語学訓練所
数日後、新校舎が出来上がった。
校舎の名前は『語学訓練所』というものだ。これは桃源郷にある全ての国籍・言語の女性たちを集めて言語教育を行う施設だ。
ただ今回も建設中に数組ものカップルが出来上がってしまった。なんなんだ?現場を出会い系か何かと思ってるのか?
そんな甘酸っぱい青春時代なんて高校以来何十年も経ってんだからもっとまじめに仕事してくれよ。と心の中でツッコむうさちゃん。
しかし、これが功を奏するとは思わなかっただろう。
語学訓練所を開催することになったわけだが、最初は日本語の会話授業を行った。といっても簡単なもので『私は○○です』『僕は〇〇です』といった基本的なフレーズのみ。
そして、その後は英語の授業である。こちらも簡単なもので『How are you?』『I'm fine thank you and you?』とかそれくらいのものだ。
その日のうちに授業は終わった。
「いや~楽しかったねえ」とうさちゃん。
「ええ、すごく有意義な時間でしたわ」と金智英も満足している。
「それにしても、まさかこんな形で母国語が共有できるとは思ってなかったよ」と驚いているうさちゃんに
「ええ、私もビックリしましたわ」と答える金智英。そして
「しかし、この調子で続ければいつかはすべての人々が同じ言葉を使えるようになるかもしれませんね」という希望的観測を述べる。
「そうだね。これで少しは会話も楽になりそうね」
「Oui」
―――そうなんですね。日本語で回答しようと思いましたが、私はフランス生まれなのでフランス語でお答えします。ちなみに私の名前は『シャルロット・デュモン』と言います。好きなものは美しい景色を見ることで、趣味は料理を作ることです。特技は日本料理を作る事で、将来の夢は自分のレストランを持つことです。
「うわぁ~凄いわね、こんな短期間でここまで出来るようになるなんて」
と感心する金智英に対し
「うん、この調子なら将来的に異国の方とも話せるようになるかもね」と喜ぶうさちゃん。
「そうですね。私もがんばらないと」と金智英もやる気に満ち溢れている様子だ。
そして、数日後の語学訓練所では
『Je voudrais aller au restaurant japonais.』
――私は日本のレストランに行きたいです
『Non,je vais aller chez moi.』
――いいえ、私は家に帰ります
とフランス人の生徒が『Yes』『No』を使いながら日本語で会話していた。
「凄いわね。数日でここまでできるなんて」と感心する金智英。
「本当ね。日本語って意外と覚えやすいのかもしれないわね。それにみんな積極的に学ぼうとしてくれているし」とうさちゃんも嬉しそうだ。
「それに比べて、どうして日本人や英語圏の人達って覚えが悪いのでしょうかね?」
と智英は疑問に思った様子。
「多分、英語は世界中のどの国でも大抵使えるから無理して覚える必要性がないと思ってるからでしょうね。日本人の方は例え外国語を覚えなくても海外へ行かないなら事足りるからだと思うわ」と答えるうさちゃん。
「なるほど」と納得する金智英。
その後も授業が続き、数ヶ月後にはほとんどの生徒が日常会話が出来るレベルになっていた。
「いや~凄いわね」と喜ぶうさちゃんに
「ええ、これでようやく本当の意味で国境を超えることができるようになりましたわね」と金智英も満足げな様子だ。
こうして、語学訓練所の目的は達成された。
##### 温泉にて
「ふうっ、最近は本当に忙しい日が続くわねぇ‥」とうさちゃん。
「色々ありましたからね。自動車ブームにステラさんの結婚。CADやNCに語学学校建築に裸町の市長交代…。本当にお疲れ様です」と夢華が労う。
そこにステラが入って来る。
「ス、ステラさん、…ど、どうしたのよ。そのお腹?」と姚晨が叫んだ。
「どうしたもこうしたも妊娠よ。妊娠」と言いながら湯船に入るステラ。
「そういえば、結婚式は挙げたけど妊娠は報告してなかったわね」と智英も湯船に入ってきた。
「ま、まさか……出産とか考えられるの?」と驚く姚晨。
「ええ、もちろん」と平然と答えるステラ。
「しかし、妊娠て…いくら何でも早すぎない?まだ結婚して8か月ちょっとじゃなかった?」と絶句する姚晨と夢華。うさちゃんも唖然としている様子だ。
「え?そんなに驚くことじゃないでしょう?普通のことよ」と事もなげに言うステラ。
「いえいえ、普通じゃありませんって‥」と夢華がツッコミを入れるが、ステラは
「私は別に早く結婚したくて焦っていた訳じゃないけど、ずっと一緒になりたかった人と結ばれて幸せだもの」と言い切る。
そして
「それに、子供を作るのは私の願望だったからちょうど良かったわ」と言い放つ。
「うわぁ……」とドン引きする3人だった。
「でも、ステラさんはいつからそのお腹のサイズなのですか?」と金智英が聞くと
「つい先週くらいね。そろそろ臨月を迎えそうなのよ」と答える。
「それって……早すぎない?」と心配する夢華に対して、ステラは
「まあ、流石に生まれてくるのはまだ先なんだけどね。それでもあと1ヶ月か2ヵ月もすれば産まれてくると思うわ」
とあっさりとした態度である。
「それにしても、随分大きなお腹になってるわねぇ……」とうさちゃんが関心する。
「ええ、最近急に成長しちゃって大変なのよぉ〜」と困り顔を見せるステラ。
「でも、まだまだお腹が小さい方ですよね。人によってはもっと大きな人も居るんですよ?」と夢華がフォローを入れる。
「そうなの?じゃあ大丈夫かな?あまり食べ過ぎないように気を付けないとね」と言うステラ。すると
「ああ、でも赤ちゃんのこと考えたら食べないといけないんじゃないですか?」と指摘する智英。
「確かにそうだね。いっぱい栄養を与えないと可哀想だね」とうさちゃんも同意する。
「えっと‥じゃあ控えめに食べます……」と照れながら答えるステラに
「まあ、ほどほどにするといいわよ」と微笑むうさちゃん。
「そうね、ほどほどにするわ」と笑顔で答えるステラ。
「それにしても、ステラさんは幸せそうですね」と智英が言うと
「ええ、私はとても幸せよ。ずっと一緒に過ごせるし、家族も増えたしね」と幸せを噛みしめる様子のステラであった。が
「なんだかこの様子だとすぐに二人目も生みそうだよね」
「まあ、そうかもしれませんね。実はもう計画は立ててるんですよね」
「いやいや、まだ早いでしょう。」と夢華が言うと
「そうでしょうか?私はそろそろ準備を始めるつもりですけど」
「‥‥」
「それでは失礼します」と言い、うさちゃんを残し4人は浴室から出たのだった。




