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見習い冒険者はいつになっても正式採用を受けない  作者: Patriot
十六歳〜十八歳

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99/111

人間失格

魔力炉の重厚な金属の胴体に近づいたヒロは、ふと、そこに嵌め込まれた円形の小窓に気づいた。


「……これは」


覗き込んで、息が止まる。

中には、不気味に発光する緑色の液体――魔導液と思われる粘性の高い液体が満たされていた。そして、その液体の中にたゆたうように、一人の人間が沈んでいた。

長く美しい銀の髪を漂わせ、身に纏う衣服もなく、ただ無防備に膝を抱えて目を閉じている。耳の形状から、それが「エルフ」であることは一目で分かった。


魔導液に満たされた炉。その中で眠る、魔力が高く長寿の種族であるエルフ。そして、宮廷魔術師団長が張った隠蔽魔法と厳重な結界。


それらのピースが頭の中で一つに繋がった瞬間、ヒロの背筋を冷たいものが駆け抜け、代わりにドス黒い怒りが沸騰したように込み上げてきた。


握りしめた拳が、怒りと絶望で激しく震える。ヒロはゆっくりと、血走った目を背後の四人に向けた。


「……何年、ですか?」


掠れた、しかし異様なほどに冷たい声に、追いついてきたアルバス、アン、セバス、そしてアルヴィンの足が止まる。四人は突然の質問の意味が分からず、ただ怪訝そうに顔を見合わせた。


堪忍袋の緒が切れたように、ヒロは怒声を浴びせた。


「この人は! 一体、何年ここに閉じ込められてるのかって聞いてんだよ!!」


そのただならぬ気迫と、ヒロの瞳に宿る怒りの炎に気圧され、場の空気が凍りついたように静まり返る。

誰もが言葉を失う中、アルバスだけが、痛ましげに目を伏せ、ゆっくりと重い口を開いた。


「……千年じゃ」


ヒロはその数字を脳内で反芻した瞬間、頭の中が真っ白になった。千年の長きにわたり、小窓の向こうで、このエルフは眠り――いや、搾取され続けてきたというのか。

これまで自分が誇りを持って取り組んできた仕事、人々の暮らしを支え、街を便利にするためのインフラ整備、そしてより良い未来のためにと汗を流した日々のすべてが、残酷な現実へと引き戻される。


(僕がやってきたことは……。人々の暮らしを守るためなんかじゃない。この場所に囚われた、たった一人のエルフから、血を吸い出すように搾り取られた魔力を、ただ効率よくバラまくための手伝いでしかなかったのか……っ!)


胸の奥が引き裂かれるような、激しい自責の念が内側から突き上げてくる。王家が隠し続けてきたこのおぞましい真実への怒りと、無知な自分自身への激しい怒りが、ぐちゃぐちゃに入り混じって脳内を焼き焦がしていく。

静まり返った中で、ヒロの荒い呼吸音だけが重く響いていた。


やがて、震える唇を無理やり開き、ヒロは目の前に立つ四人を睨みつけ、罵るように吐き捨てた。


「……一人のエルフを生贄のように犠牲にし、その事実を隠し通した上で、自分たちだけが千年の繁栄を謳歌してきた。しかも、王都の中心部だけが栄える一方で、辺境は貧しさにあえぎ、この王都の足元にさえスラムが形成される始末だ……!」


言葉を継ぐごとに、怒気はさらに熱を帯びていく。


「そんな歪みきった上に成り立っている国を維持するために、民を騙し、誰かを踏みつけにする……。そんなもののうえに胡坐をかいてきたあなた方に、人の上に立つ資格などありませんよ」


ヒロは声を震わせ、最後の言葉をまっすぐに叩きつけた。


「――王族、いや……人間失格ですね」

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