手紙
木漏れ日の酒場、いつもの席でヒロとガレスは頭を突き合わせるようにして、帝国から届いたばかりの一通の手紙を広げていた。
便箋に並んでいるのは、あの子どもたちの筆跡だ。読み書きを猛特訓したあの日々の成果がしっかりと現れた文字で、二人の十六歳の誕生日を祝う言葉と、これまでの感謝、そして向こうでの新しい暮らしぶりが生き生きと綴られていた。
ヒロは思わずふふっと小さく笑う。
誕生日からちょうど一週間が経った今日、この手紙が届いた。きっと彼らは、手紙を出してから王都に届くまでの日数なんて計算できず、ただ純粋にお祝いの気持ちを乗せてすぐにポストに放り込んだのだろう。不器用で、けれど真っ直ぐな彼らの姿が目に浮かぶようだった。
ガレスは、まるで自分のことのようにワクワクとした期待を隠しきれない様子で、ヒロを急かした。
「おい、なんて書いてあんだよ!早く読んでくれ!」
呆れたようにため息をつきながらも、ヒロは手紙の続きに目を落とす。子どもたちはこんな立派に手紙を書けるようになったというのに、肝心のこの男は相変わらずである。
それでも、ガレスの期待に応えるように、ヒロは手紙の内容を一つひとつかいつまんで説明し始めた。
ガレスは「おう、おう……!」と、まるで我が子の成長を見守る父親のように、大げさに何度も力強くうなずきながらそれに聞き入っていた。
しかし、手紙の次の行に目を落とした瞬間、ヒロの動きがピタリと止まる。
「……っそ、それで? 向こうでどんな仕事についてるんだ?」
ガレスの前のめりな問いかけに、ヒロは文字をじっと凝視したまま、乾いた声で答えた。
「――奴隷、だね」
その一言を聞いた瞬間、ガレスはガタリと椅子を鳴らし、文字通り口をあんぐりと開けた。
「ど、奴隷…………っ!?」
ひっくり返りそうになったガレスをヒロがなだめるように片手で制し、手紙の続きを指差しながら、どこか呆れたような、しかし納得したような口調で説明を続けた。
「奴隷」という呼び名に似つかわしくなく、人権は国民と同様、いや、法的な保護の厚さだけで言えば国民より手厚く尊重されている。そもそもこの王国の人間からすれば物騒に聞こえるが、帝国のこの制度は最低限度の生活を国家が保障するためのシステムであり、誰かの所有物になるような、旧来の非人道的な隷属とは全く異なるものだった。
そのため、もしもその「奴隷」に対し、少しでも非人道的な扱いをしようものなら、身分に関わらず即座に極刑が下されるほど厳しく管理されている。
住む場所や仕事の内容は国家によって厳しく割り振られるものの、その裏で日々の食事や安全は、すべて帝国の絶対的な威信のもとにしっかりと守られていた。
ヒロの丁寧な説明を聞き終えると、ガレスはふっと息を抜き、大きく背もたれに体を預けた。
「……そっか。それなら安心だな。あいつら、ちゃーんと元気にやってんだな」
ガレスの顔に、心からの安堵の笑みが広がる。ヒロもまた、手紙の行間から伝わってくる子どもたちの活気ある様子を思い浮かべ、小さくうなずいた。
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