23.オークたち、今日の晩御飯(の材料)を狩る
「・・・」
ヴェルガルド近くの樹海の中を狼形態のスコルとハティ、それからレギスとアンディが静かに進む。4人は狩りに出ていた。
日常の食料はヴェルガルドでも生産を始めているし、ミネヴァからも買い取っている。だが、やはり新鮮なタンパク源を取るとなると狩りを行うしかない。
「臭います・・・」
最初に反応したのはハティである。その黒い鼻をクンクンとさせて、地面に滞留した臭いを辿る。
「うん、これは猪型の魔物だね~」
続いてスコルもその臭いに気が付く。臭いからの分析はスコルの方が優れていた。わずかな獣臭からそれが何の種類か、どういう状態化を言い当てることができるのだ。
「ここを、十数分前に移動したというところでしょうか」
臭いの追跡で言えばハティもまけていない。
アンディはその近くの土や周りの木を注意深く観察する。
「地面に少し血が付いているし、木に擦った後もあるなぁ。手負いかもしれねえぇな」
「だが、猪型となればそれなりに獰猛で危険なタイプだ。
気を付けていくぞ」
一行が注意深く進むと、果たして樹海のエアポケットのような開けた場所に猪型の魔物――ワイルドボアが佇んでいた。その足元には泥の沼が広がっており、日光浴と泥浴を楽しんでいるようだった。
その大きさは馬一頭よりも大きく、重さは馬の数倍はありそうだった。
「けっこうデカいな」
「こりゃぁ、慎重にいかないといけないかもなぁ」
「それだったら~、ハティとアンディが追い込んで、私とスコルが止めを刺すっていうのはどう~?」
「そりゃいい。久しぶりに人狼に騎乗しないと腕が訛る」
スコルの意見に反対する者はいなかった。
「じゃあ、俺とスコルが右から攻める。
ハティとアンディは左からだ」
「了解しました」「りょ~かい~」「了解っと」
レギスは金狼姿のスコルに飛び乗ると、するりするりとワイルドボアの方へと近づいていった。
「それでは、アンディ、行きましょうか
・・・? アンディ?」
「ん、いや、こんな足場の悪い中でも騎乗できるなんて人狼は便利だなって」
人間の騎乗する動物の中にはさすがに人狼ほど賢く、強いものはほぼなかった。精々竜騎士の乗る地龍か空竜くらいだろうか。
「あら、それでは私に乗ってみますか?」
銀狼姿のハティの誘いにアンディは頭を振る。
「いんやぁ? 前にレギスがスコルに騎乗して駆けているところを見たがとてもマネできねえなぁ。
鞍もなしにあれにのるには超人的な脚力がないと無理だぁ。
まあ、人間姿のあんたにならのっても・・・あ、いた」
セクシャルハラスメントな発言をしたアンディにハティは軽く蹴りを入れる。それから小さくため息をついた。
「まったく、バカなことを言っている暇があったら、位置につきますよ」
アンディ達が位置につくと、ちょうどレギス達も定位置についた。ワイルドボアのいる泥沼を挟んだ茂みに4人は隠れていた。ワイルドボアは泥水を浴びながら転げまわっており、茂みの中の光る目には気が付かない。
アンディは自分の胸元にかかった笛を加え、息を吐き出す。
「・・・ぴぃぃぃぃぃぃぃ!!」
すると、魔力を含んだ異様な高音が沼地に響き渡る。これは狩り用の獣除けの笛だ。これによって獲物を追い詰め、止めを刺すのが狩りの定石の一つである。
本来であれば、獲物と対峙することの少ない、このような危険の少ない役目は子供がすることになっている。だが、魔物が多いヴェルガルドの樹海では最も戦力にならないとみなされたアンディがこの役目についたのだ。
「■■■!?」
むろん、その音色はワイルドボアの鼓膜を震わせ、すぐさまに臨戦態勢に移る。
「grrrrr!」
そこに銀狼のハティが飛び込み、ワイルドボアの腹に噛みつく。普通であれば、この時点でワイルドボアは反対側に逃げようとして、待ち構えていたレギスとスコルに止めを刺させれたはずであった。
だが、
「■■!」
「なっ!?」
ワイルドボアは全身の筋肉を強張らせ、ハティを弾き飛ばしてしまった!
突然の反撃にハティはその場に腹を出すように転がってしまう。そこに持ち上げた前足を振り下ろすワイルドボア!
たとえ、強力な人狼といえど内臓の詰まった柔い腹を踏みつけられれば重症は避けられない!
「うおぉぉ!」
「■■■■■ッッッ!!!」
そこに割り込んだのは、アンディである。彼は狩り用の槍を支えのように突き出し、重力に従い上半身を振り下ろすワイルドベアに突き刺したのだ!
その穂先はワイルドベアの胸を貫通し、悶絶に至らしめる。
「う、ぐッ!」
と言っても、ワイルドボアの勢いを槍で受け止めたアンディも無事では済まない。槍がワイルドボアを突き刺した瞬間、全身の骨が悲鳴を上げるのをアンディは直感した。変な破裂音すら、耳を叩いたような気がした。
それどころか、衝撃で下の沼に脛まで埋まり、とてもすぐには脱出できない状況だ。しかも、即死しなかったワイルドボアは暴れながら、その串刺しになった体は徐々に槍の柄を下っていく。このままではその暴れる蹄がアンディを吹き飛ばしてしまう。
「あ、アンディさん・・・!」
「ハティ・・・は、やく、逃げろ・・・!」
「で、ですが!」
そうこうしている間にワイルドボアの蹄がアンディの頭をかすめそうになった、そのときである。
「grrrrrr!」
「おらッ!」
ハティに騎乗したレギスがワイルドボアに飛び掛かり、こん棒でその巨体を吹き飛ばした。騎乗オークが最も得意とする、鬼兵と人狼が一体となり圧倒的な勢いで相手を吹き飛ばす突撃法である。
アンディが構えていた槍はその勢いで途中から柄が真っ二つに折れてしまった。
今度こそワイルドボアは完全に内臓がつぶれ、息絶えた。その生命の残滓は僅かな痙攣だけだった。
「すまねえ、アンディ、ハティ。
タイミングが遅れちまった!」
「い、いやナイスタイミングだぁ。
ハティに良いところを見せられたからな」
「そんなことより、アンディさん、大丈夫ですか!?」
「んん?
まあ、足が埋もれた以外はなぁ」
ハティの問いかけにアンディは大丈夫そうに上半身だけ動かす。
(あんな無茶をしたのに、痛みもなさそうなんて・・・)
そのアンディの雰囲気に若干の違和感を覚えるハティだが、それは口に出さなかった。
「アンディが大丈夫って言うならそれでいいじゃない~?
それよりも、これでしばらく狩りはいらないかしら~」
スコルの目は既に今狩ったワイルドボアに注がれていた。これだけの大物なら狩り数回分の量だ。いや、それよりも脂がのって美味そうということがスコルには重要だった。
「あぁ~、今から楽しみ・・・」
「スコル、涎が隠せていないぞ」
スコルは自分からこぼれる涎が地面に垂れるのも構わず、舌を舐め摺りした。
人間がヴェルガルドを作ってから変わったことがたくさんある。
その一つが――
「だって、おいしいだもの。
人間の料理って」
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