本名がうさちゃんに…
「では、治療していただくという事で宜しいですね?」
玉兎は嬉しそうに聞いた。
「うん、わかったわ。ただし条件があるわ」
「なんでしょうか?」
玉兎は恐る恐る聞いた。
「まず一つ目は、このことは他言無用ということ」
ヒミコは鋭い眼光で玉兎を睨みつけた。
「わかりました。絶対に口外しないと誓います」
「二つ目は、その夢華さんという人を必ず連れて来る事ね」
ヒミコは厳しい口調で言った。
「はい、了解しました」
玉兎は不安げに答えた。
「あと三つ目は……」
ヒミコは少し間を置いてから言った。
「これからは玉兎ではなく本名をうさちゃんにすること!」
「へっ?」
玉兎は素っ頓狂な声を出した。
「おーし、決定!あんたは今日からうさちゃんだ!」
ヒミコは嬉しそうに言った。
「え、ちょ、ちょっと待って下さいよ」
玉兎は戸惑っている。
「なんだ?不満なのか?それとも私に逆らうつもりか?」
ヒミコはすごんだ。玉兎は震え上がった。
「いえいえいえいえ、そうではなくて…姚晨の頼み事なのになぜ私がって」
玉兎は慌てて否定した。
「解ったわよ、じゃあ、姚晨が裸町の住人になる事。」
「へっ!?」
姚晨は間抜けな声を出してしまった。
「どうした?嫌なのか?」
「いえ、そういうわけじゃ……あります‥」
姚晨は狼狽した。
「裸で生活なんて絶対嫌です!それだったら玉兎さんをうさちゃんにしてください!」と姚晨は懇願した。
「なんで私がうさちゃんになるんですか?」
玉兎は憤慨した。
「え?だってうさぎさんの名前はうさちゃんでしょ」
姚晨はきょとんとした顔で言った。
「うさぎはうさぎですが……うさちゃんだなんて呼ばれたことありませんよ」
玉兎は呆れている。
「まあ、良いじゃない。うさちゃんに決定!」
「えええぇぇ……」
玉兎は愕然としている。
「そんな嫌なの?なんで?可愛いじゃない」
「私はいい大人ですよ!恥ずかしいです!」
玉兎は反論するが
「私が良いと言ってるんだから良いのよ」
ヒミコはきっぱりと言い切った。
「はぁ……」
玉兎は大きくため息をついた。
「では、よろしくお願いしますね」
姚晨は深々とお辞儀をした。
「ところで夢華の容態はどうなの?」
ヒミコが気になって聞いてきた。
「ええと、意識はあるのですが……まだ手術の影響で寝たきり状態ですね」
姚晨は申し訳なさそうに答えた。
「そうなんだ。じゃあ今すぐここに連れてきてよ」
ヒミコは微笑みながら言った。だが目が笑っていない。
「はい、わかりました」
「じゃあ、よろしくね」
「はい、失礼いたします」
「うさちゃん、行くわよ」
姚晨はうさちゃんの手を引っ張っていった。
「え?ちょっと待ってよ」
うさちゃんは引きずられるようにして部屋を出た。ヒミコは不機嫌そうな顔をしてそれを見送ったのだった。
うさちゃんと姚晨は急いで夢華のいる病院へ向かった。
病室に入ると夢華はベッドで横になっていた。しかし、その顔は青白く痩せこけていてとても可哀そうに見えた。
「夢華さん」
姚晨は優しく声をかけた。
「…」
夢華は目を閉じたままだ。
「仕方がないわね…このまま運んでいきましょう」
「はい」
うさちゃんと姚晨は夢華を担架に乗せて『霊峰・雪ヶ峰』へと向かった。
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うさちゃんと姚晨が必死に夢華を運んでいく。
人目につきたくないので誰かを頼る訳にもいかない。
その上、車などで運ぶとかなり揺れが激しくて重症患者には危険すぎるとは思ったが仕方がない。
「我慢して頂戴ね」と思いつつ車を飛ばした。
そして、二人はヒミコのいる山頂まで運ぶ。
何とか辿り着いたがすでにヘトヘトになっている。
「夢華さん、ヒミコ様の前に運んだわよ」
姚晨は疲れ果てていた。
「あら、よく連れてきたわね」
ヒミコは涼しい顔をしている。一方で姚晨は息切れしている。
「ヒミコ様……。彼女の治療を……」
「わかってるわ。約束したものね。まあ見ていなさい」
ヒミコは夢華に右手をかざした。
すると眩い光が辺りを覆い尽くした。
光が収まるとそこには健康そうな女性がベッドに横たわっていた。
「夢華さん、起きて下さい」
姚晨が声をかけると夢華はゆっくりと目を開いた。そして起き上がって周りを見渡した。
「ここは……どこ?」
夢華は呆然としている。
「良かった!成功よ!」
姚晨は喜びのあまり泣き出してしまった。
「夢華さん、もう大丈夫よ。身体も若返ったし自由に動けるはずよ」
姚晨は夢華に抱きついた。だが夢華は困惑した様子だ。
そりゃそうだろう。寝て起きたら怪我が治っていて20歳程度まで若返っているのだ。
「あの……一体何があったのでしょうか?」
夢華は頭の回転が追いついていない。
「ほら、あなたの望み通りヒミコ様に頼んで若返らせて貰ったわよ。ホント、大変だったんだからね。感謝してよね。」
「本当に昔の自分の顔だ‥。このころの私の顔って本当に美人よねえ」と鏡をみながらウットリしてる。そう昔の夢華は楊貴妃の再来とまで言われる程の超美少女だったのである。
「あ、ありがとうございます。まさか本当に叶うとは思っていませんでしたので……」
夢華は恐縮していた。
「まあ、私もびっくりしたけれど、これで万事解決ね」
姚晨は安心したようだ。
「しかし、この歳で20代前半の体って何だか変な感じです」
夢華は少し戸惑っている。
「まあ、慣れると思うわ。しばらくはゆっくり過ごした方がいいわよ」
姚晨はアドバイスした。
「はい、そうさせていただきます」
夢華は素直に聞き入れた。
「夢華さん、これから何をするつもり?」
姚晨は尋ねた。
「そうですね。まだ決めていません。とにかくしばらくは身体を休めたいと思います」
夢華は微笑んだ。
「そう、じゃあちょうど良かったわ。実はあなたに若さと治療の代償として『霊峰・雪ヶ峰』の‥この山の事ね、の管理人をしてほしいのよ。これはもうお願いではなく強制なんだけど‥」
姚晨はしんみりした顔で言った。代償だから強制でいいはずだ。
「わかりました。謹んでお受けします。ヒミコ様の為ならば喜んで協力させていただきます」
夢華は快諾してくれた。
「そう、良かったわ。それじゃあよろしく頼むわね。何か困ったことがあったらいつでも相談してちょうだい」
姚晨は感謝の意を示した。
「はい、承知いたしました」
夢華は明るく返事をした。
こうして、新しい管理者が誕生したのであった。




