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悪役令嬢は、なぜ必ず処刑されるのか  作者: たくわん。
第二章「令嬢たちの噴水」

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 セレナ・ダグラスの処分は、王国捜査局とダグラス家、そしてバークレー家を交えた話し合いに委ねられた。


 オフィーリアへの偽証教唆、および令嬢への傷害。事情を知ったバークレー男爵は激怒したが、オフィーリア自身が「もう、これ以上は誰も傷つけたくありません」と静かに訴えたこともあり、公にはならない形で決着することになった。ダグラス家の困窮という背景も鑑みられ、社交界からの正式な処分と、両家の間での謝罪という形で収められることになった。


 その報告を受けた日、エルディアはセレナと最後に顔を合わせる機会を持った。


「……この度は」


 セレナは、深く頭を下げた。以前の優雅さは鳴りを潜め、憔悴した表情だけが残っている。


「あなたが追い詰められていたことは、理解したわ」


 エルディアは、静かに言った。


「家のために、必死だったことも。……でも」


 一拍置いて、続けた。


「それは、オフィーリア嬢を利用していい理由にはならないでしょう」


 その言葉に、セレナは唇を噛み、何も言い返さなかった。理解と、赦しは違う。エルディアは、その線を最後まで引き直すつもりはなかった。


「……はい。仰る通りです」


 セレナは、それだけを言って、静かに退室していった。




 数日後、オフィーリアがヴァレンティア公爵邸を訪れた。あの日とは違い、しっかりとした足取りだった。


「この度は、本当に……申し訳ございませんでした」


 深々と頭を下げるオフィーリアに、エルディアは扇子を軽く開いた。


「あなたが謝ることではないでしょう。誘導されたのは、あなたのせいじゃないもの」


「でも……」


「それに」


 エルディアは、少しだけ口の端を上げた。


「あなたのおかげで、私の周りの人間の力量がよく分かったわ。感謝しているくらいよ」


 その言い方に、オフィーリアは戸惑ったような、それでいてどこか安堵したような表情を浮かべた。


「どうして……そこまでしてくださったんですか?」


「勘違いしないでちょうだい」


 エルディアは、扇子で口元を隠しながら言った。


「私は、自分の名誉のために動いただけよ。悪役令嬢が、身に覚えのない罪を着せられたまま黙っているなんて、あり得ないでしょう」


 いつも通りの、突き放すような言い方だった。だが、去り際、エルディアはふと足を止めて振り返った。


「……今度からは、自分の目で見たものだけを信じなさい。噂ではなくてね」


 その一言に、オフィーリアは目を潤ませながら、深く頷いた。




「エルディア様に、御礼を」


 バークレー男爵は、あの日の剣幕が嘘のように、恐縮しきった様子で頭を下げていた。


「娘への疑いだけでなく、あなた様への疑いまで、こうして晴らしていただいて……。何とお詫び申し上げればよいか」


「男爵が謝ることではないわ。あなたも、娘を思っての行動だったのでしょう」


 エルディアがそう言うと、男爵は何度も頭を下げながら、屋敷を後にした。




「よう、悪役令嬢様」


 庭に出ると、レオンが待っていた。相変わらずの軽い調子で、木陰に寄りかかっている。


「お前、本当は最初から心配してたよな。あの子のこと」


「……別に」


「別に、ね」


 レオンは肩をすくめて笑った。エルディアは扇子で顔を隠すようにしながら、視線を逸らした。誤魔化しきれていないことは、自分でも分かっていた。


「王国捜査局としても、今回の件は勉強になりました」


 少し離れた場所から、ノアが静かに歩み寄ってきた。


「証拠の積み重ねと、証言の食い違いから、事件の全体像が見えてくる。……エルディア様の推理は、的確でした」


「あなたの検証があったからよ。私一人では、途中で見失っていたわ」


 エルディアが素直にそう言うと、ノアは珍しく、わずかに口元を緩めた。


「今後も、何かあれば協力を仰ぎたいと思います」


「望むところよ」


 二人の間に、以前よりも確かな信頼が芽生えていることを、エルディアは静かに感じ取っていた。




 夕暮れ時、エルディアは一人、王宮の庭園に足を運んだ。


 あの噴水は、何事もなかったかのように、静かに水音を立てている。


 水面が、風に揺れていた。そこに映る自分の顔を、エルディアはしばらく黙って見つめた。


「悪役令嬢、ね……」


 小さく、そう呟く。


 レオンも、オフィーリアも、もうここにはいない。それでも、噂というものは、姿を変えながら、人を静かに水底へ引きずり込もうとする。今度は自分ではなく、また別の誰かを。


 けれど、今回のように、誰かがきちんと確かめ、事実を積み上げていけば、その水底から引き上げることもできる。


 エルディアは、そのことを、身をもって知った。


「まったく……面倒な噂だこと」


 水面を見つめながら、エルディアは、ほんの少しだけ笑った。


 その笑みは、悪役令嬢と呼ばれる少女にしては、あまりにも穏やかなものだった。


第二章 完

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