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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第一章

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第9話 妹、脳筋無策を嘆く

 馬による移動は早く、その日の昼過ぎに三人はリータの故郷、フォレストエルフの里ミストガルデに到着した。


 山の麓に広がる森の浅層。

 そんな場所に作られた里は極力木々を倒さないよう住居が作られており、その仕様から全体の七割がツリーハウスになっている。


「旅の人は木にこれだけ沢山の家がくっついていたら傷むんじゃないか、ってよく言うんですけど、この辺りの木は丈夫なのでびくともしないんですよ」

「へー……奥に進むにつれて木も大きくなってるけれど、あれも同じ種類なんですか? それとも別種?」


 葉の形や樹皮の様子は似ているが、根の大きさも幹の太さも倍近く異なっていた。

 樹齢が違うからという可能性もあるが、まず別種かもしれないと思い伊織は問う。

 リータは問いの後者に対して頷いた。


「近似種ですけど別の木です。なかなか増えないんですが、より大きく育つ上に丈夫さは更に折り紙付きなんで、族長の住居の原材料にも使われているんですよ。けど……」


 リータは視線を山奥へと向ける。


「それでも魔獣にかかればひとたまりもありません」


 リータの姉が怒らせたという山の魔獣。

 魔獣たちがその気になればあっという間に里の平和は脅かされてしまうだろう。


「ひとまず、魔獣についての詳しい話は族長の元で――あれ?」


 リータが足を止めて目を瞬かせる。

 伊織と静夏がその視線を追ってみると、立派なツリーハウスの下に大勢のエルフが集まっていた。全員大人ばかりで深刻な顔をしている。

 何かあったのだろうか、と身構えていると、その中のひとりがリータたちに気がついて手を振って呼び寄せた。


「リータ! 戻ったか!」

「はい、ただいま戻りました! こちらがマッシヴ様、そしてそのご子息のイオリさんです」

「遠路遥々ありがとうございます。わたくしフォレストエルフの族長をしておりますミルバと申します」


 フォレストエルフの族長、ミルバは赤土色の髪と目をした男性だった。

 人間目線で見ると四十に差し掛かったばかりに思えるが、リータが囁き声でした補足によると実年齢はその十倍以上あるのだという。

 伊織と静夏は会釈して集まった人々を見る。


「何やら騒がしい様子。理由を聞いてもいいだろうか」

「それが、その……」


 ミルバは参った様子で両耳を垂らした。

 言いたいこと自体ははっきりとしているが、それを言っていいものか迷っているという雰囲気だ。


「ミュゲイラ……リータの姉なのですが、魔獣を怒らせた罰として頭を冷やすまで独房に入れておいたんです。ああ、もちろん拘束したり体罰は加えておりません。しかし……ええと……」


 言い淀む姿を見て真っ先に察したのはリータだった。


「ま、まさか逃げました!?」

「そのまさかだ……」

「あの脳筋無策バカッ! どうせみんなの評価を挽回したくて「あたしが魔獣を退治してみせる!」とか言いながら脱走したんでしょう!?」

「一言一句そのままだ……」

「本当に脳筋無策バカッ!!」


 リータは頭を抱えて半泣きになる。

 長年積み重ねられた妹の苦労を目の当たりにし、伊織は自然と目を逸らした。


 話によるとまず初めにミュゲイラは山奥の禁足地とされている場所へ赴き、そこに巣食う魔獣に力試しとして戦いを挑んだのだという。しかし眷属の数が多く敗走してしまった。

 それにより、今までは人が近寄らないため野生動物を食らうだけで大人しくしていた魔獣が大暴れを繰り返し、次第に山の麓に里があると気がつき始める。

 この時点で策を講じた族長の命によりリータがベタ村に派遣されたわけだ。


 王都の騎士団に依頼する案も出たが――騎士団は数多の魔物や魔獣退治依頼を各地から受けていること、そして退治には日数を要すること、最後はミュゲイラの説得には筋肉に遣わされた聖女の言葉が効くのではないかということで静夏に白羽の矢が立ったわけだ。


 たしかに今を凌いでも今後同じことを繰り返されては堪ったものではない。

 魔獣は一度退治しても『同じ場所に湧かない』と約束されるものではないのだ。

 これ以降も近場に湧いた魔獣にミュゲイラが手を出し、被る必要のなかった被害が出ることが繰り返されないとも言いきれない。説得が必要である。


 そんなこんなで軟禁されていたミュゲイラだったが、静夏たちが到着する数時間前に脱走し、再び禁足地に向かってしまったそうである。


「彼女はリータがマッシヴ様をお迎えに向かったことを知りません。本人もこのままでは時間がなくなるばかり、と焦ったのかもしれませんが……」

「力試し……」


 伊織は己の顎に手をやって考える。


「どうした、何か気になることでもあったか?」

「ああ、いやその、確認なんですけどフォレストエルフは許可なく里の外には出てはならない、って感じの掟ってありますか?」


 静夏の問いに答える代わりに伊織はミルバにそう訊ねた。

 ミルバは首を横に振る。


「いえ、遥か昔はそのような掟もあったようですが、今は自由に行き来しています」

「なら……力試しだけなら里の外にも恐ろしく強い魔獣がいますし、そっちでもいいんじゃないかと思って」


 先ほどの説明の中で禁足地への道のりも耳にしたが、山の中を進みそこへ向かうより里の外へ出たほうがよっぽど早く魔獣に出くわす可能性が高いように思えた。

 魔獣や魔物もピンキリだが、伊織の見てきたマンイーター、ゴーストゴーレム、岩場の魔獣はどれも一般人では太刀打ちできないものばかり。

 十分力試しになるのではないかと思う。


 魔獣が必ずいるという確実性を取ったのか、それとも別の理由があったのか。

 ミュゲイラがわざわざ禁足地の魔獣を選んだ理由が伊織は気になった。


「その禁足地の魔獣っていうのはどんな奴なんですか?」

「魔法耐性の高い、巨大なナメクジのような化け物です。そのため移動速度が遅く、すぐには里まで下りてきません。魔法だけでなく打撃も分泌する粘液で威力を削ぐようなのですが……そこが力試しにもってこいだと思ったのかも……」


 魔法だけでなくただの打撃にも強い魔獣。

 たしかに力試しには向いているが――そう伊織が考え込んでいると、リータが口元を押さえて俯いた。


「リータさん?」

「あっ……なんでもありません。と! とにかく! 早く姉を追いましょう、これ以上魔獣を刺激するわけにはいきませんから!」


 ミュゲイラの力試しの理由は気になるが、リータの言う通りである。

 このまま更に魔獣が暴れ、里の近くで戦闘することになれば静夏も目一杯の力を発揮できないかもしれない。


(理由は後からでも訊ける)


 リータの反応が気になるところだが、ミュゲイラのことはミュゲイラ本人に訊けばいい。

 伊織は頷くと静夏と共にリータに案内され、禁足地のある山へと足を踏み入れた。

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