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見習い冒険者はいつになっても正式採用を受けない  作者: Patriot
十歳〜十二歳

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25/89

初仕事

ギルドを出た二人はしばらく並んで歩いた後、それぞれの目的地へ向かうために別れた。


ガレスの猛々しい気配が城門の外へと遠ざかっていくのを感じながら、ヒロは静かに王都の地下へと続く石階段を降りていく。


華やかな王都の表通りとは正反対。

地下には、街を支える者たちだけが知る、無機質で冷たい世界が広がっていた。


(地図を借りて来ればよかったな……)


小さく苦笑しながら、ヒロは探知魔法を発動し、ゆっくりと魔力を周囲へと広げていく。

すると、まるで精巧な蜘蛛の巣のように張り巡らされた王都の地下構造が、立体図のように頭の中に鮮明に浮かび上がった。


(……あそこだ)


迷いのない足取りで通路を進み、人の魔力反応があった場所を目指す。

やがて、重く響く金属音とともに、開けた地下通路の一角へと辿り着いた。

そこは、街の基盤を支える巨大な魔力導管が通っている場所であり、現在はまさにその修繕が行われている最中だった。

その周囲では、数人の職人たちが真剣な表情で議論を交わしながら、手際よく作業を進めている。

煤に汚れた作業着。

油で黒く染まった節くれた手。

その姿を見た瞬間、ヒロの脳裏にモルドの頑強な背中が鮮やかに浮かび上がった。胸の奥が微かに熱くなり、ヒロは肩に担いだ赤い工具箱をしっかりと持ち直す。


「失礼します」


一歩、地下通路の修繕現場へと足を踏み入れた。


「ギルドの依頼で来ました。職人補佐として、お手伝いさせてください」


その声に、導管の周囲で動いていた職人たちの手がピタリと止まる。

一人の男が顔をしかめ、値踏みするような視線を向けた。


「……ガキ? ギルドもいよいよ人手不足だな」


「ここは遊び場じゃねぇんだ。危ねぇからさっさと帰れ」


冷ややかな言葉が飛ぶ。

しかし、ヒロは動じなかった。


「依頼です。仕事をしに来ました」


その揺るぎない一言に、現場の空気がわずかにピリッと引き締まる。

奥から、現場を束ねる屈強な親方が、足音を響かせながらゆっくりと歩み寄ってきた。


「聞こえなかったか。帰れ!」


低く、腹に響くような野太い声が叩きつけられる。

ヒロは小さく息を吐き、困ったように眉を寄せた。


(……困ったな)


その時、ふと親方の視線が、ヒロの肩にかけられた赤い工具箱に釘付けになった。


「……おい。その工具箱、開けてみろ」


ヒロは工具箱へ視線を落とした。

彼はそれを肩から外し、冷たい石畳の地面へ丁寧に置いた。

静かに膝をつき、金具に手を掛ける。

カチリ。

乾いたその音だけが、薄暗い地下通路に妙に大きく響き渡った。

誰も動かない。

誰も喋らない。

屈強な職人たちは、吸い寄せられるようにその工具箱の中身をじっと見つめていた。

長い、長い沈黙がその場を支配する。

やがて、一人の職人が息を呑むように呟き、手を伸ばした。


「……坊主。その鏨、触ってもいいか」


ヒロは無言で、静かに頷く。

その返事を待っていたかのように、先ほどまで警戒していた職人たちが一斉に工具箱を囲み込んだ。

鏨を一本。

金槌を一本。

鑿を一本。

誰もが荒々しさを消し、まるでガラス細工を扱うかのように丁寧に持ち上げる。

握る。

重心を確かめる。

刃先の仕上がりを見る。

鉄の焼き色を舐めるように見つめる。

何度も角度を変えながら、職人たちは無言でその細部を味わい尽くしていく。

誰も言葉を発しない。

親方もまた、無言のまま重みのある金槌を手に取った。

軽く振る。

手に馴染ませるように握り直す。

何度か、その重みとバランスを確かめる。

そして、親方はそれを元の場所へ、あまりにも丁重に戻した。

周囲の職人たちも、手に持った道具をそれぞれ元の収まりどころへと丁寧に返していく。

再び、重い沈黙。

やがて、親方が低い声でぽつりと呟いた。


「……いい道具だ」


たった一言。

しかし、その言葉の重みに、他の職人たちが一斉に深く頷いた。


「ああ……」


「ここまで使い込まれてるのに、狂いが微塵もねぇ」


「毎日、しっかりと手入れをしてきた道具だ」


「……仕事を知ってる、本物の道具だな」


誰も「すごい」とは口に出さない。

ただ、その工具へと向けられる職人たちの眼差しだけが、どんな賛辞よりも雄弁にその価値を語っていた。

親方は工具箱をそっと閉じると、両手でしっかりと抱え上げ、ヒロへと差し出した。

ヒロは両手でそれを大事そうに受け取る。


「小僧……仕事だ」


親方はぶっきらぼうに、だが最初の拒絶とは全く違う響きで言った。

ヒロは深く、綺麗に頭を下げる。


「……よろしくお願いします」


親方は小さく、しかしハッキリと頷いた。


「礼は仕事の出来で返せ。……おい、お前らもだ」


親方が周囲の職人たちを見渡す。


「しっかり仕込め。手は抜くなよ」


その言葉に、職人たちは気さくに笑って頷いた。


「よろしくな、坊主」


「分からねぇことがあったら、何でも俺らに聞けよ」


「遠慮すんな、しっかり教えてやる」


さっきまでの刺々しい空気は、もう地下通路のどこにも残っていなかった。

ヒロは胸に抱いた工具箱へ、そっと指先で優しく触れる。

そして、誰にも聞こえない声で心の中だけで呟いた。


(……ありがとうございます)


その工具箱は、王都の地下深くでも、確かに一人の誇り高き職人の生き様を語っていた。


本格的なヒロの初仕事が、冷やりとした王都の地下通路で幕を開けた。


ギルドの依頼書には「職人補佐」と綺麗ごとのように書かれていたが、現場の職人たちが新人に最初から楽をさせてくれるはずもない。手取り足取り優しく教えてもらえるなどという甘えは一切なく、親方から言い渡されたのは、「まずは自分でやってみろ」という実地での試練だった。


とはいえ、いきなり主幹の太い導管を任されるわけではない。経験の浅い新人だからこそ割り振られたのは、手のひらほどの細い魔力導管の点検だった。命に関わるような大掛かりな魔力暴走の危険こそないものの、地道で確実な技術が求められる仕事だ。


ヒロは少しだけ呆れたように肩をすくめながらも、どこか嬉しそうに微笑んだ。


(――職人って、みんなこういう人たちばかりなんだな……)


モルドのぶっきらぼうで、けれど確かな技術に裏打ちされた背中を思い出し、ヒロはふっと息を吐き出す。

そして、緩んでいた気を引き締め直すと、スッと瞳の色を変えて体内の魔力を練り始めた。

掌のなかに、心地よい魔力のうねりが集まっていく。


――さぁ、師匠から受け継いだ技術と、僕の魔法を見せる時だ。


親方は腕を組み、険しい視線でじっとヒロの動きを見つめている。

ヒロは左手をそっと細い導管にかざし、精緻な探知魔法を発動した。

魔力の糸が導管の内部へと滑り込み、肉眼では捉えられないわずかな歪み、微細な傷までも完璧に炙り出す。

その的確すぎる魔法の妙に、親方の眉がピクリと動いた。


周囲で別の作業をしていた職人たちも、ただならぬ気配を感じ取って、じりじりと手を止めて集まってくる。

続いて、ヒロは右手をかざして修繕魔法を発動した。

淡い光が導管を包み込み、みるみるうちに表面の歪みや傷が滑らかに修復されていく。


「おおっ……」


職人たちの間から、思わず感嘆の声が漏れた。

しかし、親方はまだ不満そうに鼻を鳴らし、腕組みを解かない。


だが、そんな周囲のざわめきや視線など、今のヒロには一切耳にも目にも入っていなかった。彼の意識は目の前の仕事だけに完全に没頭している。

魔法の光が収まると、ヒロはわずかに首を横に振った。


(――やっぱり、今の魔法の精度じゃ、手作業の域には遠く及ばないね)


魔法の便利さに頼るのではなく、あくまで職人としての最高の結果を求める。

ヒロは迷うことなく、足元に置いた工具箱を開き、使い慣れた槌をぎゅっと握り締めた。


(……お願いします)


心の中で語りかけるようにそう呟き、ヒロは槌を振り下ろした。

その淀みのない、あまりにも洗練された美しい軌道と構えを見た瞬間。

親方は思わずカッと目を見開き、周りを取り囲んでいた職人たちは息を呑み、完全に言葉を失った。


一人の職人が、もう見ていられなくなったとばかりに我慢しきれず、ガシガシと頭を掻きながらヒロへ駆け寄った。


「……あぁっくそっ、そうじゃねぇ! せっかく振り方はいいのに、そこじゃねぇよ……っ!」


そう叫ぶと、我慢できずに打つべき場所と絶妙な手首の角度を的確に叩き込むように教え始めた。

それを皮切りとして、堰を切ったように周囲の職人たちがざわめき出す。


「貸せ、そこはこうだ!」


「馬鹿野郎、お前のは荒っぽすぎる! こうやって力を逃がすんだ!」


我先にと、自分の技術を、コツを、長年かけて体に染み込ませてきたすべてを教え込もうと、職人たちがヒロの周囲にわっと群がり集まった。

ヒロの持っている技術や、叩き出す一撃の基礎が拙いわけでは決してない。

ただ、純粋に「経験」が足りていないだけ。

職人たちには、それが一目で痛いほどよく分かっていた。

たった一振り。その金属音と、道具の軌道を見れば分かる。

この少年が、その短い人生の中で、どれほど槌を振り続けてきたのか。


――伝えたい。


この、愚直なまでに泥臭く積み上げてきた「努力の天才」に、自分が今まで培ってきた技術のすべてを、今すぐこの手で教えてやりたい。

職人たちの心に火がつき、導管の修繕現場はいつしか熱を帯びた指導の場へと変わっていた。

その様子を少し離れた場所から眺めながら、親方は呆れたように息を吐きつつも、その口元には隠しきれない深い笑みが浮かんでいた。


「――昼飯だ!」


親方の野太い声が、地下通路の反響音と共に響き渡る。

それを合図に、ヒロを取り囲んでいた職人たちが「おっ、もうそんな時間か」「腹減ったな」と口々に声を上げた。


一行は導管の作業場を離れ、地下通路が十字に交わる少し開けた場所へと移動する。

そこは地下での修繕や作業があるとき、職人たちが自然と集まって腰を下ろす、いわば秘密基地のような休憩場所だった。

他の面々が腰を下ろして包みを開く中、ヒロだけはその場に膝を抱えて座り込んでいた。

先ほど職人たちから教わったばかりの技術と感覚を忘れないよう、ヒロは無意識のうちに右手を動かし、何度も槌を振るい続けている。


(角度は少し寝かせて、速度を均一に……。体に覚え込ませないと)


一心不乱に腕を振るヒロの頭上へ、容赦なくガツンと重い音が落ちた。


「ゴツッ!」

「いてっ……!」


親方のゴツい拳骨がヒロの頭頂部に直撃し、視界に盛大に火花が飛び散る。


「小僧! 飯を食えっ!」


その荒荒しい声にハッと我に返り、ヒロは自分の額を押さえて目をパチクリさせた。

そして、自分が弁当の類を一切持っていないことに今さら気づき、気まずそうに頭を掻く。


「あ……あの、僕、お昼ご飯を用意してなくて……」


言いかけたヒロを見て、周囲の職人たちは呆れたようにやれやれと顔を見合わせた。


「まったく、これだから夢中になると周りが見えなくなる馬鹿はよ」


そう言いながら、職人たちが次々と自分の持ってきた弁当の包みを開き始める。


「ほら、うちの嫁特製の塩漬け肉だ。分けてやるよ」


「俺のところの硬い黒パンだけど、スープに浸すと美味いぞ」


「野菜の切れ端の煮込みもあるぜ、遠慮すんな!」


「えっ、でも、悪いですよ……っ」と恐縮するヒロの周りに、一品、また一品と温かな差し入れが次々に分け与えられていく。

無骨で荒くれ者に見えた職人たちの不器用な優しさに囲まれながら、ヒロはぽっと頬を染め、嬉しそうにそれらを口に運ぶのだった。


午後の作業を終えて道具を片付けると、太陽の光が届かない地下でも、職人たちの手際の良い動きから夕方にはまだ早い時間である事が察せられた。


(なるほど……職人たちの朝は早い。だからその分、昼食もしっかりとって、夕方前には今日の仕事をきっちり終わらせるんだ)


ヒロは納得したように小さくうなずくと、明日からは自分もちゃんと昼食の弁当を持ってこようと心に誓った。


「おう、小僧、またな!」

「しっかり寝ろよ!」


口々に声をかけてくれる職人一行と地下通路の分かれ道で別れを告げると、ヒロは充実感を胸にギルドへと急いだ。


ギルドに戻り、受付で待っていたリリアに今日の修繕作業の完了をしっかりと報告する。

リリアは今朝とは打って変わって安心したような、どこか誇らしげな微笑みを浮かべながら受理の手続きを済ませてくれた。


「お疲れ様でした。初仕事、よく頑張りましたね」


その言葉に頭を下げて報酬を受け取ったヒロは、まだ手のひらに残る確かな重みと硬貨の温もりをしっかりと握りしめると、足早に――一日の終わりが待つ、あの温かな酒場へと向けて駆り出すのだった。


初日の緊張や、昨日の戸惑いとも違う。

胸を張れるだけの汗と充実感を纏って、ヒロは酒場の扉を少し誇らしげに押し開いた。


「ただいま!」


勢いよく放たれたその声に、カウンターの向こうでグラスを拭いていた女将が顔を上げる。少しだけ柔らかい表情を浮かべた女将は、無言で店の奥にある「あの席」をあごでしゃくってみせた。


促されるままに視線を向ければ、そこには腕を組んでふんわりと頬を膨らませたガレスが座っていた。


「遅い!」とでも言いたげに、不機嫌そうにフンと派手に鼻を鳴らしている。


そんなガレスの前に、セレナがカップをテーブルに置きながら、ふわりと優しく微笑んだ。


「おかえり」


ヒロはその席へと真っ直ぐに向かった。

テーブルの上には、湯気一つない山盛りの料理がドンと置かれている。


――しかし、どう見てもすっかり冷め切っていた。


セレナは「待ってました」と言わんばかりにそれらをカウンターの向こうへ運んでいく。

そして、呆れたようにため息をつく女将のへとそれを手渡した。

その瞬間、静まりかけた酒場の空気を切り裂くように、盛大な音が店内に響き渡る。


「ぐぅぅ~~……っ!」


他でもない、ガレスの腹の虫だった。

それを聞いた女将は、ジュウジューと音を立て始めた鍋で温め直しながら、カウンター越しに怒鳴り声を飛ばす。


「 早く食えって言っただろ、この意地っ張り!」


女将により手早く温め直された湯気立つ料理を、セレナが手際よくテーブルへと運んでいく。

並べられた皿のあまりの豪華さに、ヒロは思わず目を丸くした。


「すごいご馳走だね……」


呟いてから顔を上げ、対面に座るガレスを見る。

ガレスは得意げに鼻を鳴らし、懐から一枚の分厚い報告書を取り出してひょいと掲げた。


「……28体だ!」


「おお……っ」とヒロはそれを受け取り、じっくりと報告書の文字や数字を目で追う。

元々の依頼は「ゴブリン討伐三匹」。ガレスがこなしてきた数は、その予測を遥かに上回るものだった。


「……まずね、字が汚い」


ヒロはリリアに何度も赤ペンで訂正されたであろう、グニャグニャとした文字の箇所をぴしゃりと指差す。


「うっ……!」


ガレスがわずかにたじろぐ。

さらにヒロは、討伐現場の場所と王都との距離を頭の中で素早く計算し、鋭い視線を向けた。


「君の実力なら、こんなの朝のうちに終わってるはずだよ。そんな時間から、こんなに腹を減らしてまで我慢できるはずがないね!」


「っ!! ちっ、違う、少し手こずって……帰ってきたのは夕方前なんだよ……!」


図星を突かれたのか、ガレスはバツが悪そうに頭をガシガシと掻きむしる。

ヒロはすっと立ち上がると、ガレスの目の前でぴしっと腕を組み、冷徹に(しかしどこか楽しげに)説教を始めた。


「いーや! 君がゴブリンごときに手こずるはずがないね!」


ガレスは観念したようにガックリと肩を落とし、大きな身体を小さく丸めて項垂れた。


「……悪かったよ。白状するさ」


渋々といった様子で、ガレスはぽつりぽつりと今日の失態を語り始めた。


「依頼書の内容なんて、受け取った瞬間に頭からすぐ飛んじまったんだよ。だから、そのままの勢いで王都の森に突っ込んで、気配だけでゴブリンを探し回った。……ただ、調子に乗って狩りまくったから、数を数えるのも途中から面倒になって…….」


言い訳がましいその言葉に、ヒロは「やれやれ」といった様子で呆れたため息をつく。


「それで?」


「……その、慣れねぇ森の奥まで行きすぎて、王都の方角が分からなくなったんだよ」


ガレスは決まり悪そうにボリボリと頭を掻く。


「俺の鼻じゃ、魔獣や獣の気配なら簡単に探れる。けど、石造りの城壁の気配は探れなくてよ……。気づいたら見知らぬ深い森の中だったんだ」


「それで、どうやって帰ってきたのさ」


ヒロが呆れ半分で問い詰めると、ガレスはふんっと胸を張ってみせた(が、すぐに気まずそうにしぼんだ)。


「……だから、あえて近くの山に登った。山の頂上から周囲を見渡して、王都の方角を確認して、やっとこさ帰ってきたってわけよ」


呆れ返るかと思いきや、ヒロはふっと表情を緩め、次の瞬間にはいつもの眩しいほどの満面の笑みを浮かべた。


ガレスが怪訝そうにまばたきをする。


「山の頂上までわざわざ登って、それからまた方向を確認して王都まで戻ってきたんだよね? 夕方前までに!」


ヒロの瞳に、純粋な感嘆の光が宿る。


「すごいじゃないか、ガレス!」


怒られると思っていたガレスは、その予想外すぎる称賛の言葉に「おっ……?」と間抜けな声を漏らした。しかし、目の前でキラキラと目を輝かせるヒロの姿を見ると、急に調子を取り戻して鼻を高くする。


「へへっ! もっと褒めろ、もっとだ!」


ガレスは豪快に胸を張り、照れ隠しも混じった満面の笑みでふんぞり返ってみせるのだった。


「ガツンッ!!」


心地よく調子に乗りかけていた二人の頭上に、容赦なく女将の重たい拳骨が炸裂した。


「いてっ!?」

「いったぁ……!」


頭を押さえてうずくまる二人の間に立ちはだかり、女将は鬼の形相でガレスの鼻先にズイッと指を突き立てる。


「あんたはもっとちゃんと依頼書を読みな! 」


さらに、クルリと身を翻して今度はヒロに向き直る。


「……そんであんたは! 変なとこで感心して甘やかすんじゃないよ!!」


「はい、すみません……」


女将の正論すぎる一喝に、二人はシュンと小さくなって頭を垂れる。

その光景を見た瞬間、静まり返っていた酒場から、どっと大きな笑い声が湧き起こった。

ガハハハ! と豪快に笑う者、ジョッキを叩いて大笑いする者。

酒場の常連客たちは、面白そうにその様子を眺めていた。

もともと、この二人が店にやってきた初日。常連たちからすれば「変なガキどもが迷い込んできた」としか思えず、最初は追い返してやろうとすら考えていたのだ。


だが、あの女将がすんなりと受け入れた。


だから常連たちも仕方なく、一昨日も、昨日も、荒くれ者なりの我慢で二人を見守っていた。

しかし、今日の二人の微笑ましいやり取り。そして、それを呆れながらも温かく見守る女将やセレナの姿を目の当たりにしてしまったら――。

いままで構えていた気負いも、不満も、すべてがすっかりバカバカしく消え失せていた。


「いいコンビじゃねぇか!」

「迷子のスキルでも持ってんのか!」


常連客たちの野次と笑い声が飛び交う中、どこか温かな空気が酒場全体を優しく包み込んでいくのだった。

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