5.コンタクト
「あー、おなかいっぱい!!」
リヤードは部屋に戻るやいなや倒れこむ。
「あれ? どうした?」
扉から黙って立つゾンに気づく。
「いや、うん。僕も部屋に戻るよ。今日はありがとう」
実は何か用事がないか言われるのを待っていたとは言えなかった。食事を用意されるのも、食後に自由な時間があるというのにも慣れない。
「なぁ、まだ眠くないならゲームしないか?」
「ゲームって……使えなくなっているんだろう?」
年齢詐称に、安請け合いをしたことで、父親からシステム改良が終わるまで部屋を封鎖されたと愚痴っていた。
「いや、まぁ、そうなんだけどさ」
にぃっとこちらを見るとベッドから飛び起きる。
「ゲームなら、ゾンの父さんとコンタクトを取れるかもしれないぞ!!」
「えっ」
確かに、お金がないのに毎日ゲームの課金だけは辞められないほどのめり込んでいた。
「んーー、そうかもしれないけど」
「だろう? 俺さ、考えたんだ。友達が出来たら嬉しいなとか、仲良くなったゲーム仲間が困っているなら助けたいとか、ただそれだけで家にきなよなんて言ったけどさ」
思いのほか、リヤードは真剣な表情になる。
「父さんに怒られた時も、部屋ならたくさんあるんだからいいじゃないかって思ってたんだ。でも、そうじゃなかった」
確かに、部屋なら山ほどあるのだろう。ゾンはエレベーターが何階まであるのか、想像すら出来ない。
「1人でここに来るの、怖かっただろ?」
あまりにもシンプルな言葉に、返事が出来ないでいた。怖いなんて言える年齢ではない。だが、真剣に話すリヤードに嘘をつきたくもない。黙って話を聞くしか出来ないでいた。
「俺、どこに行くにも必ず父さんや、たまに母さんがいたり、雇われた人に囲まれたりで、全然想像出来なかったけど、皆んながいないなんて、寂しいよな」
肩に手まで置かれる。
リヤードは、僕と同い年だよな。都会じゃこの年でも1人で出歩くなんて出来ないものなのか?
田舎といえど、子ども同士で遊びに行く姿は珍しくなかった。
僕だって、山菜取りに山によく行っていたけど、さすがに川で魚を獲ろうとした時は近所の人に怒られたっけ。
意外とそんなものなのか、自信がなくなってきた。自身の環境が普通ではないと自覚はある。
「うん。でもどうして僕のお父さんを探す必要があるの?」
長く悩んだが、ここはリヤードに合わせることにした。
「だから!! 俺は、相手の立場になって考えてみたんだ。もし、俺がゾンの父さんなら、息子が元気に暮らしているか心配するだろう?」
「うーーん。そう……かな」
僕のお父さんはリヤードの父親とは違う。喉まで出かかった言葉を飲み込む。きっと、彼なりに真剣に考えて心配してくれているんだ。
でも、僕のために怒られることはない。それに、きっとお父さんは僕の心配などしていないはずだ。
自信があった。
「えっ!? 違うのか」
「……ここに来る前に、とても信頼できる仲間に預けることになったって話していたから、きっと大丈夫だよ」
「そうかぁ。仕事先が決まったら住所とか連絡先が送られてくるかもな。ゲームのやり取りでも、他の通信手段がないって言っていたもんな」
「うん」
本当は、今までも連絡なんて来たことがない。迎えに来るのはいつも突然で、それも辞めてきたって半分ヤケになっている状態だった。
僕を迎えに来たっていうよりは、家事が出来ないから仕方なく来たって感じなんだよなぁ。
笑顔で話すリヤードに合わせながら、ぼんやりと考える。
「明日は家族を紹介するよ。母さんも夜中には帰ってくるらしいからさ。それと、とっておきの秘密の場所もあるから楽しみにしてくれ」
「うん。お休み」
さすがに今日は休んだ方がいいだろう。いくつもバスや電車を乗り継いでやってきた慣れない土地に、見たこともないロボットや乗り物に頭はフル回転しっぱなしだ。
「あぁ、それと、もし警戒音がなったらそれは……」
リヤードは一度別れたあと思い出したように部屋から出てきたが、もうゾンは寝入ったあとだった。




