サハラ砂漠へお引越し
ある日、李玲玉は伯遠平主席ににヒミコ様には内密に呼ばれることになったので出向いていった。
「実はだな‥」と主席は話し始めた。
「実に言いにくい話だが…ヒミコ様とヒミコ教信者の方々にはこの国を出て行って欲しいのだ」と言って来たのだ。思った通りだ。いずれこうなるであろうことは李玲玉は予想していた。だがそれでもショックであることに変わりはない。
「心中お察しいたします。理由はヒミコ教の影響力が強くなりすぎたことですよね。この国は一党独裁の共産国。その党首を上回るような影響力者は邪魔だ。つまりはそういう事でしょう?」
「君はどこまでも察しが良いな。実にやりにくい」
「その通りです。あえて申し上げますがヒミコ様には私の意志で移住していただきましょう。中国以外にだっていい場所があると思います。ヒミコ様に直接お話されるよりかは良い結果になるかと」
「すまない。本来ならば私自身が言うべきことなのだが。ヒミコ様は怒ってここに攻撃するかもしれないと思ってな」
「はい、それは間違いありません。しかもご存じの通りヒミコ様の怒りは尋常じゃないものですから。この国が破壊され尽くします」と断言した。
「そこを何とか鎮めて貰うためにも君に頼んでるんだよ。それにヒミコ教の者たちの処遇についても考えていてくれると助かる」
「ええ、それは大丈夫ですよ。おそらくほとんどの者はヒミコ様に従うでしょうし、仮にそうじゃなくてもヒミコ教はヒミコ様を除けば普通の人間ですから私1人でもなんとかなります。中国本土以外の場所に移動させます」
「すまんな。面倒をかけるがよろしく頼むよ。こちらとしては資金援助ぐらいならいくらでもできるのでやってくれないだろうか?」
「分かりました。ではそういうことでよろしいですね」と確認を取った。
「ああ、それで構わない。頼んだぞ」と言ったので
「では失礼します」と一礼してからその場を後にした。
ヒミコ様を追い出すようなことが起こるとは想像の範疇とはいえ、こうなってしまった以上は仕方がないだろう。とりあえずヒミコ様をどうなだめるかだ。
いきなり引っ越ししたいと言うと絶対に怒り狂って中国本土全土を消滅させる勢いで暴れまわるだろう。下手をすれば世界を破壊し尽くすかもしれない。まあ人間の餌がないと餓死するからそこまでしないとは思うが。
その前に別の国を探すのが先決だな。それに中国と違ってヒミコ様を受け入れてくれる国の方が少ないだろう。どうしたものかなあ‥。
「さて困りましたね」と呟く李玲玉だった。
結論からいって李玲玉はヒミコを説得することには成功した。
成功したというよりもヒミコの方から言って来たのだ。
どう切り出そうかと悩みながらヒミコの所へ行ったのだが
「あのさー私、引っ越しするわ!後はお願いね!」突然の引っ越し宣言である。
「へ?いや、また急にどうして?まさかもう話がいったのですか」と驚きを隠せない。
「え?話?話って何?」どうやら何も知らないらしい。本当に偶然思い付きで言ったようだった。
「いや、何でもないです。いったいなぜ?しかし引っ越すってどこにですか?」と驚きを隠せないでいる。
「サハラ砂漠よ!もうここにいると私を食べろっていうよくわからん女達の訪問が鬱陶しくてさ。静かなところへ引っ越すわ。」と言いながら身支度を始めた。その顔は笑顔で今までにないくらい楽しげだ。彼女にとって引っ越しは嫌ではなく楽しみになっているようだ。
「そうですか。でもなんでサハラ砂漠なんかに……あそこは人里離れた辺境ですよ」と心配そうに言うが
「ああ、それなら問題ないわ。餌も保管庫ごと凍らせて持ってくから♡」
「なるほど。では私もお伴させていただきますね」と李玲玉も同行を決意する。
「いや、来なくてもいいけど」と気楽に言い返されてしまう。
しかし李玲玉の目的は餌の補充係だ。またヒミコの細胞活性化で若いままでいたいのもあるが。
こうしてサハラ砂漠に引っ越すための準備を始めた。ヒミコ教の信者の中にもついて来る者が多数いたのでそれはたまらんと餌のたくさん入った保管庫を凍らせて地面から土台ごと引き抜き持ち上げてとっとと飛び去ってしまった。
そして引っ越しが完了した。
サハラ砂漠に到着したヒミコは感動していた。
「やったあ!ついに来たわ!ここが新しい私の住処ね!」と飛び跳ねて喜んでいた。そして大量に保管庫の冷凍餌も何十個も運び込んできて大量にある。ここはサハラ砂漠のど真ん中、周りにはインフラ設備はもちろんの事、水もなく超高温地帯だったが水なんて雪女だから簡単に作れるし気温も冷気を放ち適温まで調節すればいいだけでさほど不自由はなかった。住処も氷で作ればOKだし。
こうしてサハラ砂漠での生活が始まった。
食事の男さえいればそれで充分なんだ。いや食事の男さえあればいいというべきか。
「いやー久しぶりの一人はいいなーあ。李玲玉ちゃんもついてきたがっていたが置いてきちゃったし。まさかこんな砂漠のど真ん中まで追いかけて来ないわよね」
そう言いながら保管庫に入っている冷凍の餌を食べながら言う。今では食料には全く困っていない。なんなら100年分はあるかもしれない。たまに狩りに出て手ごろな男を狩るだけで良いのだから。
「やっぱ一人はサイコー!」と上機嫌だった。
しかし予想とは裏腹に李玲玉を筆頭として信者一同探し出し気満々で中国本土を出発していたのだ。
これは後にわかるのだが砂漠の奥地に来てしまっていたので完全に迷子になり捜索は難航してしまうのだが……。
さて、そんな一人暮らしを楽しんでいるヒミコの生活は至ってシンプルなものだった。朝起きたら冷凍餌を1人食べて保管庫を閉め日光浴をして昼は砂漠の中に埋もれている泉で水浴びをして夕方に再び餌を1人食べて寝るというまさに砂漠生活者としては理想的なライフスタイルであった。しかも時たま雪女らしく雪を降らせたりアイスクライマーの如く氷壁を作り上げて遊んだりしていたのだ。まるで幼い子供のように遊ぶヒミコ。そんな子供っぽい性格のヒミコが可愛くて仕方なかった。
とまあこんな感じでほぼ自給自足の生活を送っていた。が、ついに信者たちがたどり着いてきたのだ。素晴らしい根性だ。ここまでしつこいとは思わなかったのだから。そして
「ヒミコ様ああああぁぁぁーー!!!」李玲玉の大声が聞こえてくるではないか!もう逃げようがないと思い観念して氷の住居に招きいれた。
みんなオアシスについたかのようにだらしない格好をしはじめた。
「ふうーーー、ハァ、ハァ、やっと着いた。ハァ、ハア、お久しぶりでございます。ヒミコ様」
「いや、久しぶりって‥なんでここがわかったのよ!」と驚愕しながら聞くと
「そりゃあもちろんこの私がヒミコ様を追い求めて走り続けたからに決まってるじゃありませんか。もうこのサハラ砂漠は私がヒミコ様を追い求めて走ったおかげでどこにいるか把握しきったものですよ」と得意げに話す李玲玉を見てヒミコは呆れていた。
だが同時にここまで自分のことを考えてくれる人がいるというのは素直に嬉しかった。
正直彼女とその他の信者がここまでして探してくれるとは思わなかったからだ。だからこうして見つかった時は嬉しさ半分、困惑半分といった心境だったのだ。
「もう!しょうがないなぁ。じゃあ私の新居にお招きしますよ」と李玲玉を新居に招待することにした。新築の家に人が訪れてくれた時の嬉しさたるや‥。
一人暮らしもいいけどたまには来客がいたほうがいいなと思うヒミコなのだった。こうしてヒミコと李玲玉と数人の信者達の生活が始まることとなった。
「しかしたどり着いた時は普通に歩いてきたように見えたけどまさかずっと歩いてきたの?」とヒミコは尋ねた。すると
「はい。歩きましたとも、砂漠の奥地に入ってもヒミコ様を探して歩き続けましたとも。いやあ大変だったんですよ」と笑顔で語る彼女を見てヒミコは恐怖を感じた。
「え?!歩いて?!この広大なサハラ砂漠を?!正気の沙汰じゃないわ。信じられない……」とヒミコは唖然としていた。
どうやら彼女はかなりの変わり者のようだ。
「まぁでもそれだけヒミコ様の事を愛してるのでございます。我が心はいつもヒミコ様と共にあります!ですので私も一緒に住まわせてもらえませんか」と熱弁してくる彼女を前にヒミコは苦笑いを浮かべていた。
「わかったわよ。そんなこと言われたら断れないじゃない」と了承するしかなかったのであった。
しかしそれが間違いだったと気づくことになる。教団には莫大な資金があるのだ。李玲玉は再びヒミコの元を離れたと思ったら建設工事を発注していたのだ。そのため砂漠のど真ん中だというのに資材が運ばれ、住居はもちろんの事。貯水場まで作ってしまったのだ。しかしいくら何でも水を引くわけにはいかないのでヒミコに頼み雪や氷を大量に出してもらい溶かしただけなのだが。おかげで農作物も育ち普通の人間でも快適に暮らせるレベルになってしまった。
そして李玲玉は
「はい。完成しましたよ」と得意げに言ったのだった。こうしてヒミコは砂漠生活者ではなくなってしまったのである。




