――――!?」


 ちょっと待て。

 今、ちらっと見えたんだけど……99点って書いてなかったか!?

 ――いや、落ち着け。

 今回のテストに1点問題はない。それは間違いのない事実だ。きっと見間違いだ。そうだ、66点だ。66点を逆向きに99点と見間違えただけに決まっている。

 早鐘を打つ胸を押さえながら、俺はもう一度、先生の解説を聞いている三間坂さんの机に目を向けた。

 点数の部分は隠れている。だが――答案の中に、赤い「△」が見えた。


 ……△だと?

 そうか。

 2点問題で△なら――1点。

 つまり。

 99点は、あり得る。

 ……え。

 最初の中間考査で、99点……?

 三間坂さん、まじかよ……。あんなに無意味なLINEを大量に送りつけてきていたのに……。


「……三間坂さんって、塾とか行ってる?」


 うわずった声で聞いていた。塾通いと独学、それならこの差も納得できる。そうだ、きっとそうに違いない。


「ううん。行ってないよ~」


 くそっ、まじかよ。だったら――


「じゃあ、家庭教師を頼んでるとか?」

「にゃはは。そんなわけないじゃない」


 嘘をついている顔じゃない。後ろ暗いところがある奴は、こんなふうに笑えない。

 条件は同じってことかよ……。

 だとしたら、何の差だ? 何かとんでもない勉強法でも持っているというのか?


「……三間坂さんって、どんなテスト勉強してるの?」

「ん? 普通だよ」


 簡単には手の内を明かさないってことか。それはそうだろう。


「なに? もしかして、一緒に勉強したいとか? 期末のときは一緒にテスト勉強してみる?」


 三間坂さんが目を細めて、にやりと笑った。

 きっとこれは挑発だ。勉強しているとこを見せても、俺にはその秘密なんて暴けやしないという、彼女からの挑戦状に違いない。実に三間坂さんらしいやりかただ。

 ……いいだろう。その挑戦、受けてやろうじゃないか。


「……うん。よろしくお願いします」

「え……?」


 なぜだろう。自分から持ちかけてきたのに、三間坂さんが目を丸くして、ぽかんと口を開けている。

 どういうつもりだ?

 もしかして、挑発に乗ってくるとは思っていなかったのか?

 三間坂さんめ、俺のことを甘く見すぎていたな。昔の俺ならともかく、今の俺は、一ノ瀬さんとだってLINEを続けられるほどの男に成長している(最近はできてないけど)。挑戦を堂々と受けるだけの度量をすでに持ち合わせているのだよ。


「期末のテスト勉強、楽しみにしているよ」


 胸を張って言ってやった。


「……うん。……楽しみ」


 ん? なんだその赤くなった顔は?

 ははん。さては、焦っているな。俺に秘密を盗まれるのを恐れているな。

 ふふふ。今から期末が待ち遠しいぜ。


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