餌認定して感謝され困惑してしまう
「何よ。うるさいわね!邪魔しないでよね!」不機嫌そうな声に変わった。
「いえ、邪魔するとかそんなのではなく…ヒミコ様、あのパーティーで食べ残しの男性が3名ほどいましたけど彼らはどうするのですか?常々言ってましたよね。食品ロスだけはするなって。あのまま生かしておくんですか?一度準備したものはきちんと食べろとご自身で言ってたのに。」と注意してきたのだ。
「あっ‥」と固まるヒミコだった。確かにそう言った覚えはあるがまさか今ここで言われるとは思っていなかったようだ。
しかし言われてしまうと仕方がない。ここは一旦男の主人を保留するしかなくなる。
「仕方がないわね……あいつらが私の胃袋に入るまで待つってのじゃだめ?」と主人夫妻に確認すると
「もちろんです。ありがとうございます」と感謝した。
「あと、優先的に犯罪者を先に食べなきゃって言っていましたよね。それに最近は供給過多になって来てるので食べる順番を作製して記録しておけって言われたから作っておいたんですけど見てください」
と一枚の紙をヒミコに見せてきた。そこには大まかにだが食べる順番の名前が書いてあった。こんなに餌があるのかと喜んではいたがすぐに気を取り戻した。が
「はいはい、わかった。じゃあこの人を一番最後にして!いいわよね」と有無を言わせずに紙に書かれた名前の一番下のところにその夫の名前を書き加えていた。これでとりあえず安心だ。
「これで助かったって思わないでよね」と言いながら旦那の腕に手のひらをかざすと手の平ほどの大きさで33と言う文字が書かれていた。
「これはね、あなたの寿命よ。一年ごとに数字が一つ減っていくわ。0になった年はあなたが食料になる年ね。いい、絶対食べるからね。病気や怪我をしても無駄だからね。健康体に戻しておいしくいただくから。それにその位の年齢の方が脂がのっておいしいのよね。若いのもいいんだけど経験値が低くて精力の味も落ちるし」と脅迫してるんだか、最強の保険をかけてるんだかよくわからないことを言い出した。ヒミコの寿命はけた違いに長いので33年のとらえ方が人間と違うからなのだが。
「熟したら、その時は容赦なくいただいてしまうから。女はまずいから食べないけどね。うふふっ♪楽しみにしてなさい」と言っているあたり本当に食べる気満々なようだ。が
「ありがとうございます。ああ、女神様…本当にありがとうございます!」と言いながら母親はヒミコに抱き着いて感謝の言葉をのべ
「お姉ちゃん、ありがとう!あ、ごめんなさい、女神様でしたね」と娘も腰に抱き着いてきた。
「いや、こら、抱き着くな…鬱陶しい!絶対変だろ、お前ら、父親が食べられるんだぞ!許すなんて言ってないんだぞ!」とヒミコは叫んでるが感謝の気持ちが治まらないようだ。
ヒミコはいつのまにか夫婦の女神となっていた。感謝しすぎて3人ともヒミコ教団に入るとも言いだした。
「なんなのこれ?この家族っておかしいの?食べるって言われて喜ぶなんて」と李玲玉に尋ねてきた。確かに普通に考えて変だと思う。
「これもヒミコ様の魅力のうちじゃないですか?」と答えるが時間の感覚という根本的な概念が違うのでわかりようがなかった。ヒミコにとって33年なんてほんの一瞬なのだから。
そしてヒミコ教団にはあの家族の噂を聞きつけて、自分の命を差し出すから我が子を、我が妻を助けてほしいという旦那や父親と名乗る人物が飛躍的に増えてきてしまったのだ。
何と言っても一番のメリットはヒミコ自身は勘違いしてるのだが男性側からしてみれば妻や子供を助けてくれる事はもちろんだが餌としての自分も健康体に戻してもらえるうえ順番待ちである程度保険付きで生きられるのだ。しかも若いほど熟すのを待つため順番待ちが遅い。逆にあまりにも年配者になって来ると冷凍保存などになってくるのでそれは嫌だからこの場で食べて欲しいと願い出る男性さえ出てきた。
ヒミコにとっては嬉しい誤算なのだが
「おかしい、絶対おかしいって、なんで食べるって言うとみんな感謝するのよ!食べるのよ!殺されるのよ!」と気持ちが1ミリも解らないヒミコにとっては謎でしかないのだ。まあ確かにそうだ。人間にとっての養鶏場と同じだ。普通、鶏の雄なんて誰も食べたがらないのと同じだ。そしてその食べたくもない雄のために雌が命を張る気持ちが解らないようなものだ。人間からすれば現実世界で鶏が鶏を助けるために命を張るなんて想像もつかないし例えあったとしてもその概念のない人間からしてみれば理解できない行動に見えてしまうだろう。
なのでヒミコにとってもその理解できない行動を起こすのが人間だと言う事実に困惑していた。
ヒミコの頭ではまだよくわからないでいた。
「ああ!もう!わけがわからない!」とうとう頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。それを見ていた李玲玉が慰めるように声をかけてきた。「まあまあ、落ち着いてください」と言って背中をさする。
「落ち着けと言われても……。私にとって餌が増えるのは大歓迎だけど」
「しかし視点を変えてみると面白いものですね。人間側が自分を食べろ!好き嫌いするな!と狂気じみて切れてる反面、捕食する側がいや食べられるという事は死ぬんだぞ!と正論をかましてる光景が妙にツボにハマるって言うか」と李玲玉は奇妙な正論をかましてきた。本当にそう思うとしか言えないのだ。ヒミコ自身もそれは理解しているつもりではある。
ただ自分の感性が違うだけだ。人間とは常識も考え方も全然違うものなのだ。でもヒミコにとって幸運なことにヒミコを敵対視する者がいなくなったのだ。むしろみんなから好かれる存在になっている。これほど嬉しいことはない。
ただもう一つヒミコにとってのみだが困った問題があった。
「ねえ、李玲玉」
「なんでしょう?」
「これ、私が持っていても使い道もないし邪魔になるだけだけだからあんたにあげるわ!」そう言って差し出したのは莫大な金額のお金と金銀、宝石や名画などの財宝だった。
ヒミコから見たらゴミクズでしかないのだが人間にとっては喉から手が出るほど欲しい代物の山だ。そしてそれらをヒミコに進呈した人間たちの殆どがもう餌になって消化されてしまった。つまりは
「ええっと‥」李玲玉も戸惑っているようだ。まあ当たり前だろう。
「あのね‥、貰ったはいいが‥いや、お布施のつもりなのかいらないって言ってるのに、みんな勝手に置いていったんだけどね。こんなのいらないし、人間のあなたなら興味あるだろうから」
「ああ、なるほど……。わかりました。ではありがたく頂きます」と言って受け取ってくれた。
「ふぅー、良かった。これで片付いたわ」
「でもすごい金額ですね。こんなのどうやって保管しておくつもりですか?それに銀行口座も作りませんよね?」
「別に私は人間界に介入するつもりはないし狙ってくる者もいないし。こんなにわかりやすいところに置いてるのにね。邪魔だから押し付けてるの。好きにしなさい」とは言ってるがどう見積もっても軽く数千億円はいくレベルだ。逆にそのレベルのお金が放り投げてるような状態でもヒミコ相手に盗みなんて怖すぎて狙うような者などいる訳もない。
それでもまあ受け取ったので後はヒミコ教団の資金源として活用している。だが李玲玉も個人的には資産は増やしているのだがヒミコと一緒にいられるだけで幸せだし、ヒミコがいなくなると健康体にできないので彼女としてもヒミコの近くにずっと居るという選択肢しかなかったのだ。ヒミコはもう寿命の概念のない存在だしそれが永遠に続くからだ。ヒミコは不老不死といっても過言ではない。ただ餌の男がいなければ死んでしまう(?)だけなのだ。そう考えると逆に人間の方が餌としては上等な生き物なのかも知れない。
だが一つだけ李玲玉にも懸念材料があった。のちにその懸念は現実のものとなるのだった。




