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17.商人、救いの手を示す


「どうだ、オルゴ―」

「オルゴ―さん!」


 ようやく夜が明けそうなころになって、小屋からオルゴ―が出てきた。小屋の中にはミネヴァとスコル、カミラが残っていた。フレイアもオルゴ―を連れて戻ってくるなり、小屋に入ろうとしたがオルゴ―から追い出された。


「・・・」


 オルゴ―は頭を振って、ため息を履いた。


「エイル様まだ生きておられる」


「・・・そうか」


 ほっと息をつくヴェルと対照的にフレイアは不安を覚えた。


 『まだ生きている』つまり、それはこれから死ぬようではないか。


「あ、あのオルゴ―さん、診断などは・・・」


「ワシは医者じゃないんでな。というより、医者がこの集落にはおらんか。

 じゃから、確定的な診断はくだせんがの」


 それからオルゴ―はゆっくりと重い口を開いた。


「赤死病・・・かもしれぬ」

「っ・・・!」


 その言葉にフレイアは思わず息を呑んだ。


「なんだ、その赤死病とは」


 オルゴ―は淡々と赤死病について話だす。


 赤死病とは、突発的な食欲不振のあとに血を伴った嘔吐と下痢、発熱を繰り返し、死に至る病である。助からない場合は月の満ち欠けが一周するまでに死亡することと月の紋様のような形の赤い痣が出ることから、赤月病とも呼ばれている。


「それは治せるのか?」


「ワシの専門は死霊術じゃ、治療術はそのついでのレベルしか使えん。

 そもそも病気となると治療の魔術だけではだめじゃ。薬術、医術を組み合わせんとどうにも」


「治せるのか、と俺は聞いたんだ」


 重苦しいヴェルの声に、オルゴ―は圧されしばし沈黙をする。


「わしらには治せん。少なくとも、ワシの生きた時代は赤死病を人の手で治療する術はなかった。

 死んだ後もそんな話はとんと聞かん。

 治る希望があるとすれば、あの子自身の回復力に期待するしかない」


「そ、んな・・・」


 オルゴ―の言葉にフレイアは力が抜けるような心地であった。


 ヴェルもエイルが寝ているはずの小屋をじっと見つめて黙り込んだ。


「いえ・・・、治せるかもしれないです」


 そこに声をかけたのは小屋から出てきたミネヴァである。その服は夜のものから変えられており、いくぶん髪には湿り気があった。


「ミネヴァ、お主は小屋の中にいろと言ったはずじゃが。

 赤死病はどういう風にうつるかもわからんのじゃから」


「一応、行水と新しい服への着替えは行っていますです」


「ミネヴァ、赤死病が治せるとは本当か」


「はい、行商の中で赤死病を始めとした難病を治す名医を知っているです」


 ミネヴァ曰く、その医者は王国でも名の知られており、魔物との被害会った村や流行病によって滅びかけた村を周り、幾人も救ってきた奇跡の医者であるという。


「ならば、その者に協力を仰ごう。

 すぐに連れてこれるな、ミネヴァ」


「いえ、ただ問題点がありまして」


「何が・・・」


「連れてこれない事情があるのですね?

 そのような立派な方であれば、いくらここが辺境とはいえ噂くらい聞けそうなものです」


「そうです、フレイア様。

 その者はもう20年以上前に――まだ十分働ける年齢であるにもかかわらず――突然引退し、どこかの田舎に引きこもってしまったのです。

 彼を頼りたい者は方々手を尽くして彼を探したのですが、未だ行方知れずなのです」


「期待させて!それでは意味がないではないか!」


 恫喝するヴェルにそれでもミネヴァは圧されずに返事を返す。


「いえ、それは表向きの話。

 その者の居場所はバイエルン家が掴んでおりますです。

 その者の雇用はもちろんですが、その者の技術や手法も手に入れたい我が家は真っ先に彼を発見し、後続の者から見つからないようにしているです。

 ですが、彼はバイエルン家の要請に決して頷かず、今も片田舎で隠居をしているわけです」


「ということは、ミネヴァ、その者の居場所は」


「もちろん知っているです。

 片田舎への出向は傍流者が任されることが多いので」


「では、すぐさまハティを」


「いえ、彼が住んでいるのはここから王国を挟んで反対側の僻地です。

 人間側の領土をトラブルなく渡るとなると、医者を連れてくるにしてその間にとてもエイルさまの体力がもちませんです」


 これはハティにエイルを運ばせても同じことだ。何日もの野宿を弱っているエイルが耐えられるはずがない。


「・・・ならば」


 陸路や海路は人間との接触があり、無用なトラブルが起きうるのだ。そうであるならば、人間の手を及ばないところを行くしかない。


「そうです。

 ヴェル様、エイルさんを助けるためにその翼を使うしかありません」


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