18.次のレッスン
「ねぇ、リヤード」
「うん、なんだ?」
「僕が思っていたのとは違うんだけど」
「うん。俺もだ」
次の課題は、動きやすい服装に着替えての参加だったが、その内容は予想とは全くの別物だっだ。
『さぁ、2人がかりで構いません。私を倒してみなさい』
そう言うと、enはだだっ広いだけの空間で正面に立ち、手足を自由に伸縮してみせる。
「前は本当に、反射神経を試したり、頭脳を使って脱出するようなもので……こんな身体を張るようなものじゃなかったんだ」
困ったようにこちらを見るリヤード。
「リヤード、前受けた時って何歳だったの?」
これは、プログラムだ。何かしらの目的が必ずあるはずだ。
「ええと、確か姉さんが脱出した2回目で、俺が8才だったかな」
「なるほど」
1度目の脱出が、確か口頭での注意と管理システムの見直しだとしたら、2回目の脱出では、子ども自身に反省と罰、そして、脱出してはいないリヤードに関しては、同じ過ちを防ぐための備えが目的で行われたと思うのが自然だ。
体力測定。
リヤードの脱出に対する基礎体力や運動神経を分析することが目的だとすれば納得がいく。
だが、今回は違う。お姉さんを引き止める為とはいえ、リヤードも自分の部屋から抜け出したことには変わらない。それも、子どもが運転するバイクに乗るなどという選択をしたのだから、その無謀さに対しても矯正が必要と考えてのことだろう。
「リヤード、闘おう」
「おっ、おぉ」
他のことに関しては頭のキレるリヤードが、このプログラムに関しては極端に思考を停止さてるような反応を見せている。まるで、本能が無駄だと諦めているようだ。
ゾンは、辺りを見まわす。まるで武器として使えと言わんばかりに鉄棒や縄、更には銅線や火薬なんかもあることき気づく。
「でやぁぁぁっ!!」
迷うことなく鉄棒を取り、enに向かって叩きに走る。
ガンッ、バキバキッ!!!!
当然、あっという間に伸びた手によって棒はすぐに奪われ、細かく砕かれる。
「ハハっ」
あまりにも一瞬で、ここまでの力の差を見せられると、思わず笑ってしまう。
これを、何時間もするって?
今のところ、enからは何か攻撃を与えようとする動きは見せない。
リヤードの方を振り向く。
「……リヤード」
名前を呼ばれ、呆けたように立っていた。
「えっ、あっ。よっ、よし!!」
明らかに反応が乏しい。おそらく、彼ならいくらでも応用して武器を作れそうな材料がそろっているというのに、どれを使うべきか、決めきれていない。
「リヤード!!」
「わっ」
名前を呼び、また鉄の棒を選ぶ。ただし、今度は2人分。1つを投げるように渡し、リヤードの名前を呼ぶと同時にenに向かって走る。
「っ!! おらぁああああっ!!!!」
それに少し遅れ、ゾンとは別方向からリヤードも奇声とともに走る。
ザンッ、ザザッ。ガシィン。
だが、せっかく出たやる気は、ほんの数秒で最初の打撃と同じ運命を辿る。
『私の手は2本あるのですよ。2人が同じ攻撃をしてきたところで、0.01秒ほどしか変わりませんよ』
「なんだよこいつ、こんなプログラム課題になんの意味があるんだ!?」
リヤードは、先ほどの勢いで少し調子が戻ってきたのか、散らばる機材からすぐにいくつか組み合わせると、それをenに思い切り投げつける。
「ゾンっ!! 離れて」
言われる同時に、投げた方向とは全速力で離れる。enはそれを打ち返すように伸びた手で触れた瞬間、
ビリビリビリッ!!!!
電気が、まるでenの身体中を筒抜けるような音を出した。
「感電なら攻撃を避けない限りダメージは効くだろう?」
あの一瞬で、即席でそんなものが作れることに驚く。
でも、もし僕が考えていることが目的なら、まだ終わらないはずだ。
ゾンは嫌な予感がしていた。そして、その予想通り、enはすぐに投げつけられたソレを破壊する。
「あっ!!」
『私のボディは電気を通しません。それより、このようなもの、素手で作るリスク、暴発の危険性、コントロール不足による周りへの被害および私が今のように電気を通さない絶縁体物質である可能性を考慮していましたか?』
enの指摘に、リヤードは悔しそうに言い返せないでいる。
いや、言い返すことに慣れていないのだ。
ゾンは、リヤードに詰め寄っているenの後ろから、無言でもう一度飛びかかる。
『全方向センサー付きです。なので、君の行動も丸見えですよ』
いくつもある目がついた顔だけが、ゾンが飛びかかる向きに機械音とともに振り返る。
ガシッ
「その伸びる腕を待っていたんだ」
武器も持たず、飛びかかってきたゾンをenは叩き返すわけにはいかない。あくまでも、これは教育プログラムなのだ。生徒が怪我をすることがあってはならない。
「リヤードが投げた放電玉を打ち返さなかったのは、僕らに当たったら困るからだろう?」
ゾンの言葉に、リヤードもまたenの足に飛びかかる。
「そうだな。俺らが怪我しないよう振り払えるか?」
『離れてください。この講義では、私を倒すことが目的です。基礎体力の向上および瞬発能力向上を目指しています。このような抱きつくだけでは、本来のカリキュラムにそぐわない、不適切だと判断します』
「倒すよ。ね?」
ゾンの言葉に、リヤードはどうやら全て理解したらしい。
「あぁ。目的は倒すだろう? もし俺らの行動が反しているなら、それはお前のプログラミングに問題がある」
心を折る。
きっと、本来の目的はこちらなのだろう。
だけど、そうはいかない。きっと、この家にとっての最大の予測不能要素は、僕のはず。それを分析するための教育プログラムなのかもしれない。カナモリ家の息子、リヤードにとって害になるかの判定かもしれない。それならきっと、僕は何もしないが正解かもしれない。そしたら、ここにもっといれるかもしれない。
でも。
「僕はリヤードの味方だ」
2人で必死にしがみつく。そのまま全体重を後ろにかけて。
引き離そうと伸びる手に、足を思い切り伸ばす。
「あっ」
バランスを崩した僕は、そのまま頭から落ちる。
ドンッッッ。
足を掴まれ、自由に身体が使えないenはとっさに優先事項が発動する。
『リヤード君、大丈夫ですか?』
足にはリヤードがしがみついている為、バネのように伸びた上半身がすべりこむように動く。
ゾンが床に落ちる前に、enは自らの身体を咄嗟に下になるように倒れ込んでいた。




