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「脈アリ?」

もうちょいで、アクセス8500とユニーク2500……! そして漸増するポイント。

全ての読者様に感謝を込めて。

 結城かなたは、誰かに何かを頼まれれば断れないタイプの人間である。

 ただそれは、拒否する主張が苦手というよりは、頼ってくれたことが嬉しくたまらないからという理由によるものだ。

 藍咲学園に教師として舞い戻ってからというもの、生来のこの性格によって仕事が山のように舞い込み、それらを消化していく内に雑用係としての地位を築いてしまった(かなたとしては全く嬉しくはないが)。

 疲れ果てたところに、任命されたのは相談室の管理人。どんどん増えていく仕事を前にかなたは悟る。この学校、ブラックか……。

 ゆえに、これから安請け合いをしてしまわないよう、気をつけなくてはと心に固く決めていたのだが――


「こ、顧問……!? しかもバドミントンって……」


 狼狽するかなたに構わず、大樹は真剣なまま話を続ける。


「今、結構まずい状態なんです、うちの部活。部活の雰囲気もあまりいいものとは言えないし、何より来週までに新しい顧問が決まらないと最悪大会に出られなくなってしまうんです。お願いします」


 深々と頭を下げられてしまう。普段は神谷や紅葉の相手をしているためそのギャップに困惑してどうすればいいのか分からなくなる。



 ど、どうしよう。すごくどうしよう……。



 ついに生徒からも仕事を振られるときが来たか……。もちろん最大限の手助けはしたい。しかし安請け合いはしないと決めたばかりだというのに――


「えー、こほん。篠原くん? 私バドミントンなんて遊びでやったことしかないし、指導は出来ませんよ? それに顧問って一体何をすれば……」

「特別なことはしなくても大丈夫です。結城さんが忙しいのも知っています。今だけでもいいんです。次の大会が終わるまで、どうか」

「むむっ……」


 割と好条件だ。これならやっても……しかし……。

 腕を組んで唸るかなたに決心をつかせたのは、大樹の一言だった。



「結城さんだけが頼りなんです」



 決めた。もう細かいこととかどうでもいいや。生徒が命だ。


「ちょっと、職員室行ってきますね!!」



「……お前、結城さんの扱いが分かってきたな」


 かなたが相談室を去った後、神谷はそう呟いて体を起こした。眠気を覚ますためか、体を伸ばして欠伸を噛み殺している。


「やっぱ似てるな……」


 神谷の顔を眺めながら、思い出すのはここ数日同じ時間を過ごした蒼斗のこと。目の前の兄とは対極な印象で、口数こそ少ないが活発な先輩だった。


「バドミントン部だったのか」

「入ったのはつい最近ですけど」

「ふーん……」


 自分で聞いておきながら、神谷は大して興味がなかったようでそのまま口を閉ざしてしまう。大樹としても、かなたが戻ってくるまでの間手持ち無沙汰であり、なんとか神谷との距離を縮めようとしてみるがいまいち彼に掴みどころがない。


 固まった時間を動かしたのは紅葉だった。神谷が起き上がったことで空いたスペースにその小さな身を滑り込ませ、その向かいに座るよう大樹を促す。


「そこ座ってよ。それでついでにドーナツの感想なんか聞かせてくれたら嬉しいなー」

「あ、はい。失礼します」


 にこやかに微笑まれて、大樹は咄嗟に返事をした。

 椅子に腰かけて、手元の袋からドーナツをひとつ取り出す。砂糖をまぶして、いい揚げ加減だ。市販のものかと最初は思っていたのだが、少しでこぼこした部分がある。


「手作りですね……いいんですか?」

「うんっ! どうぞ!」


 遠慮なくかぶりつく。あたたかくはないが、さくっとした感触が伝わってきた。柔らかい生地の歯ごたえ。そこに加わる砂糖の甘いアクセント――


「おいしいです!」

「そっか! だ、そうです神谷くん」

「うん!?」


 紅葉の言葉に、神谷はちらりとこちらに横目で視線を一瞬寄越し、すぐにまた離してしまった。


「これ、神谷さんが作りましたか!?」

「そうだよー、たまに作ってきてくれるの。おいしいでしょ?」


 そう言って、紅葉はブレザーのポケットからチョコスティックの箱を取り出し、口に咥える。……こ、この人、色んなところにお菓子を隠し持ってるな……。

 それと、やっぱり神谷が料理をするようには見えない……大樹自身もほんの少しだけ料理をするが、こんな味は作れないだろう。


「……それ、紅葉のために作ったんだけど」

「うっ……すいません」


 鋭い眼光で睨まれて大樹は咄嗟に紙袋を差し出すが、紅葉がそれを制する。


「私があげたんだから、篠原くんは気にしなくていいの。あ、それと神谷くん、今日は六十点かな」

「辛口かよ……」

「ううん? 私は甘い方が好きよ」

「……あー、スルーの方向でいきます」


 不貞腐れてしまったのか、神谷はまたソファに顔をうずめる。紅葉がその頭を軽く撫でると、神谷は心地よさそうに目を細める。それを見た紅葉は微笑を浮かべる、という実に微笑ましい光景ではあるが――


「ここにもリア充がいたか」


 辟易した大樹の一言に、紅葉はピクリと小さな体を震わせ誤魔化すように「あはは……」と渇いた笑い声を漏らす。その頬は朱に染まっていた。なんとなくからかいたくなってくる。


「お二人は付き合い始めて長いんですか?」

「もうそろそろ二年になる」

「え!? 神谷くん!?」

「どっちから告白しました?」

「俺から。何回も断られたけど」

「待って神谷くん! それ話す必要ないよね!?」


 ぽかぽかと隣の神谷を叩き始める紅葉。恥ずかしがっている女子はとても可愛いが、今の大樹にとっては目の毒であり、思わずこんなことを呟いてしまう。


「いいなあ……リア充になりたい」


 漏れた願望の声音は切実さを帯びていて、神谷と紅葉は動きを止めてきょとんとした表情を大樹に向ける。さっきまでの騒然とした空気が霧散し、大樹自身も戸惑いを覚える。


「な、なにか?」

「……別に。ただ、言い方がマジだったから、気になっただけ。リア充がそんなにいいか……?」


 頭に疑問符を浮かべる神谷は首を傾げる。

 ……その発言をリア充がすると全く説得力がない。以前、月夜にも似たようなことを言われたことを思い出す。もしかして、自分が思っているほどリア充というのは大したことがないのだろうか。


「しゃあないなー」


 面倒そうに居住まいを正し、大樹に向き直る神谷。彼に倣って何故か紅葉も姿勢を直す。


「ほれ。お前の言うリア充って何だ? 話してみろ」

「え?」


 いきなりそんなことを言われても、と咄嗟に大樹は紅葉の方へ視線で助けを求めると紅葉は苦笑い。


「神谷くんの、ただの気まぐれだけど。でも、意外と良いこと言ったりもするから、話してみるのもいいかもね」


 ……そう言われてしまったのなら仕方ない。


「えっと……彼女がいること?」


 この時、大樹はまだほとんど話したことのない先輩を前にして緊張状態だった。よって、本来ならまだ他にも、友達が多い、運動が出来る、などの意見も出せたはずなのだが思考がそちらに傾かなかった。最初にこんなことを言ってしまったのはおそらく、目の前にカップルがいたせいもあるだろう。


「……高校生らしいな」


 そう言う神谷も高校生のはずなのだが……。大樹が心の中でツッコミを入れると次の質問が飛んでくる。


「誰か好きなやつとかは?」


 こういう質問を来ると、予想出来たはずなのに。

 大樹が胸中に思い浮かべた人物はただ一人。表情の変化が乏しくて、たまに人とはズレた発言もするけれど、常に限界に挑み続けるその勇ましい姿に惹かれていることは自覚している。

 これがそういう感情なのかは微妙だが……。

 とにかく、どう返答していいか分からず、自分でも不自然に視線を泳がせてしまった。


「いるのか」

「おおっ! 恋バナ!?」


 目敏(めざと)く大樹の思考を読む神谷と急にテンションが上がる紅葉に、隠す気も失せてしまう。

 ちょうどいい。こんな話、誰にも相談できる人はいなかった。ここで話してみるのもいいかもしれない。


「実はその……気になる人は確かにいます。聞いてもらえます?」

「聞こうじゃないか」

「聞こうじゃないかー!!」


 まるで秘密の話をするように――というか、まさしくその通りで、三人は顔を寄せ合う。


「その人は中学時代からの先輩なんです。高校が一緒になったのは偶然だったんですけど。部活も同じで」

「ほう」

「バドミントン部かー。確か女子は少なかったはずなんだけどなー」


 指を折りながら、女子生徒を数える紅葉。このままだとその気になっている人物がバレてしまいそうなので、大樹は早口に捲し立てる。


「え、あの……! それでですね、その人、普段は他人になんか興味ありませんって感じなんですけど、俺と話す時はちょっと違う気がして……!」

「ほう」

「んで!? んで!?」

「こ、この間とかも一緒に出掛けたんですけど……。いや本当なら部活の道具一式買うために行ったはずだったのに、映画に誘われたりして」

「ほう」

「ちなみにその映画って?」

「『もう一度、あの喫茶店へ』ですね」


 そこで紅葉の瞳が爛々と輝いた。口元がにやけている。


「はは~ん……。後輩くんよ、それは脈アリですな」

「脈アリ?」

「その映画、カップルで観る人たちが多いの。感動していい雰囲気になるから」

「俺たちも先日行ったな」

「い、今それはどうでもよくて……。とにかく! その先輩さんは君のことが好きなはず! これはいけるっ!!」


 強く、言い切られてしまった。

 本当にそうなのだろうか。あんなに美人な人が? 自分を?

 もしそうだとしたら……自然と顔が赤くなっていく。


「もうここまで来ちゃったんだから、その人の名前教えてよー」

「そうだな。言ったところでどうせ分からないが」

「その人の名前は――」


 と、そのタイミングでガラガラと相談室の扉が開く。どうやら、かなたが戻ってきたようだ。そして、その後ろにいた人物に大樹はぎょっとして思わず立ち上がってしまう。


 なぜなら。


「篠原くん、無事、バドミントン部顧問に任命されてきました。これからよろしくお願いします!」

「は、はい……ありがとうございます……。それで、あの……」

「職員室に戻ったら、この子も同じく顧問探しをしていたんです。それでここに案内しちゃいました」


 かなたの後ろから、その人物が前に踏み出る。

 何も、こんなタイミングで現れることはないだろうに。


 朝日月夜が、そこにいた。


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