第63話「ドラゴンとの〈契約〉」
おっさん執事に声を掛ける
「悪いが彼女の治療は〈契約〉と【命名】が
終わってからにさせて貰いたい
負傷したままだが〈契約〉は可能だろうか?」
おっさんがドラゴン娘を見遣る
「我はなんとかする、負けた以上従うしかあるまい」
ドラゴン娘は意地か、強気にそう答えた
一つ頷き
「それでは〈契約〉の儀を始めましょう
お手数ですがカホル様とヴェルーリア様
こちらへおいでいただけますでしょうか?」
二人が近づいてくるのを待ち
おっさん執事が何かしら唱え始める
ドラゴン娘も同調して唱え始めると
詠唱している2人とカホル、ヴェルーリアの足元に
魔法陣が現れた
二人の詠唱が口から出ると文字のように見え始め
それが繋がりロープのようになる
徐々にドラゴン二人それぞれの体を繭のように覆い
すっかり包まれてしまった
繭は少しずつ小さく縮み、人型を象ると光を発し始める
その光が収まると、そこにはおっさんとドラゴン娘の姿が見える
全身にうっすらと文字が見え、それが徐々に消えていった
「これで〈契約〉は完了しました
我ら二人はカホル様、ヴェルーリア様と〈契約〉を結び
終生お仕えすることを女神様に誓わせて頂きました
もし〈契約〉を違えた時には、女神様への誓約通り
大豚への生まれ変わりを罰として受け入れます」
「大豚じゃと???」
未だ横たわっているドラゴン娘が声を荒げた
「全ての発端は、お前が大豚を襲ったことからだろう?
罰として一番屈辱的なのは
その大豚に転生させられることではないか?
そうでもして心を縛らなければ
お前は心根を入れ替えることはないだろう」
おっさんがしみじみと、しかし強い口調で諭す
「安心しろ、大豚に生まれ変わる時は私も付き合ってやる」
その言葉を聞いたドラゴン娘は・・・静かに泣き始めた
自分の浅薄な言動や行動が
叔父ををここまで覚悟させたことへの後悔なのだろうか
それとも二人が大豚になった姿を想像してなのか
いずれかは知る由もない
「ちょっとかわいそうですかね」
阿部ちゃんが寄ってきて、小声で言う
「まあ、おっさんも思うところがあったんだと思うよ
むしろ叔父として、腹の決め方と責任の取り方は天晴すぎる」
「確かに、会社でも政治でもいざとなると逃げる
無責任なのが多いですからね」
腕を組んでしみじみ頷く
確かに君の上司も一人、やらかしてそのまま逃げたもんね
「さて、感傷に浸るのも結構だけど
【命名】をさっさとして彼女を治療しないと」
場を仕切り直さないとずっとこのままになりそうだったのもあるし
流血は未だ止まってないのも事実
いくらドラゴンでも、人型だと失血死とか
あっという間にしちゃいそうで怖い
ところで【命名】って、カホルとヴェルーリアで出来るのだろうか?
『【命名】は一種の〈契約〉に当たります
魔素消費が膨大なのと、そもそも【命名】は
魔術ではないので二人には難しいでしょう
名前を考えて貰って、【命名】はご主人様か
アヤノちゃんさんが行うことをお勧めします』
わかりました
「名前を決めるのは二人に任せたいが、どうだろうか?」
二人が首を振る
「ナマエ、というのを知ったのがつい先日ですので
どういうのが良いのかわかりかねます」
「私もつい先ほどナマエ、を付けて頂いたので
全く解かっていません」
そうか、二人とも名前のレパートリーどころか
認識がまだ根付いてないのか
「先輩が候補考えてくれますよ、ね?」
可愛らしい笑顔でこっちを振り返る阿部ちゃんだが
無茶振りだよ
「この数日で何人分、名前考えてると思う?」
少し考えるフリをしながら
「先輩なら大丈夫ですよ!」
背中をバンバン叩いてくる
逆パワハラでは?
「じゃあ、君も出しなさいよ、命名候補
二人分だからね?」
「あ」
二人いるのを失念してたのか
まずはドラゴン娘の方が先だよな
さっさと命名して、治療に入らないと可哀そうだろうし
そう思いながら、未だ血が止まりきってない
穴だらけの彼女を観察する
幼児体形の彼女の身体には、小さくなった羽根や
体の一部に鱗らしきものが見える
深緑のロングヘアーをオフセットして結って
顔つきは不良グループに一人だけ居る女子みたいな
「可愛いけど目つきが悪い」感じか
そう思ってると、わき腹に鋭い痛みが走った
肘鉄を後輩が入れて来ていた
「先輩?
随分とじっくりねっとり見つめてらっしゃいますが
そんなに女性の裸が見たかったんですか?」
「そりゃあ、可愛くて優しい女の子の裸なら
いつまでも見ていられるけどね」
軽く痛む横っ腹を、大げさに摩りながら答える
「【命名】するのに、逢ったばかりで特徴見る以外
決め手がないのだから、観察するしかないよね」
「真面目にやってたんですね
てっきり、下心丸出しで食いついてたものだとばかり」
とぼけ顔でそう返してくる
こいつこそ、『解らせ』ないとだめなんじゃないか?
いつか痛い目に遭わせてやろうと心に誓っておく
命名候補に、浮かんだ名前を次々と声に出してみる
むしろ適当でも出てくる自分を褒めたいくらい
3人に伝えると
「マオってのも可愛いですけど、シャールカーニって音も可愛いですね
シャールカーニで愛称ルカちゃん、よくないですか?」
「なんとなくですが、可愛い響きには聞こえますね」
「私も良いと思います」
はい、決定ですね
ドラゴン娘とおっさんのところに向かい
「君の【名前】は今からシャールカーニ、普段呼ぶときはルカ、だ」
「シャ、シャールカーニ?ルカ?」
そう言って気を失・・・なわずに体が光りはじめた
5人目にして初めて見るぞ、この反応




