↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見習い冒険者はいつになっても正式採用を受けない  作者: Patriot
七歳〜十歳

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/90

異変

鍛冶場にこもる日々の中で、ヒロは自らの編み出した魔法を修繕作業に応用していく。


魔力を纏わせた槌を振るい、目で捉えられない極小の亀裂を魔力の探知によって浮き彫りにする。赤熱した鉄塊を、大まかな形状へと魔法の力で一気に引き延ばし、成形していく。


もちろん、長年の経験と熟練の技が染みついたモルドのそれと比べれば、手作業の精密さにおいてはまだ遠く及ばない。しかし、その圧倒的な効率は、かつての常識を塗り替えるものだった。


ヒロが魔法を取り入れたことで、鍛冶場全体の作業負担は大幅に軽減された。

これまでなら丸一日かかっていた農具の修繕も、ほんのわずかな時間で完了する。そのおかげで、ヒロの手には大きな余裕が生まれた。


それまで手が回っていたのは、村人たちから直接頼まれる鍬や鎌、鍋といった身の回りの生活用品の修理がせいぜいだった。だが、時間に余裕ができた今のヒロは、より大規模な村のインフラへと目を向けることができるようになっていた。


村の入り口に架かる古い木製の橋。

荷車の通行で長年すり減り、あちこちがひび割れた石畳。

生活用水を引くための、山手から続く水道のパイプや水路の修繕。

これまで手が届かず、大人たちが人手を割いて騙し騙し直していたこうした公共の場所へ、ヒロは自ら進んで出向くようになった。


魔力で劣化した木材の繊維を強化し、砕けた石畳を魔法の熱で綺麗に融着させて継ぎ目を無くす。

ヒロが村中を駆け巡って修繕を行うたびに、かつてはガタついていた村のあちこちが、みるみるうちに蘇っていく。


「おいおい、ヒロちゃん。この橋、新しく建て替えたみたいに頑丈になったじゃないか!」


「助かるよ、これで重い荷車も安心して通せるねぇ」


村人たちの明るい笑顔と感謝の声が、ヒロの胸のつかえをそっと解かしていく。

自分が選んだこの場所で、自分にしかできない方法で、確かにこの村を支えている――その実感だけが、今のヒロの心を静かに満たしていた。


これから先、自分はモルドの技術と魔法を活かして、この貧しい村で静かだが安定した暮らしを支えていける――。


そんな小さな安堵に包まれかけていた最中、静かに、しかし確実に、不気味な異変が訪れていた。


そんなある日、ヒロはいつものように日課である畑の土壌を見にきていた。

手で掴んだ土の感触を確かめ、微弱な魔力を流して栄養状態を探る。しかし、指先から返ってきた反応に、ヒロは思わず手を止めた。


――おかしい。


何かが、いつもと違う。

いつもなら土の中から返ってくるはずの微かな魔力の反応が、どこか鈍い。

作物の根も、いつもよりわずかに生気を失っているように感じられた。


胸騒ぎを覚えたヒロは、急ぎ足で村の飼育小屋へと向かった。

牛や豚、鶏を見て回る。だが、どの家畜も地面にぐったりと伏せたまま、心なしか元気がないように思えた。毛並みにはツヤがなく、どこか苦しげに荒い息をついている。


一刻の猶予もないと判断したヒロは、すぐに鍛冶場へ走り、モルドにこれまでの異変を早口で告げた。

モルドは一言も発さず小さく頷き、ただ静かに槌を置くと、すぐに腰を上げ、鍛冶場を出た。


モルドが動き出したとはいえ、居ても立ってもいられなくなったヒロは、畑へと引き返そうとする。その背中に、懐かしい声がかけられた。


「ヒロ!」


振り返ると、そこに立っていたのはガレスだった。


「何か……あったのか?」


あの夜以来、ずっと避けるように顔を合わせずにいた。まともに言葉を交わすのは、本当に久しぶりだった。


ーーしかし、そんなことはどうでも良かった。


動揺を隠せないヒロは、これまでの土の異常や家畜の様子を必死に説明する。

それを聞いたガレスは、ふっと眉をひそめ、「やっぱりな」という顔をした。


「あぁ。水が臭ぇんだよ。それに……最近、食うパンも妙に硬えしよ」


言われてハッとする。


そういえば、修行に行かなくなってからというもの、ヒロはパンを貰っていなかった。

ガレスの言葉は、村全体で起きている異常が、すでに生活の細部にまで及んでいることを示していた。


顔色を青ざめさせたヒロは、嫌な予感に駆られるまま村の中心にある井戸へと走り出した。

ガレスは「おい、ヒロ!」と焦った様子でその後を猛然と追いかける。


井戸の前にたどり着いたヒロは、震える手でロープを掴み、必死の思いで桶を汲み上げようとした。しかし、なぜか胸騒ぎのせいで力が上手く入らない。


「代われ!」


ガレスが鋭く声を張り上げると、ヒロを押し退けるようにしてロープを掴む。

その圧倒的な怪力で、ガレスが勢いよく一気に引き上げた。


ガレスは桶を覗き込み鼻をひくつかせ、顔をしかめた。


「……やっぱ臭えな。これ、変だぞ」


ヒロは言われるままに桶の縁に手をかけ、中の水を見つめる。

ガレスが言うような生臭さや異臭は、ヒロの鼻に全く感じ取れなかった。しかし、水面から放たれる微細な波紋に魔力を集中させた瞬間、背筋が凍るような感覚が走る。

――水の中に、得体の知れない澱んだ魔力が混じっている。


村の生命線である井戸が何らかの原因で汚染されている。


「ガレス!」


ヒロは振り返り、鋭く相棒の名を呼んだ。


「山に行って、上の水源から綺麗な水を汲んできてくれ!」


ガレスは迷うことなく「おうっ!」と頷く。


「僕は村人全員のところを回って、井戸の水とこの村で採れた作物を口にしないように伝えてくる!」


二人の少年に迷いはなかった。


ガレスは山へと向かうべく、風を切り裂くように走り出した。ヒロもまた、青ざめた顔のまま村人たちに警告するため、走り出す。


ーーしかし、


忍び寄る異変は二人の走りよりも早く村を蝕んでいった。



お読みいただきありがとうございました!「続きが気になる」「面白い」と思っていただけましたら、画面下の「ブックマーク登録」や「★(評価)」で応援していただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。