↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見習い冒険者はいつになっても正式採用を受けない  作者: Patriot
十五歳〜十六歳

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
89/94

へたれ

王都の巨大な城門の脇にもたれかかり、ヒロは遠ざかっていくガレスと子どもたちの背中を、まぶしそうに見送っていた。


子どもたちに計画を打ち明けてからの数日間は、まるで嵐のように目まぐるしく過ぎ去っていった。

ガレスが用意した綿密な資料を見せられた子どもたちの瞳は、かつてないほどの強い光を宿して輝き、その翌日からは驚くほど慌ただしく旅の準備が始動した。必要な物資を一つずつ買い集め、ギルドにはガレスを正式な護衛とするための指名依頼を出した。


――だが、そうして出発に向けた計画を一つずつ再確認していく上で、ヒロは重大な問題を見落としていたことに気づいた。


肝心の護衛であるガレスが読み書きがほとんど出来なかったのだ。


(――あれは、さすがに参ったね)


長年連れ添い、お互いのことは何でも分かり合っているつもりだった。しかし、ガレスがあまりにも完璧で入念な計画書を懐から出してきたものだから、ヒロは「ガレスがガレスである」ということをすっかり忘れてしまっていたのだ。


そこからはもう、特訓の日々だった。

子どもたち全員が、帝国への入国時や現地での居住手続きで必要となる書類を自分の手で書き上げられるよう、ヒロが文字を教え込み、途中からは見かねた教会の神官や、仕事を終えたリリアまでをも巻き込んでの総力戦となった。そして、夜遅くまでランプの灯りを囲んで文字を追い続けたその猛特訓が、ようやく昨日、無事に終わりを迎えたばかりだった。


怒涛のように過ぎ去った濃密な時間を一つひとつ思い返しているうちに、賑やかだった一行の姿は、王都の外に広がる地平線の向こうへと完全に溶け込み見えなくなっていた。


ヒロは胸の奥のつかえを吐き出すように、ふうっと小さく息をつく。

そして、静かにゆっくりと踵を返した。


(――頼んだよ、ガレス)


ヒロは中心街へと戻りいつものようにギルドの扉をくぐると、リリアの受付へと歩み寄った。いつもの魔力量調査の受注手続きをするためだ。


リリアに、子どもたちとガレスを見送ってきたことを手短に伝えると、彼女は少しだけ遠い目をしてポツリと呟いた。


「……なんだか寂しくなるね」


その言葉に、ヒロはふっと息を吐き、苦笑を浮かべた。


「いえ、準備したり読み書き教えたりで毎日手一杯でしたからね。やっと一息つけるって感じです」


悪気なく、純粋な疲労感からそう返したヒロだったが、次の瞬間、リリアの反応にハッとさせられた。


彼女は上目遣いでヒロを見上げながら、ほんのりと頬を染めて甘く囁いた。


「……私は、寂しいな」


――脳の処理能力が、一瞬で限界を超えた。

ヒロの頭の中は、今聞いた言葉の破壊力で一気に沸騰し、思考回路が完全に停止する。赤くなった顔を見られたくなくて、ヒロは反射的にカウンターの上の依頼書をひったくった。


「い、行ってきますっ!」


それだけ早口でまくし立てると、ヒロは逃げるように背中を向け、慌ててギルドの外へと飛び出していった。


ヒロは通りを無心で駆け続け、気づけばその足は本日の調査区画へと到着していた。


激しく動いたせいか、それとも先ほどの出来事のせいか、頬の熱がどちらによるものなのか分からなくなってくる。その曖昧さに救われるように、胸の激しい動揺も次第におさまっていった。


ヒロは足を止め、ふぅっと深く息を吐き出すと、気を取り直して計測の魔道具を手に取り、いつもの調査を始めた。


一件一件、家を回り、魔道具を接続して数値を記録する。いつもの退屈な単純作業をこなしながら、ヒロの頭の中は別のことでいっぱいになっていた。


――寂しい、か。


王都に出てきてから五年。ヒロは常に誰かと関わり、慌ただしい日々を過ごしてきたから、「孤独」や「寂しさ」とは無縁だった。

でも、リリアはどうだ。彼女はいつもギルドの受付に立ち、多くの冒険者を送り出し、そして無事に帰ってくるのを待つだけの立場にいる。もちろん、ここ最近は一緒に酒場へ行ったり、受付嬢たちと楽しそうに笑い合ったりと、彼女の周りの交友関係は確実に広がっていたはずだ。


それでも、ふと零したあの言葉。


きっと、あの慌ただしくも賑やかだった時間が彼女にとって純粋に楽しかったからこそ、寂しかったんだろう。

ヒロだって、本当はすごく楽しかった。みんなで頭を突き合わせて帝国への計画を立て、物資を買い集め、夜遅くまでランプの灯りの下で読み書きの勉強に付き合って……。終わってみれば、かけがえのない時間だった。

そのことに気づいた瞬間、ヒロの胸がキュッと締め付けられた。


ーーリリアさんに寂しい思いをさせたくない。


振り返れば、いつも自分からリリアを誘うことはできなかった。向こうから声をかけてもらい、照れくさがりながらも、結局はリリアに手を引かれてばかりだったじゃないか。


(――情けないな。男だろ、僕は。これからは、ちゃんと自分から誘おう)


心の中で固くそう誓い、ヒロはわずかに口元を引き締めた。


「……ま、明日から、ね」

お読みいただきありがとうございました!「続きが気になる」「面白い」と思っていただけましたら、画面下の「ブックマーク登録」や「★(評価)」で応援していただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。