〔13〕ドーブツ触れ合いデー参加資格会議
また今日も、授業が自習になりました。全員参加の職員会議があるらしいのです。暇なので、私とユキとカスミの三人は、校庭をてけてけ歩いていたら、体育館で会議が行われているのを見つけました。広い広い体育館の真ん中に、三人掛けの折り畳みテーブルが6つほど円形に並べられていました。体育館内に空気を大量に送り込むためなのか、あちこちの扉が開いておりました。もしかしたら「密室会議」ではないことをアピールしているだけ知れません。私たちは、見つからないように中をのぞいてみました。
体育館には、学園中の教師が集められていました。議長は松柳先生でした。着物姿にテンガロンハットを被り、レンズが拳ほどもあるサングラスを掛けている校長先生は、会議の成り行きを静かに聞いていました。
「ただ今の、『ドーブツ触れ合いデー』に参加している女子は、5名です。
理事長のお孫さんで、生徒会長を務めている涼風そよりさん、
学園創立者のお孫さんである諸見里ここあさん、
父親が公立高校の国語教師である琴葉きよ美さん、
父親が某中小印刷会社に勤務している桜美雪さん、
母親が食べ歩きの趣味を持っている霧谷かすみさんです。
残念ながら、シロアチア国防衛大臣の娘さんであるフェリシアさんは、脱落されました」松柳先生が、現在の女子の紹介をしました。
「続いて、男子の方ですが、独立行政法人『農業王』のご子息であり、サッカー部キャプテンの海原鮫斗君、彼はアンダー15のメンバーにも抜擢されています。
野球部キャプテンの翠谷七希君も、アンダー15のメンバーに選ばれております。
柔道部主将の猩々氷悟君は、全国中学校柔道大会で8位に入賞しております。
読書部部長の塩野虎将君は、読書感想文全国コンクールに応募したことがあります。
マイコン同好会会長の神呂木星人君は、タイピングの達人です。AからZまでの26文字を4.5秒で打ちこむことが出来ます。
総合科学部部長の草凪夕紀君は、夏休みの自由研究『ボルボックスのゾンビ化実験』を真似して文部科学大臣賞を受賞しておりますが、脱落してしまいました。今は、ウチの学園にはいません。元の公立中学校で勉学に励んでおります。
父が、某高級官僚である坂端潔彦君は、社会理科学勉強部の部長でしたが、女子たちの評判が悪く脱落になってしまいました。現在は、某進学高に転入し一流と呼ばれている高校を目指しております。学園を去った生徒たちの記憶には、何も残っていませんのでご安心ください。以上が、私が把握している男子生徒たちの情報ですが、他にもいるかも知れません。退職なされた前任の先生から引き継いだ情報は以上です」と、松柳先生の説明が終わりました。
「う、む・・・。よろしい・・・」いつもはお道化てばかりいる校長先生は神妙な顔をしました。
「転入生を受け入れるお考えはありますでしょうか?」美千代先生がたずねました。
「それは今、準備中です。今年の秋あたりから、順次交換留学生を受け入れる手筈になっております」
「校長先生、質問があります」新任の英語教師であるシャベランカー・キチット先生が手を挙げました。
【シャベランカー・キチット】祖父がアイルランド人、父はアメリカ人で、母が日本人である。日本語しか話せない英語教師。海外旅行もしたことがない。
「どうぞ、質問を受け付けます」校長先生が質問を許可しました。
「恋愛は、自由デス」
「その通りです」
「ナゼですか? なにゆえにですか? 決まった生徒だけに、決まった生徒だけを紹介しマスか?」
「良い質問です。ここでも恋愛は自由です。ですが、考えてみてください。『結婚相手が決まっている』もしくは、『将来、結婚するかもしれない』と意識して異性と接すればどうでしょう? より自分を高めたいと思いませんか? さらに上を目指したいと思いませんか? ここでは『伸びしろがある生徒の伸びしろを伸ばす』お手伝いをしているのです」
「(余計なお世話なんじゃないか・・・)」大半の先生方は、そう思いました。
「思春期の生徒たちにとって、異性はドーブツや怪物に見えたりするものです」
「(そうとも、限りませんが・・・)」大半の先生方は、そう思いました。
「姿が見えない相手に、精一杯の誠意を尽くして接するのです。相手の考えや性格で伴侶を決めるのです。相手に要求してばかりではいけません。自分も相手も、ともに成長するのです。嫌ならば別れる権利は誰にでもありマス」
「(それは、そうですが・・・)」だれも、口ごたえしませんでした。
「誰も傷つけないし、誰も悪くない。それぞれが勝手に成長してゆくだけですから、我々は、それを暖かく見守りましょう」校長は普段、世間の危険性ばかりしか話さないので、ほとんどの先生方が意外な思いで見ていました。松柳先生は、携帯電話で動画を見たいのを堪えていました。
「オー! マイガッ! マイゴッ! みすて~く! ワタシがあさはかデシタ~!」シャベランカー先生が、叫びながら崩れ落ち、頭を抱えてしまいました。
「落ち着いてください」校長先生がシャベランカー先生に歩み寄り、シャベランカー先生の肩に手を置いて静かに言いました。
「こーちょーせんせー、分かりました。すごく深い教育理念です。勉強になりました」シャベランカー先生は、校長先生の顔を見上げました。
「分かって頂ければ、嬉しいです」二人で見つめ合いました。信じられない話ですが、二人の間に友情が芽生えていました。
「あなたの理解の早さは、この学園の宝です。ですから特別に賞与を一カ月分支給します」
「アリガト―ございます(チョロイもんだ・・・)」
「(アイツ、巧みだなー)」先生方は、羨ましく思いました。そして唐突にオペレッタが始まりました。
「信じること~ (うたがわ~ぬ~)
愛すること~ (つきすす~む~)
山あれば~ (芋です~よ~)
海ならば~ (ぶどうで~す~)
どぅ~わぁ~ (どぅ~わぁ~)」校長先生のメインボーカルに、シャベランカー先生がサブボーカルを重ねました。
「ぱちぱち・・・、ぱち・・・」先生方は、ごあいさつ程度に拍手をしていました。校長先生は、先生方に向き直り、こう言いました。
「この方針で、行きましょう。よろしくお願いします」
「はい! 分かりました! (どういう方針だよ・・・)」全教師が答えました。
・・・と、このように『ドーブツ触れ合いデーの参加資格会議』が行われている、とは思いませんでした。知らなければよかったと、三人で話しました。
・・・まぁ、いいか。




