〔12〕あなたはだ~れ?
次の「ドーブツ触れ合いデー」の時でした。
「一応、自分の仲のいいドーブツさんか、怪物さんに名前を呼びかけてみましょう。誰が誰か分かるかも知れないわ」と、そよりさんが作戦を立てました。
「まだ、誰も人間化していないものね~」ユキが言いました。
「(誰が一番先に、人間の姿に出来るんだろう・・・)」私は思いました。
「今まで、誰も人間まで姿を変えることが出来たヒトはいません」ここあちゃんが言いました。
「あは~」
いつも通り体育館の中に檻が運ばれて来ると、姿を現したのは、怪物さんたちでした。
「今日は、怪物さんか~」
「言葉が分かるかな~」
「この間と一緒だね」
「ケンタウロス、ペガサス、ぬりかべ、一反木綿、パンダコアラ、・・・あれ? 五人? 五体? 五つしかいない・・・」
「ドラキュラはいないのかな?」
何となく、どの怪物さんと遊ぶか決まっていました。
そよりさんは、ケンタウロスと。
ユキは、ペガサスと。
私は、ぬりかべと。
カスミは、一反木綿と。
ここあちゃんは、パンダコアラと遊びました。
ほとんどの場合、私かここあちゃんが、あぶれたドーブツさんか、怪物さんと遊ぶことが多くなっていました。
そよりさんは、ケンタウロスの背に乗って、体育館を優雅に歩き回っていました。
「さめと?」
「・・・?」
「ナナキ?」
「・・・?」
「マサル?」
「・・・?」
「ユウキ?」
「・・・?」
ケンタウロスは、そよりさんの呼びかけに全く反応しませんでした。
「あの四人の中の誰も、ここにはいないのかな~?」そよりさんは、四人の正体探しを諦めました。
ここあちゃんは、最初から正体探しをしていませんでした。パンダコアラを撫でて、甘えさせて、横に座って、お互いにじっとして時間を過ごしていました。
カスミは、一反木綿の背中に乗って、体育館中を飛び回っていました。
「きゃっほ~! やっほ~! た~のし~!」外は、小雨が降っていたので、体育館の中だけで遊びました。
飛び回って遊ぶのに飽きると、檻の外でヒップホップの練習を始めました。
「これ、2ステップだよ~」一反木綿はじっとダンスを見ていました。
「これ、3ステップだよ~。マネできる~?」
「ボク、足ないから」と、一反木綿が言うと、
「じゃあ、上半身だけで練習しようか!」少女と怪物が上半身だけをクネクネさせている光景は、とても奇妙でした。
私は、体育館の端に座っていたぬりかべさんの絵を描いていました。
「今日も、じっとしたままだね~。顔を描いてあげるね~」心なしか、ぬりかべさんの顔が赤くなって照れているように見えました。ぬりかべも真似をして私の絵を描いてくれましたが、幼稚園児が描いたような絵でした。
「ユウキ君・・・?」
「・・・?」
「マサル君・・・?」
「・・・?」じっとしているから、総合科学部か読書部だと思いましたが、どちらでもなさそうでした。怪物になると、自分の記憶がなくなるのかも知れません。私はここで、正体探しを諦めました。
ペガサスは、ユキにダッシュで近寄ると背中に乗るように促しました。
「今日は、雨だよ~」
「ぶるん、ぶるん!」首を大袈裟に振って、乗るように促しました。ユキがペガサスの背中に乗ると、
「ぶっわっ!」と体育館の中を駆けずり回っていましたが、物足りなくなったのか外に出てしまいました。ペガサスは興奮して、小雨の降る中を飛び回りました。
「ちょっと~! 濡れちゃったじゃない!」ユキの機嫌が悪くなると、ペガサスは慌てて体育館の中に戻ってきました。
「ばっふ~、ばっふ~、ぶるん! ぶるん!」翼と、体の水滴をそこら中に飛ばしました。ユキは、そのしぶきでまた濡れてしまいました。
「ちょっと~! やめてったら!」ユキの機嫌は相当悪くなりました。
「何で、こんなに興奮しているのよ~!」ペガサスは、目に見えて困り始めました。
「ったく! サイアク~!」と、ユキが言った途端に聞いたことのない音が聞こえました。
『がばりぎょん』ペガサスの姿が、ヤギになりました。近くで見ていたカスミが大声で叫びました。
「あ~! ヤギだ~! ペガサスはヤギだったんだ~!」足を踏まれたことを思い出した様子でした。
「あなたはだ~れ? サメト? ナナキ? マサル? ユウキ?」ユキがじろりとヤギを睨みました。ヤギは、明らかに困っている様子でした。するとまた、聞いたことのない音が聞こえてきました。
『きょぺきょぺ~』ヤギは、ドラキュラに変身しました。そして、ユキに向かって言いました。
「お嬢さん、少しだけ血を吸わせてください」
「い・や・で・す!」強めの拒否でした。
「あ~! ドラキュラだ~!」カスミの大声が、体育館の中に響き渡りました。
『とっぷりぽけ~』ドラキュラは、たちまちてんとう虫に変わってしまいました。
「あら~」体育館の中で一部始終を見ていたここあちゃんが、つぶやきました。
「残念ですね。脱落でしょう・・・」
【草凪夕紀】あちこちの体育会系の部活を体験するが長続きしなかった。夏休みの自由研究で「文部科学大臣賞」を受賞して有名になる。『後に「筑波大学・生物資源学類」に進学し、助教授まで出世する。ユキを聖女化してしまい、長くその幻影から抜け出せなかった。初婚は四十代半ばだった』という、人生を歩むかも知れない。




