4.我が家のルール
「母はいません。亡くなったと聞いています。父は……それなりに腕のある大工らしいのですが、まとまった収入が入ると仕事を辞めて、その……とことんダメ人間になるというか。今回も光熱費の支払いがいよいよ出来なくなってようやく仕事を探しに行っているのだと思います」
思います、というのは、あの人からろくな説明もなく言われた通り待ち合わせ場所に来ただけだからだ。
「ゾン……」
「そうか。それでしばらくというのは、いつ頃迎えに来ることになっている?」
「おそらく、夏休みの間かと。ひと月働けば、なんとか暮らしていけますので」
拳に力が入る。同じ12才のリヤードとは、環境があまりにも違いすぎる。この最新のシステムと、豪華な食事、なによりまともな親がいることが羨ましくて仕方がない。
「今までは?」
「えっ?」
「今回が初めてではないのだろう? まさか、今までも同じようにネットで出会った相手に預けられていたのか?」
その声は、非難しているというより、穏やかさそのものだった。
「いえ。今まではずっと祖母にその間面倒を見てもらっていました。去年、体調を崩してからはもう無理になってしまって」
「そうか」
最後に音も食べず、スープを飲み干すと、父親はこちらに優しく微笑む。
「事情は分かった。大人として、君の父親が迎えに来るまで、この家にいなさい」
「いいんですか?」
正直、この家のすごさに驚きつつも、まだ得体の知れない人にお世話になるなど不安も大きい。だが、それでも自分が持つなけなしの財産では帰ることすら難しい。
でも、いい人達、だよな。
ずっと、自分の話も父親のことを否定せずに話を聞いてくれている。
「ゾン」
ずっと静かにしていたリヤードが、沈んだ声を出す。
「俺、なんか楽しければいいって簡単に引き受けちゃって……その、ごめんなさい」
「そんな……」
リヤードでなければ、今頃他の人のもとへお世話になっていたかもしれない。もし、それが悪意のある変質者だったら? そう考えただけでゾッとする。
「ゾン君。リヤードには私からきちんと話をする。今回はたまたま運が良かっただけだ。それと、もし良ければ君の父親の名前を教えてもらってもいいかい? 君を預かる以上、出来れば一度大人同士話をしたいからね」
「はい」
そうか。危険だったかもしれないのは、リヤードも同じだ。もし、子どもを預けるフリをした誘拐目的の相手だったら。父親が気づかなければ、リヤードら待ち合わせ場所に1人で来ようとしたかもしれない。
「僕も、ごめんなさい」
「どうして謝るんだよ」
「うん」
「あぁ、それと」
父親は食後のデザートにコーヒーを例のドローンから受け取ると、付け加えるように言う。
「我が家のルールは1つだ。勝手にこの家から出ないこと。いいかな?」




