旅立ち
ヒロの怒りがおさまりしばらくした後、神官や技術者たちは二人に強く王都へ行くことを勧めた。
無理もないことだった。
どれほど二人の身体が特殊な耐性を持っていようとも、このままこの場所に留まり続ければ、体にどんな悪影響が出るか分かったものではなかった。
それに、まだ十歳の子供二人だけでこの廃村で生きていくなど、大人たちの常識では到底考えられることではなかった。
だが、ヒロはその誘いをはっきりと断った。
「――まだ、やることがあるんだ」
やるべきこと。それは、壊れた魔力導管を直すことだった。
そんなことをしたって、もう失われた人命が戻ってくるわけではない。理屈で考えれば、そんな作業はすべてが無駄で、意味のない徒労にすぎないことくらい、ヒロ自身が一番よく分かっていた。
それでも。
自分たちを育ててくれた村人たちが眠るこの場所を、汚染されたままの状態で放置することは、どうしても許せなかった。
ガレスは、何も言わなかった。
王都に行くかどうかの問いにも答えず、ただ静かにヒロの意思を受け入れた。
それからしばらくの間、二人だけで生活した。
ガレスはヒロの指示に従い、地下深くへと重たい資材を黙々と運び込んだ。ヒロが作業に没頭している間は、山へ赴いて安全な水源から水を汲み、食べられる木の実や獲物を調達してヒロの元へ運んだ。言葉数は少なかったが、二人の息はかつてよりも深く、強く噛み合っていた。
作業が終わり、夕暮れの広場で二人で食事をとるとき、ふと過去の思い出が蘇ることがあった。
あの日はあんな馬鹿なことをした、あいつはあんな失敗をやらかした――そんな他愛のない昔話を、ぽつり、ぽつりと口にする。
それはまるで、胸の奥の冷たい痛みを忘れ去るためだった。
あるいは、もう二度と戻らないかつての楽しかった日々を、せめて形だけでも取り返すためだったのかもしれない。
数日後の早朝。
冷たい朝霧がまだ村を包み込んでいる頃、村の入り口にある小さな門に、ガレスはもたれかかりながら静かにヒロを待っていた。
やがて、道具をまとめたヒロがゆっくりと歩いてくる。
出発の前に、ヒロはもう一度振り返り、生まれ育った村を見渡した。
完璧とまではいかない。
だが、モルドに叩き込まれた鍛冶の技術と、自ら見出した魔法。今、自分にできるすべてを注ぎ込み、修繕を終えた村は、かつての美しさを静かに取り戻していた。
もう、この村で今の自分にできることは何もない。
けれど――外には、まだある。
この村と同じように、誰にも気づかれない場所で壊れかけているものが、きっとある。
たった一本の導管が壊れただけで、大切な人たちが死ぬ。
そんな理不尽を、もう二度と見たくなかった。
ならば、自分にできることは一つしかない。
壊れる前に、直す。
ヒロはぐっと息を吸い込むと、迷いのない足取りで村に背を向け、歩き出した。
「お待たせ」
「おうっ!」
ガレスが力強く笑い、その後に続く。
二人の歩みに合わせて、ヒロの背で赤い工具箱が、ガレスの背で大きな大剣が、それぞれに小さく音を立てて揺れる。
その重みが、新しい未来へと踏み出す二人の背中を優しく押しているかのようだった。
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