名前を変えられた…
###ヒミコ邸客間
「うーん、困ったなぁ」と絵里香が悩んでいる。
その横でアリスも腕を組んで考え込んでいる様子である。
「一体どうしたの?二人とも?」とヒミコが尋ねた。
「実はですね……」と絵里香は説明を始めた。
「この国の男性の事なんですけどね」
「…?どうかしたの?」
「最近はその男性目当てに集まってくる人が多いんですよ」とアリス。
「大金を差し出して餌になる権利を譲ってほしいという人達が…」
「えぇ!?マジで?あの番組のせい?そうよね……」とヒミコが言う。
「ヒミコ様の食料になると若返りして病気も直るって噂が広まって…病気はともかくとして若返りなんてしてないのに。」
「それにこの国はヒミコ様が若返りを促してる国なんで女性が集まるんですよ。特に富裕層の女性はヒミコ様の寵愛を受けたいと思っている女性が多いんです。しかも美貌と地位も手に入れる事ができるとなれば……」
「そりゃ集まってくるわね。しかも金持ちだし」
「でも現状は供給が増えすぎて、男性の供給はストップしてる状態なので。それに基本的には若返りなんて私と李玲玉さん以外させてませんしね」とアリス。
それを聞いて
「今なんて言った!供給をストップだって?なんで止めんのよ?」と機嫌が悪くなり始めた。
「いえ、もう置いておくところがなくて…量的には100年単位分くらいはストックあるので…」アリスは内心しまったという考えで一杯だった。
ヒミコに話せばこういうことになるかもと李玲玉に口止めされていたのに。だが既にヒミコの怒りは爆発寸前だ。
「なによそれ!もう二度と止めないでよ!!」
「はい。すいませんでした!」とアリスが謝るとヒミコは落ち着いていった。その後、この事を李玲玉に相談すると
「あちゃー。言ってしまったのね。やはりこうなりましたか…。まあいいわ。ほっといても。ただし今後絶対に言わないでね!」と言うと「はい!」と答えた。
###ヒミコ邸客間
「あんた、今から名前はにゃんにゃんね!」だしぬけに李玲玉に対して言った。
「へ!?」
「だからにゃんにゃん!あなたにゃんこ好きでしょ?」
「え?いやまあ……嫌いじゃないですけど……」
「じゃあ決定!」と一方的に決まってしまった。
「それでは今後、よろしくお願いいたしますね。にゃんにゃん♪」
「ちょっと待ってくださいよ…なんですか、唐突に‥」戸惑う李玲玉をよそにヒミコは話を進めた。
「明日からはそう呼ぶことにするから。あと、名前の変更手続きしておいてね」
「いやいやいや…ちゃんと説明してくださいよ。意味が解らないんですけど」
「うーん、難しいな」とヒミコは頭を抱える。
「ねぇ、エビカワ」
「はい!?」エビカワはびっくりして声が出る。
「実はね、以前からずっと考えてたんだけど、李玲玉て名前なんか面倒くさいのよね」
「…」
「だから名前変えたほうがいいと思うのよ」
「はぁ……」
「それでね、私決めたの。李玲玉の名前はこれから『にゃんこちゃん』にするわ!」
「えぇーーー!?」
「だってあんた可愛いじゃん。猫耳とか似合いそうだし」
「いや、全然似合わないですけど」と抗議の声を上げる。
しかしヒミコは聞く耳を持たなかった。
「うん!にゃんこちゃんで良いじゃん」
「あの、私は李玲玉じゃダメですか?」
「ダメ!」とヒミコは言う。
そして続けた。
「だってこれから長い付き合いになるんだから名前は覚えやすいものが良いでしょ」
「いや、あの……そういう問題じゃないというか……」
「とにかく明日からそう呼ぶから覚悟しておいてね」とヒミコが念押しするように言った。
「名前の変更はまあ解りましたけどにゃんにゃんて中国では女神さまにたいして使う言葉ですので…この場合はヒミコ様の方が適切かと…」と李玲玉は説明する。
「マジで?」と驚くヒミコ。
「はい。中国では女神様に対して『娘娘』と言う言葉を使う習慣があります。だからそう呼ばれるのは困ります」と李玲玉は答える。
「知らなかった……それならしょうがないか。じゃあ何がいっかな」と納得し他の名前を考えるヒミコ。
それを見て李玲玉は内心ホッとする。
(助かったわ……)
しかしそれは甘かった。ヒミコは悪い顔をして振り返った。
「じゃあ、あんたも女神様になる覚悟を決めなさい!」
「は?どういうことですか?普通に嫌なんですけど」
「何よ、気に入らないって言うの?失礼ね」と言ってプイっと横を向くヒミコ。
「いえいえ、そういう訳では無いんですが……女神ってかなり抵抗が‥」慌てる李玲玉に「じゃあこれなんかどう?今日からあなたは『玉兎( ユートゥー)ね!」とヒミコは宣言した。
中国語で玉兎とは月のウサギの事だ。これは李玲玉が本場中国人ということで中国語の女神っぽい名前をチョイスしたようだ。
「まあ、いいですけど。玉兎さんか……」と李玲玉改め玉兎は納得する。月のウサギなら抵抗感も少ないし、それにヒミコ様も気に入ったようなのでいいかなと思うのである。
「じゃあよろしくね!玉兎ちゃん!」と言って玉兎に飛びつくヒミコ。
玉兎はいきなりのことでびっくりした。
ただこれには誤算もあった。忘れていたのだ。月のウサギの他にも不老長寿の意味も含まれていたことを‥
その騒動のきっかけになったのはバニーガール姿になった玉兎のポスターとテレビでの放映だった。
バニーガール姿で年齢43歳なのに見た目はどうみても20代前半で女神さまの代役での登場なのだからそう思われる事も仕方のない事だった。
また本人も否定しなかった。
いや、できないからだ。なぜならその方がヒミコ教のイメージアップになるからだ。
「ねえ、うさちゃん!」とヒミコは呼んでいる。
「…」玉兎は黙っている。
「ねえ、うさちゃんてばー!」
「…」
「うさぎちゃん!呼んでるでしょ!」
「…」
「無視してんじゃないわよ!うさぎ!うさ子!うさ!!!」声を荒げ始めた。しかし玉兎は反応しない。
「うさぎの癖に生意気だぞ!こら!」と蹴飛ばす。
「痛たたた……ヒミコ様、私は玉兎です。うさぎではありません」と抗議する。
「はぁ?だから…玉兎だからうさぎちゃんでしょ!」と首を傾げるヒミコ。
「はい。そうです。それにさっきからなんなんですか?うさぎの癖にとかうさ子とか……」
「あんたこそ何よ?私があんたをどんな名前で呼ぼうがあんたに関係ないでしょ?」と逆ギレするヒミコ。
「関係あります。私がヒミコ教国の代表者として国民から慕われる存在になります。そんな恥ずかしい呼び方なんてやめてください」と有無を言わせない態度で話す。
それを聞いたヒミコは
「い・や・で・す!あなたをうさちゃんと呼びます」と譲らない。
そして二人の舌戦はヒートアップしていった。
その結果……
「もう!うさちゃんのバカ!」とヒミコは拗ねた。
「あの、ヒミコ様……」
「バカって言った方が馬鹿なんですー!」と玉兎。
さらに玉兎はこう言った。
「いいですか?私は今後、国民の模範となる存在である必要があります。その為にもそんな幼児みたいな態度では困ります」と正論を述べる。
「ぐぬぬ……」と悔しそうに歯噛みするヒミコ。
でも諦める気はないようだ。
こうなると、もう玉兎の方が折れてしまった。何せヒミコは一度決めたらテコでも動かない性格なのだ。玉兎はため息をつきながらもこう答えた。
「分かりました。好きにして下さい。ただし、国民の前ではきちんと私のことは名前で呼んでくださいよ!」と付け加える。
こうして二人の決闘は幕を閉じたのだった。




