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見習い冒険者はいつになっても正式採用を受けない  作者: Patriot
七歳〜十歳

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二人の道

次の日から、ヒロの修行は一変した。


無詠唱魔法を習得したのだから、そのまま魔法の極意へと進むかと思いきや、ヒロが手にしたのは魔法書ではなく、木剣だったのだ。


理由は至って単純だった。


言葉を削ぎ落として無詠唱での発動は可能になったものの、肝心の威力は依然として小さく、そのままでは実戦の武器としては使い物にならない。ならば、魔力で「自分の身体を直接強化したらどうなる?」という仮説に至ったのだ。


もし身体の機能を底上げできれば、あの怪物的なガレスの反応速度や圧倒的な膂力にだって、追いつけるのではないか――。


その確信に近い予感が浮かんだ瞬間には、もう体が動いていた。ヒロは久しぶりに木剣を手に取り、岩場へと立っていた。


ガレスの隣に並び、同じように素振りを開始する。

その一閃は、以前のヒロとは比較にならないほどの凄まじい速度を誇っていた。

木剣が空を切り裂く。その生み出された鋭い風の音が、今の自分に宿った力の大きさを雄弁に物語っていた。


頭の中で思い描く理想の軌道と、実際に動く現実の肉体が、完璧にピタリと重なり合っていく。


これまで才能の壁に阻まれて手が出なかった動きが、今や自分のものとして自在に引き出せるようになっていた。


チラリと隣に立つガレスを見ると、その顔には隠しきれないほどの少年らしい満面の笑みが浮かんでいた。

次の瞬間、ガレスはおもむろに岩に向かって得意の火球を放つ。


――だが、ただ放って終わりではなかった。


爆発的な脚力で、自分の放った魔法が岩に辿り着くよりも早くその軌道へと回り込み、凄まじい勢いで大剣を振り抜いて、岩を粉々に砕き散らしたのだ。


「やっぱ、剣の方が速くて強い!」


自慢げに笑うガレスを見て、ヒロは呆れを通り越して、やがて声を上げて笑い始めた。


「ははっ……! 相変わらず規格外だね、君は!」


しばらく笑い合ったあと、ふっと息を整えたヒロは、真面目な顔つきに戻って静かに切り出した。


「ねえ、ガレス。やっぱり君も、魔法を学んだ方がいいよ。僕がやっているように身体を魔力で強化する魔法を使えば、きっともっと強くなれる」


ヒロの真剣な提案に対し、ガレスは微塵の迷いもなく、当たり前だと言わばかりに胸を張って答えた。


「そんなの、ヒロが俺にかけりゃいいんだよ!」


そこに宿っていたのは、打算も、裏も、相手を利用するような意図も一切ない、ただ純粋な相棒への全幅の信頼だった。


自分以上の才を持つ怪物から向けられた、あまりにも真っ直ぐな笑顔。眩しすぎるその信頼をまともに受け止めきれず、ヒロは苦しそうに目を背けた。


(――僕は、君の隣に立つ実力なんてないんだ)


どれだけ魔法の理を重ねても、どれだけ卓越した剣技で誤魔化そうとも、本質的な「器」の差を前にして、おそらく自分にはあの怪物じみた背中の隣に並ぶ資格などないのだと、ヒロは孤独に思い詰めていた。


そんなヒロの複雑な葛藤に気づくこともなく、ガレスは思い出したようにパッと顔を輝かせた。


「そうだ!久々に、本気で打ち合おうぜ!」


ヒロはハッと顔を上げ、無理やり不敵に笑ってみせた。


「いいよ。僕には身体強化の魔法があるんだから、そう簡単には負けないからね」


ガレスの顔に、隠しきれない高揚感が広がる。


「昔みたいな修行ができるな!」


次の瞬間、静まり返った岩場に木剣が激突する乾いた音が響いた。


ガレスが圧倒的な才能で爆発的な急成長を遂げる以前のような、懐かしく、そして何より純粋な互角の打ち合いが始まる。しかし、その攻防の激しさは、かつてのそれとは比べものにならなかった。


ヒロはガレスの微細な体重移動を先読みし、研ぎ澄まれた隙を確実に突いていく。身体強化魔法によって、頭で考えたことが一瞬の遅れもなく肉体に反映される。その一撃一撃の威力は跳ね上がり、今やガレスの全力の猛撃すら正面から受け止められるようになっていた。

打ち込み、避け、また踏み込む。


時間を忘れて剣を交え続けるうちに、空は茜色から深く美しい群青色へと移り変わっていった。


結局、その日の勝負は決着がつかないまま、二人は同時に力尽きて地べたに大の字に寝転がった。

広大な夜空に瞬く星々を見上げながら、荒い息を整える。


「なあ……」


ガレスがふと、口を開いた。


「木こりの爺さんが言ってたぜ。十歳になったら、冒険者になれるんだってさ」


その言葉に、ヒロは静かに目を伏せた。

もうすぐ、子供時代が終わる。


「もうすぐだね」


ヒロがぽつりと呟くと、ガレスは嬉しそうに上半身を起こし、夜空を指差して叫んだ。


「王都へ行こうぜ!」

「――そして、世界一の冒険者になるんだ!」


ガレスの瞳には、果てしない未来がまっすぐに映し出されていた。


だが、その眩しすぎる隣で、ヒロは少しだけ申し訳なさそうに視線を伏せ、夜空に溶けるような小さな声で呟いた。


「……僕は、村に残るよ」

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