おばあさんは若返りたいの!
###リザロン財閥邸
「一体いつまで待たせるのかしら!もうとっくに着いてもいいころよね!連絡もよこさないって何なの?」とローラの機嫌がすこぶる悪い。
実のところヒミコを招待するためにリムジンを出したのだが、それっきり音信不通だ。
秘書に至っては右往左往だ。
「もし何かあったらと思うと居ても立っても居られないわ。さあ!早急に調べてきてちょうだい!」とローラは秘書に命令した。
「了解致しました。すぐに」と言って慌ただしく出ていく。
「さて、どうしたのかしら?まさか事故とか巻き込まれてたりしないでしょうね?」と心配そうにソファーに腰掛けた。
◇
「状況が解りました」と秘書が報告に来た。
「はい。どうでした?」
「ヒミコ教国に行ったのは確かなようです。ですが…」と秘書は答えた。
「どうしたのよ!はっきり答えなさい!」
「あの…運転手ともども食べられてしまったそうです」
「…」ローラは固まってしまった。
当然である。いくらヒミコが捕食者とはいえ人の心を持っていると思っていたのだから。
「なぜ!なぜヒミコ様はこんなことをなさるの!?ヒミコ様の手厚い保護が必要じゃない!」
「落ち着いてください!奥様!」
「これが落ち着いてられますか!すぐにヒミコ教国に再び連絡して迎えを差し向けなさい!そして食べられないように厳重な護衛もお願いします!」
「承知いたしました!ただ‥」
「なによ!」
「食べられた者達はローラ様からの寄付だと思われて食べられてしまったようですので、お迎えは全員女性にするべきかと…」
「わかったわ!それで構いません。でも食べられてしまった者は惜しいけど……」
「申し訳ございません……」
「それと…」
「まだ何かあるの?」
「それが‥用があるならローラ様自身が来いとおっしゃってますが…、ふんぞり返って人を呼びつけるとは何様だ!ともおっしゃっておられて…」
「はぁ……もういいわ。私が行くわ」
「いや‥それは……」
「心配いらないわ、あなたの言う通り厳重に護衛も手配して行くから。それから‥私が着くまでの間、決してヒミコ様に危害を加えないよう気をつける事ね」
「はい、了解しました」と秘書は一礼して退室していった。
ローラは自宅の電話でヒミコ教国に電話をかけて事情を説明した。
そして
「明日到着すると思うのでよろしくお願いします。それと私が直接、伺います」と伝えて電話を切った。
「これでよし……後は明日を待つだけね……」とローラはホッと胸を撫で下ろした。
◇
「ヒミコ様、もうすぐで着きます。準備をお願いします」とアリスが言った。今日はローラが訪問する予定なのだ。もちろん玉兎も一緒である。
「ヒミコ様、今日は失礼のないようにお願いしますよ?」と玉兎は言う。ヒミコは面倒臭そうな顔をした。
###ヒミコ邸
「ローラ様をお連れいたしました。どうぞ、こちらへ」
案内された部屋に入るとヒミコと玉兎がいた。
「お待ちしておりました」と玉兎が恭しくお辞儀をする。
「わざわざ出向いてあげたんですからね。ありがたいと思いなさい」と上から目線で話しかけるローラ。
ヒミコはそんなローラに対して苛立ちを感じていた。
「あの‥その話し方は…ヒミコ様の機嫌を損ねてしまいます」と秘書がが小声で諭す。
だがヒミコには聞こえていた。
「何よ、このババアは?何様のつもり?」とヒミコ。
「いや、決してそのようなことは…お嬢様はこういう事には慣れていなくて…」と焦りだす秘書。
だがもう遅い。
「はあ?お嬢様ですって?何歳まで言う気なの?恥ずかしくないの?」とヒミコが畳み掛ける。
「もう!この人は本当に失礼極まりないですね!ローラ様の優雅さとお美しさをご存知ないのですか!」と秘書も怒り出した。
「何よ!どう見てもババアじゃない。厚化粧までして恥ずかしいわね。まるでピエロみたい」とクスクス笑いだすヒミコ。
「ちょっと、ヒミコ様。もうそこまでにした方がよろしいかと…」玉兎もあまりの態度に呆れている。
「なによ!人をババア呼ばわりとは!礼儀がなってないわ!」ローラは激怒した。
「ババアのくせに失礼な態度をとってるんじゃないわよ」とヒミコも負けじと言い返す。
「ローラ様!おやめください!ここに喧嘩しに来たわけではないのですから」と秘書は必死に制止しようとするが
「黙れ!秘書の分際で主人に向かって意見するなど許さぬ!」とローラの怒りは収まるどころかさらに激しくなっていく。
「そんなことよりローラ様、用件を話して頂きましょう。貴女の要件を話なさい」と玉兎はローラに要件を伝えるよう促した。
ただ玉兎はローラの要件は前もって聞かされていたために解っていたのだが。
###時は遡る事約1年前 ローラ邸###
「ようこそお越しいただきました。様」と執事の者が出てきて挨拶してきた。
「いえ、こちらこそお招きいただき光栄です。しかし立派な豪邸ですね…」と玉兎。
「こちらのお方が当主のローラ様です。」と執事。
「初めまして、お目にかかることができて光栄です。私が李玲玉です」と丁寧にお辞儀をする玉兎。
ローラもそれに応える。
「こちらこそよろしくお願い致します。本日は遠路はるばるご足労いただき感謝申し上げます。さあどうぞ、こちらへ」とリビングへ通された。
それにしてもヒミコ様にも劣らない凄まじい威厳を感じるお方だ。まさに裏で世界を牛耳っていると言われることはある。まさに強者のオーラのようなものを放っていた。
ヒミコも格上感のオーラを放つがそれとは少し違う独特で圧倒的支配者が放つオーラだ。それに比べヒミコの感じは普段はわがままな女帝でありながらも妙に親近感を持たせるようなオーラだ。
しかし怒った時のヒミコの放つ感覚は絶対的捕食者に狙われた獲物そのものであり抗えない絶望感的恐怖がある。
が、それとは異質だ。これで84歳というのだから恐れ入る。
そしてローラは席につくと口を開いた。
「この度はこのようなところまで来ていただきありがとうございます」
「いえ、こちらこそお招きいただき恐縮です」と返す玉兎。
「えーと、それでは李玲玉総理、いや大統領とお呼びすればいいのですか?」
とローラは問いかける。
「ええ、まあ、本来はどちらでもいいのですが聞かれたのでお答えしますが厳密にはヒミコ様にご用件がある時は総理でヒミコ教国や私にご用件がある時には大統領扱いですね。一応建前上は私が国のトップという事なので。でもヒミコ様案件の時には2番手扱いという事で総理大臣という事になっています。」と笑顔を見せる玉兎。
しかしローラは真剣な顔でこう切り出した。
「では、今回は李玲玉総理という呼び方で呼ぶことにします。」と言った。
「早速ですが本題に入りましょうか。単刀直入に言います。私は若返りたいのです。若さを手に入れたいのです」と言い始めた。
玉兎は頭を抱えたくなったが我慢する。
「具体的にはどのような形で若返りたいのでしょうか?」と聞き返す玉兎。だがローラは即答した。
「李玲玉総理のように若返りたいのです。ヒミコ様ならそれが可能なのですよね」と堂々と宣言する。
「ちなみに何歳くらいまででしょうか?」と確認すると「出来れば20代に戻りたいですね」と答えた。
(やはりか……)と心の中で思う玉兎。
(正直ヒミコ様が簡単に首を縦に振る訳がない?あの方は基本的に興味ない事は無関心な方だから……)
と不安に駆られる玉兎だった。
「あの……、少し厳しいことを言いますが今の状態で十分だと私は思いますよ?」
「どういう意味です?説明していただけますか?」と怪訝そうな顔をするローラ。
「そのまんまの意味ですよ。あなたは健康そのもので若さがありすぎているくらいですよ」と答える。
「確かに見た目は若いかもしれませんが内臓機能は衰えていますからね。肌だってシワが目立ってきてますし」
「もう十分でしょう。無理に若返っても…」と答えに詰まる玉兎。若返って悪い事なんて何もないから例えが思いつかないのだ。
それでも何かないかと思い浮かべるが……
「例えばですよ!100歳くらいまで若返ったらどうするんですか!」と苦し紛れに答えると
「素晴らしいじゃない!さすが天才と呼ばれるだけの事はあるわね」
「いえ……私は天才なんかじゃ……」と謙遜する。
しかしローラは続ける。
「謙遜する必要はないわよ。実際にあなたは若さの秘密を知っているんだから。さぁ教えてちょうだい」と迫られてしまう玉兎。




