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7.何が普通

「エレベーターは使えないの?」


 狭い換気通路を、壁に背中をくっつけ両手を広げなんとか進む。


「警戒音が鳴っている間は出入り口の解除が出来ないんだ」


 リヤードは思ったより辛そうだ。毎日家事に食糧集めにと身体を鍛えているゾンとは違い、この姿勢は身体の負担が強いのだろう。


「ところで、どうしてお姉さんは家を出たの?」


 本当は、警戒音を鳴らすほどのこととは思えない。なぜ、唯一のルールが外出禁止なのか。聞きたいことは山ほどある。


 まぁ、夜に子どもが外に出るのはダメなのは分かるけど。でも、あの言い方は夜にっていうより、家の外に出ること自体禁止していたよな。居候の身でなんでも聞くのも失礼だし、もしお姉さんを見つけても、理由が分からないと説得しようもないもんな。


「ふうっ。父さんが言うには、姉さんはハンコウキってやつらしい。全く、俺からしたら17にもなってルールを破るなんて、どうかしてるよな」


「17才?」


 それなら、ずっと家にいる方が辛いんじゃ……ずっと? もしかして、リヤードもずっと家にいるのか?


 突然、恐ろしい考えが頭をよぎる。


 友達が出来るかもしれない。


 ふいにリヤードが自分を受け入れた理由を口にした時のことを思い出す。


「なぁ、リヤード」


「何? ふぅっ、この体勢はきついな」


「今って夏休みなんだよね?」


「夏休み? うんそうだけど?」


「そうか。ハハっ、いやごめん。もう少ししたら少し広いところがあるからあそこで休憩しよう」


「あぁ。そうだな。それにしても、ずっとオンラインで授業受けているからこんなに肩を伸ばすのなんて地獄すぎるだろ」


「オンライン?」


「ネット環境で授業受けることだろう。なんだ? ゾンはやってないのか?」


「ええっと、僕は田舎で、そんな授業ないというか。あっても買えないだろうし……えっ、学校には行ったことはあるんだろう?」


「? なんだよ。父さんが言っていただろう? この家から出たらダメなんだから、学校なんて行くわけないだろう」


「だけど……駅にも来てたし、外に出る時には誰かと一緒にって……」


「駅って、出入り口のこと? あそこは家の敷地の一部だけど?」


「……」


 嫌な汗をかく。外に出ないことが当たり前だと話すリヤードに、初めて違和感をもつ。


「冗談だよ!!」


「え?」


「さすがに、俺だって外に出たことあるに決まってるだろう。ええっと、確か前に出かけたのは、誕生日だったかな。自宅にもあるのに、ヘリコプターをわざわざ貸切にして父さんと2人で乗せてもらったんだ! あっ、いや。その、もちろん、いつもってわけじゃないけどさ」


 なぜかこちらに申し訳なさそうに急に小声になる。


 まさか、僕に気を遣っているのか!? 確かに、そんな貸切だとか、ヘリコプターなんて乗ったことないけど。いや、父親と2人で出かけたことを遠慮してる!?


 なぜか衝撃が走る。


「リヤード、僕は大丈夫だ。君の話を聞いて嫉妬してするとか、今はそういうことじゃない」


「そっ、そうか!!」


 あからさまにほっとしているリヤードに、そうじゃないと、大声で言いたくなる。


「休憩しよう。それと、もう少し聞いてもいいか?」


「あぁ、なんだ?」


「リヤード、この家はどうして外出を禁止しているんだ?」


「え?」


 まるで当たり前のことを今更聞かれ、むしろなんて説明したら良いのかと悩んでいる。


「ごめん。家の事情に僕が首を突っ込んでいいのかは分からないけど、これを理解しないと、君のお姉さんを説得する自信がない」


「えぇ? そんなの当たり前だろう?」


「僕の住んでいるところは、週末以外は学校がある」


「それは授業が」


「オンラインじゃない。学校でみんなで勉強するんだ」


「でもそれは、誰かついてくるんだろう?」


「小さい間はそうだけど、12才なら1人で通学する」


「だって、外は未知のウイルスがあるかもしれないし、誘拐犯だっているかもしれないじゃないか」


「それは、ないとは言えないけど」


 オンラインゲームで知り合った相手の子どもを預かるなんて言い出すタイプが、なぜ? 


 なにか腑に落ちない。


「それなら、僕を迎えに来るのは危険だと思わなかったの?」


「だって、あれは敷地内まで君が来てくれるようにしたし、ウイルス検知もなかったから」


 いつのまに、調べたんだ?


 潜水艦に乗る時、赤いレーザーが全身をスキャンしたのを思い出す。


「なら、僕が子供じゃないとは考えなかったのか?」


 同い年の子どもを預けるフリをして、力のある大人が誘拐する可能性だってある。


「だから敷地内だって言っただろう? あらかじめセキュリティに僕と子ども、動物を受け入れる設定にしていたから絶対に安全なはずだ」


「動物?」


「もしかしたら、ペットかもしれない可能性もあるだろう。 もし犬とか猫なら、12才なんて大人になるから、大人を除外にしたら、吹っ飛んでしまったらかわいそうかなって」


 一体、あんなへんぴな空間のどこにそんな仕組みがあるのか、想像もつかない。


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