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 ある日の午後、ギルバートとエミリは二人で並んで庭園を散歩していた。

「けれど、ギルバート様。何故、姉の手紙を男性の方からだとお考えになられたのです?」

 ずっと疑問に思っていたことを、エミリは問う。

 エミリにピタリと身体を付け、髪に口づけていたギルバートは、少し気まずそうにたじろいた。

「いや、その……。簡素な封筒だったし、君があまりに大切に抱いていたから……」

 ゴニョゴニョと、言い訳を並べ立てる。

 絶対に言えないが、自分にも心を残した相手がいたから、すぐにそう考えてしまったのだ。まったく、馬鹿な思い違いをして時間を無駄にしたと、当時の自分を心の中で罵る。

「けれど……」

 ギルバートの心の中をどれほど知っているのか、エミリは不思議そうに首を傾げた。

「私に来る手紙は、随分規制されています。最初の頃は、弟からの手紙も、受け取れませんでしたよ?」

「そうなのか?」

「はい。私の立場で、ギルバート様以外の男性と決して接触してはいけないと、トマスに言われておりました」

 なるほど、あのトマスならそうすると思う。いつも自分を先回りして、知らぬところで気を利かせるのだ。

 納得しかけて、ギルバートは、何か引っかかりを感じた。

「トマスは、そんな事まで君に指導したのか?」

「はい。私に手紙を送る人物のリストを提出していますし、中身も勿論検閲されていますよ」

 なんでもない事のようにエミリは微笑む。

 妻に優雅な微笑みを返しながら、ギルバートは腹の底からぐつぐつと怒りがこみ上げてくるのを感じた。

 知っていたのだ。

 トマスは、ギルバートが思い悩んでいることが勘違いだと、手紙の主がエミリの姉だと知っていて、わざと教えなかったのだ。

(おのれ、あのむっつりタヌキめ……!)

 エミリを蔑ろにした罰だざまあみろ、と、舌を出すトマスの姿がはっきりと思い浮かんでくる。

 ギルバートはエミリの腰を抱き寄せ、情熱的に口付けた。

「ギ、ギルバート様……。こ、こんなところで」

 慌ててぱっと身を離すエミリを愛おしく思いながら、ギルバートは幸せに溺れそうになる。

「エミリ、良いことを思いついた」

「はい?」

「君の実家に、優秀な相談役を派遣しよう。なに、どんなに仕事が山積みでも、些細な事にも手を抜かない生真面目なやつさ」

 仕事の海に溺れるがいい……!!

 あふれる仕事に慌てるトマスの様子を想像し、少しだけ溜飲が下がったギルバートの口が嬉しさに歪む。

「ギルバート様?」

 エミリは、そんな夫の様子にやや不審な目を向けた。


 ギルバートとエミリは、また並んで歩き始める。

 穏やかな空気が二人を包んでいた。

 誰が見ても、勿論当の二人も、愛しあう夫婦の姿だった。

 

これにて完結です。

お付き合い下さり、ありがとうございました!

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