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13.商人、白翼竜に商談をもちかける


 テラスには数人の男女がいた。彼らは元奴隷の中でもリーダーシップを取ってきた者たちである。


 もちろん彼らが向かい合っているのは、白翼竜ヴァ=ヴェルである。ただし、元奴隷たちと打ち合わせを行っているのは、カミラとオルゴ―である。レギスや人狼(ワーグ)姫たちは興味がないとばかりに、遺跡のあちらこちらで休んでいる元奴隷たちの様子を見に行っている。


 ヴェルにはときどきカミラかオルゴ―が元奴隷との打ち合わせで決まったことを伝えられ、彼は「それでいい」と返すばかりである。


 話し合いの内容もヴェルの住んでいる遺跡から少し離れたところの集落遺跡、つまり城下町のことだが、それを修理していいかというものが中心であった。殆どのものは崩れているが、それでも木などで屋根を作ってやれば十分に暮らせていけるというのが彼らの主張である。加えて、樹海のいくらかを切り開ければ畑がつくれるので、食べ物も十分にとれるとのことだった。


 ヴェルにとってはあまり森を切り開いてはほしくはないため、畑は保留し、一旦城下町の利用を許可した。


 と、そのような単調な話し合いが1時間ほど続いたときである。


「ははぁ、これが白翼竜ヴァ=ヴェル様ですか!」


 そのような明るい声と共に元奴隷たちの隙間より、房からこぼれた豆のように、ボロ布の塊が転がり出た。


「なんだ、これ?」


「こ、こら、ミネヴァ!」


 呆れたヴェルの声に、叱咤する元奴隷リーダーの声が被る。


「いやいや、初めてお目にかかります。

 旅商人のミネヴァでございます。よろしくです」


 そのボロ布はヴェル達の前まで転がると、そのままひれ伏しながら、挨拶をした。ヴェルの目にはボロ布の隙間から見えるちんちくりんな赤毛が映っていた。


「これは、なんだ?

 前みたときこんな奴いたか?」


「あ、ああ、ヴェル様、申し訳ごぜえません!

 ここに来る前に、旅商人を拾ってしまいまして」


「ふむ、それはいいのだが。

 旅商人がこの場に何の用だ?」


「ははぁ!

 魔王の同盟者にして白翼竜ヴァ=ヴェル様におきましては権勢は衰えることを知らず、その有名は王都にも響くほど。

 その領地は暗黒にして進もうとすれば五里霧中。王国が進軍すればヴァ=ヴェル様率いる魔物の軍が蹴散らし、王軍は霧散の有様。

 そうであれば、その土地の――」


「御託はええ。ヴェル様はそのような退屈な世辞は通用せんぞ、若造。

 用件はさっさと言うがよい」


「と、これは失礼いたしましたです。

 わたしは、ヴァ=ヴェル様と商談したく、彼らに混ざっていたのです」


「商談・・・?

 ヴェルが人間のちんけな道具を欲しがるとは思わないけど。それに商談ならわざわざ彼らに混ざる必要もないでしょうに」


「なにせ、ヴァ=ヴェル様の住まう森、遺跡は魔物に溢れているとなれば単身で潜り込むこともできなかったので。

 ちょうど、その時に彼らと出会いまして。なんと、ヴァ=ヴェル様のところに行くと言うではないですか。

 しかも、招待されていると!これは渡りに船、いや、商いに馬車でしょうか!」


「招待とまでは、言っていないがな」


「いえいえ、とにかくこうしてここまでこれたんですから、まあ万事良しです」


 ボロ布をまとって、胸を張るミネヴァを冷ややかに見ながらヴェルはしばし思案した。


「・・・ヴェル、どうする?」


「・・・わかった、こいつと話そう。

 ただし、他の人間は退席してくれ」


 不安そうなカミラの声にヴェルは応える。元奴隷たちは、ヴェルの言葉に従い、素直にテラスから出ていった。彼らも元は奴隷である。目上の者の聞いてはいけない話を聞かないという気遣いはできる。


 その場に残った人間はフレイアとその胸に抱かれる二人の赤子だけである。


「さて、カミラ、そのボロ布を剥げ」


「はい」


「あ、やめてくだせえ、あぁ!」


 ヴェルの命令通りにカミラがボロ布をはぐと、ころり、と小さな赤毛玉が転がった。いや、赤いくせ毛をもった少女だ。


「あぁ、ひどいことしなすんなぁ」


「その訛り。やはり、ホビット・・・いや、ハーフか?」


「えぇ、そうです。わたしはハーフホビットでござえます」


 ミネヴァは茶色い丸い瞳をくるくる回しながら、言葉を返す。その身長は先ほどの人間の胸位しかない。


「それが何か問題あれますか?

 商談相手がホビットだとまずいとでも」


「ホビットは金にがめつい。ドワーフとは違った意味でな。

 ドワーフは金をふっかけて、ホビットは金をごまかすとはよく言う」


「そりゃぁ、酷い誤解ですよ、ヴァ=ヴェル様。

 種族差別でありませんですか?」


「そうかもな。

 だが、何故、お前はあの奴隷たちと合流できた」


「そりゃ、たまたま」


「そう?

 たまたま一人でヴェルの城に乗り込もうふらついて、たまたまヴェルのところに行く人々に合流。

 出来すぎじゃないかしら」


「そりゃ、ヴァ=ヴェル様のところに行くトレジャーハンターを捕まえて合流しようと」


「そんな年に一度か二度かの者を運よく捕まえられるかのぉ?

 それより王国から腕利きの護衛を雇ったほうがいいんじゃないかの」


 三者による追及にミネヴァはもっと瞳をくるくると回していた。要はヴェル達は全員ミネヴァを怪しんでいたのだ。


「あ、あぁー。ばれちゃいましたか」


 そう言って。ミネヴァは残念そうに顔をしかめた。


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