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見習い冒険者はいつになっても正式採用を受けない  作者: Patriot
十六歳〜十八歳

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空白

区画の計画も無事にまとまった今、スラム再開発は「地下道の完成待ち」という段階に入っていた。

もっとも、こういった本格的な土木工事や掘削作業は別の職人たちの仕事である。そのため、親方の工房は、本来の業務である王都地下の整備・点検へと戻っていった。


そんなある日、ひんやりとした空気が漂う王都地下の一角でヒロは工房の仲間たちとお昼休憩をとっていた。

持参した弁当の包みをほどき、蓋を開ける。

――そこに顔を出した色鮮やかなおかずたちを見た瞬間、ヒロは心の中で歓声を上げた。


(わぁ、今日もすごく美味しそう……!)


その顔に出やすい感動を、周囲の職人仲間たちは見逃さない。


「おいおい。毎日毎日、よくそんなに喜べるな」

「あの受付嬢も作りがいがあるってもんだな!」

「「「わはははは!」」」


職人たちからの容赦ないからかいと野次に、ヒロは顔を真っ赤に染めながら、照れ隠しに箸を手に取った。


いつからだったか。毎朝ギルドの受付で、「よかったら……」と彼女が照れくさそうに手作りのお弁当を渡してくれるようになったのだ。職人達には散々冷やかされるものの、心の底から湧き上がる温かい幸福感を噛みしめながら、ヒロは今日も彼女の愛情が詰まったお弁当を美味しく頬張るのだった。


「それにしてもよぉ、あの王宮での一件……どうにも納得いかねぇよな」


仲間の一人が不満を押し殺したような低い声で呟いた。

言わずもがな、話題の中心はあの日の「魔力炉の改修」についてだ。他の職人たちも食事の手を止め、難しい顔で次々と頷きに同意を示す。


「そうだよな。危険だから触らせないって言うならまだしも、理由のまともな説明すらなしだもんな。いくら相手が剣聖セバス様だからって、腑に落ちねぇよ」


口々に漏れる不満の数々。ヒロもまた、あの日の帰り際に吐き捨てた言葉の裏で、ずっと胸の奥にしこりを抱えたままだった。どれだけ合理的な改善案を出そうとも、「王家の都合」という分厚い壁の向こうに隠されてしまう悔しさが消えなかったのだ。


そのとき、ふと別の職人が首をかしげながら疑問を口にした。


「でもよ……そもそも、魔力炉ってどこにあんだ?」


その言葉に、周囲の空気が少しだけ止まった。

言われてみれば、確かにそうだ。王都中の地下をくまなく歩き、導管の点検や整備を続けてきた。地下の隅々まで知り尽くしているはずなのに、誰も「魔力炉」そのものの実物を見たことがなかったのだ。


ざわめく職人たちの輪の中心で、これまで黙って聞き手に回っていた親方が、重い口を開いた。


「……王宮の地下、その最奥にある」


たった一言、低い声で吐き出されたその言葉に、周囲にいた全員がぴたりと動きを止め、一斉に親方へと視線を釘付けにした。


ヒロは勢いよく立ち上がり、親方の目の前まで詰め寄った。


「どこにあるんですか!? なんでそんなこと知ってるんですか!? この間の会議で『魔力炉周辺の仕事をしたことがない』って言ってたじゃないですか!」


捲し立てるヒロの勢いにたじろぐどころか、親方は面倒くさそうに片手で軽く拳を握ると、ヒロの頭へと容赦なく一発落とした。


「いてっ……!」


頭を押さえてうずくまるヒロに、親方はふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向く。


「……なんとなく、だな。たまに王宮地下の点検をする時に感じるんだよ。違和感をな」


痛む頭をさすりながら、ヒロは納得がいかないといったふうな顔で親方を睨み上げた。


「僕だって王宮の地下に行ったことありますけど、魔力炉の魔力反応なんて微塵も感じませんでしたよ?」


「だから、そういうんじゃねぇんだよ」


親方はやれやれと首を振る。


「王都の地下をくまなく歩き回っても、なぜか『ある場所』だけにはどう足掻いても辿り着けねぇ。しかも厄介なことに、そこに何もないように錯覚させられる。……四十年近くこの街の地下を歩き回って、ようやく『あ、ここにおかしな空白があるな』って違和感が残る程度さ」


親方のその言葉をきっかけに、周囲で聞いていた他の職人たちも、次々と記憶を掘り起こすように声を上げ始めた。


「言われてみれば……確かに、王宮の真下あたりだけ、どうも道のつながりが変っていうか、空間の感覚がズレる気がしてたな」


「そうだそうだ!なぜか中心部分だけぽっかりと抜けてる気がする」


「でもよ、それおかしくねぇか? 別に通行が完全に封鎖されてるわけでも、頑丈な鉄扉で塞がれてるわけでもないのにさ」


口々に疑問を漏らす仲間たちの言葉を聞きながら、ヒロはハッと息を呑んだ。

頭の中で、地下道の構造、魔力の流れ、そして親方の語った「そこに辿り着けない違和感」という言葉が音を立てて噛み合う。


なるほど――長年この王都の地下を支え、誰よりも熟知しているはずの親方や職人たちが、何年働いても実物を見たことがないというのは、そういうことだったのか。

空間そのものを誤認させ、人の意識や足取りを自然とそちらから逸らし続ける――。


(――幻影魔法……!)

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