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見習い冒険者はいつになっても正式採用を受けない  作者: Patriot
十五歳〜十六歳

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測れないもの

魔力量の調査という仕事は、文字で見るよりも遥かに途方もなく泥臭い作業だった。


王都全体が消費している魔力の総量と、魔力炉が生み出す魔力の正確な計測。頭の中では理屈として理解していたつもりだったが、実際に始めてみるのは訳が違った。


区画ごとに一件一件の家を自分の足で回り、特殊な計測用の魔道具を一つずつ接続して数値を確認していく。


そして何より、それが圧倒的に「単純作業」すぎた。

変化のない作業を延々と繰り返すうちに、思考が失われ、ただただ退屈と疲労感だけが蓄積していく。


そのためヒロは、その日の指定された区画の周辺にある、別の小さな依頼をいくつか並行して引き受けることで、どうにか退屈を紛らわせようとしていた。


そんなある日。


その日割り振られた調査のついでにと、軽い気持ちで受けた「配管の小さな水漏れ修理」の作業を無事に完了させると、依頼主である年配の女性が「お疲れ様だろうから、まあ上がって一杯お茶でも飲んでいきなさいよ」と温かく招き入れてくれた。


一息つきながら差し出された温かいお茶の湯気を眺めていると、自然と会話は世間話から今日の仕事の話題へと移っていった。


「――へぇ、今の時期は魔力の消費量調査なんてやってるんだねぇ。本当、地道で大変な作業だこと。……そういえばね、噂によると、あそこの大国……帝国の方じゃ、各家庭の魔導具に最初から使用量を自動で計測する装置が備え付けられてるらしいじゃないか」


依頼主が何気なく口にしたその一言に、ヒロは口元へ運びかけていたカップを、ふと止めた。


(――すごいな。帝国ならこんな調査なんてすぐ終わるんだろうな。いや、もしかしたら……こんな依頼自体が存在しないのかもしれない)


そんなことを考えながら、依頼主に丁寧にお茶の礼を言い、温かい笑顔に見送られながら家をあとにする。


ポケットの中でカチャリと鳴る計測用魔道具の重みを改めて感じながら、ヒロは気持ちを切り替え、残りの調査を終わらせるため、西日に染まり始める街路へと再び足を踏み出した。



残りの計測を終えたヒロはギルドへと報告に向かった。


今日の調査区画は王都の中心街からかなり離れていたため、ギルドの建物にたどり着いた頃には、すっかりあたりは夜の闇に包まれていた。


重い扉を開けて中に入ると、夜遅い時間ということもあって閑散としており、受付の職員たちも数名を残して、ほとんどが既に退勤した後のようだった。


ヒロは静まり返ったフロアを歩き、そのまま真っ直ぐにリリアの元へと向かう。


「リリアさん、今日の分の調査報告です」


ヒロがポケットから記録用紙を差し出すと、リリアは「お疲れ様、ヒロくん」と柔らかく微笑みながら受け取り、手慣れた様子で素早く事務処理を片付けていく。


最後の確認を終え、パタンと書類を閉じたリリアは、ほっと息をつきながら自分の席から立ち上がった。どうやら彼女も、今日の仕事を終えて退勤するようだ。


「リリアさん、こんな遅い時間まで残って働いてるんですね。他の人たちはもうほとんど帰ってるのに……」


ヒロが驚きを含んだ声でそう尋ねると、リリアはふっと呆れたような、それでいてどこか困ったような笑みを浮かべた。そして、ほんのりと可愛らしく頬を赤らめながら、小さな声で呟く。


「……バカ」


「えっ……?」


予想外の言葉を投げかけられたヒロは、なぜ自分がそんな風に言われたのか全く理解できず、きょとんと目を丸くしたまま、反射的に頭を下げていた。


「す、すいません……! 何か失礼なこと言いました!?」


リリアは返事もせずにトコトコとカウンターから出てきて迷いのない手つきでヒロの右手をそっと握りしめる。


「……もう遅いし、帰ろっか」


ほんのりと頬を染めたまま、彼女はそう言って歩き出した。


ヒロは繋がれた手と、先ほどの「バカ」という言葉の真意が結びつかず、戸惑いを隠せないままその後に続く。怒っているわけではなさそうだけれど、なぜあんな言葉を言われたのか皆目見当がつかない。なんと声をかけたらいいものかと悩み、ヒロは黙って横を歩くしかなかった。


一方のリリアは、そんなヒロの気も知らず、時折繋いだ手を軽く揺らしながら「今日の夕飯、何にしようか……やっぱりあそこのスープが温まっていいよね」と、すっかり楽しそうな様子で語りかけてくる。


(――女の子の考えてることって、本当に全然わかんないな……)


そんなことを考えていると、不意にリリアがヒロの顔をのぞき込んできた。


「……ねえ、ヒロくん? 私の話、ちゃんと聞いてる?」


夜風に揺れるリリアの髪の香りと、ふわりと繋がれた手の温もりが、戸惑うヒロの思考を優しく溶かしていく。

見上げれば、夜空には静かに星が瞬いていて――正解なんて分からないままでも、悪くない夜だと思えた。

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