11.霊媒師は凡人です
「姉さんは、科学や発明が大嫌いになって、とうとう霊媒師になるって言い出したんだ」
「…………れいばいし?」
「幽霊とか、占いとか、呪いとかそういうやつだよ」
「あぁ、霊媒師か」
「父さんも、特に母さんが凄く反対しててさ」
ゾンですら、霊媒師なんて会ったことがない。
なろうと思ってなれるものなのか?
「あっ、寝かせる時はそっとすると上手くいくよ」
リヤードがイリアを横にするタイミングで、ゾンはそっと声をかける。少しだけイリアがぐずりそうになったからだ。
「うん。そのまま、お腹を優しくトントンしてあげて」
「おっ、おぉ」
アドバイス通り、慣れない手つきでベッドへ横にする。しばらくすると、テリアはまた深い眠りについたようだった。
「可愛いところもあるんだな」
寝顔に思わず本音が漏れる。ゾンに聞かれていることに気づき、すぐにリヤードは話をそらす。
「よしっ、姉さんを探そう。母さんが空と地上はドローンと赤外線で探知しているだろうから、俺たちは地下をいく」
「見つかると思う?」
「姉さんはこれで脱走は3度目だ。1度目はどっちとも小言で終わったけど、2度目は凄かった。精神科医や子どもの心専門なんたらの教授が来て、外の世界が危ないやら、子どもの責任なんて授業にカウンセリング。俺までいくつか参加させられたんだ。仕事一途の母さんが毎日ずっと側にいて……今度ばかりは1ヶ月なんてもんじゃすまない」
「それは、大変そうだ」
「ゾン、その時は一緒に参加してくれよ」
「ええっ!? 僕も?」
「当たり前だろう。俺を1人犠牲になんてしないよな?」
「うっ。分かったよ」
こんな大きな家に住んで、父親が世界一の発明家ともなれば誘拐や犯罪に巻き込まれることも多いのだろう。
もし、お姉さんが大人になっても、閉じ込めておくつもりなのか? まさかね。
「ところで、地下にお姉さんがいる可能性はあるの?」
「うーーん、63%だ。理由は」
「いいよ。多分聞いても分からない。じゃあ、君のお母さんより先にお姉さんを見つけられると思う?」
「……じゃないと困る」
「よしっ、急ごう」
西の棟から地下へ入る入り口は、ロックが解除されたままだった。
「お姉さんもシステム解除出来るの?」
凡人ならば、自分と同じだとして、ゾンはそんなこと出来ないという自信がある。
「これ」
リヤードが指差す方には、鍵がささっていた。
「父さんを眠らせた後、鍵をとったんだろう。念のため、全ての出入り口にはアナログの鍵も用意しているんだ。イリアが解読不可能がロックを内側からかけたらまずいだろ?」
「うん。それは大変だ」
ドアを開けると、地下はやはり予想外だった。当然、真っ暗だった空間はドアを開けると同時に自動で電気がつき、階段は自動で動く。
「地下鉄……」
実物で見たのは初めてだ。それも各方面に線路があり、それぞれに鉄道がある。
「あとはどの方面に行ったかだな」
「ええと、これはもちろん、外へ行くやつなんだよね?」
一応、本物か確認してみる。
「じゃなきゃ困るだろう?」
「そうだね。えっと、お姉さんがどこへ向かったかだけど、何か手がかりはないの?」
「監視システムでリアルタイムでロボットアイってやつが人感センサーに反応して追いかけて知らせる仕組みになっている。通常ならな」
リヤードは困ったように言う。
「おそらく、他の何かに反応してそっちに行ったっぽいんだよな。この家には虫1匹入れないはずだから、姉さんが何かしたんだろうけど。ロボットアイ達の通信は母さんが持っているだろうから……」
「あのさ、カメラとかはないの?」
「カメラ?」
あれ、監視カメラとかないのかなぁと思ったんだけど。
ロボットの監視システムがあるのだから、それくらいありそうだと思っていたが、リヤードの反応は違っていた。
「そうか!! そういえば、固定カメラもあるはずだ。初期のシステムすぎて忘れていたけど、あるはずだ!! よくそんなものまで思い出せたな!!」
「うん。僕の知りうる監視システムって、むしろそれくらいっていうか」
「監視カメラな!! 固定映像しか撮れないし、死角も多いからほとんど撤去されているけど、地下では回線の不安定さが解決するまではって、父さん達がしばらく置いておくって話していたはずだ。多分、忘れてそのままにしていると思う。映像を確認すれば姉さんの向かった方向が分かるぞ」
リヤードは興奮気味になると、コントロール室へと向かう。
「多分、母さんも頭に血が上っているだろうから、こんな古いカメラのことなんて忘れているはずだ」
「うん」
役に立てて良かったと思う一方で、自分が住んでいる世界との差を改めて感じる。
ロボットの監視システムなんて、ここに来て初めて見たなんて言ったら、リヤードはどう思うんだろう。
なんて考えている間に、使い方を思い出しながら操作し、ようやくカメラの映像を確認する。
「古いけど、電源はつないでいたからしっかり撮れてそうだな。ええと、あっ。鳩!? 姉さん、こんなにいつ仕入れていたんだ。不衛生だって怒られるぞ、きっと」
そこに映っていたのは、数十羽もの鳩がいっせいに羽ばたき、ロボットアイとやらが全台あわてて追いかけている映像だ。鳩に指示を出すように笛をふき、その後に別方向へと走り出す女性が映っている。
「あっ、姉さん!!」
「お姉さん? ってことは、南の方へ向かっているね。時間は……1時間前だ!!」
「うぅっ、そんなに経っていたら追いつけないぞ。でも、母さんに連絡したら絶対に俺たちより先に追いつくだろうな。だけどこのことを黙っていたのがバレたら……」
「ねぇ、この人がお母さん?」
映像には、その数十分後に高いヒールに、スーツ姿の女性が映っていた。手には、おそらくロボットアイの通信映像が見れるタブレットを持っている。
「母さんっ!?」
リヤードは悲鳴に近い声を出す。もはや情緒が心配になるほど取り乱している。
「あっ、お母さん、別の方へ行ったみたい。あの、あれは?」
さすがに娘を引くわけには行かないのだろう。悩んだ様子で少しうろついた後、眉間に手を当てどこかへ連絡した後、スクーターのようなものに乗り向かっている姿がある。
「あれは、前回姉さんが脱走した時に使った電動スクーターだよ。人感センサーつきだけど、事故防止だから遠くまでの反応は出来ないって言っていたけど」
見た目どおりスクーターだったことに違う意味で驚く。
普通のものもあるもんなんだ。
「あれ、もうないの?」
「あるけど、免許がいるから……」
「ロボットシステムに、もう一台用意させられる?」
「出来るけど」
「持って来させて!!」
ゾンの言われるままリヤードはシステムにスクーターを用意させる。
「父さんに頼むつもり? 起きるのは無理そうだけど」
その時、ブルンッとゾンがエンジンをかける。
「ちょっ!! どうやって? いや、それよりまさか」
「うん。僕運転出来るよ」
「いやいや、どうやって? いや、それより、まだ12才だろ!? 免許もないじゃないか!!」
「うん、ない」
そう言っている間にも、ブレーキを外しまたがろうとする。
「いやいやいやいや!! ダメに決まっているだろう!!!!」
慌ててスクーターを手で押さえる。
「だって、お母さん違う方向に行っちゃったんだろう?」
「そうだけど、連絡すればすぐにっ」
「お母さんがここから出て結構時間経ってる。僕が行った方が速いよ」
「僕がって、1人で行くつもりか!?」
「うん」
「なんで」
「だって、カナモリ家の長女が外になんて出たら危ないだろう? そもそも、誰かが手引きして鳩や催眠スプレーなんかを渡した可能性もある。急いだ方がいいよ」
「そうだけど……ちょっと待て!!!!」
リヤードは全力ダッシュでシステム室に戻り、ヘルメットを2つ抱えてくる。
「ハァっ、ぜっ、絶対にこれはかぶろうっ」
「えっ、リヤードも乗るの!?」
「当たり前だろぉ!!」
勢いよくかぶると、またがるゾンの後ろに急いでしがみつく。
「俺の姉さんだぞ!! それに、これは普通のスクーターとは違う!! 父さんが定期的にメンテナンスしているから、何かあっても俺がいた方がいいだろう」
威勢のいい声のわりに、手も足もガクガクと震えているのが分かる。
「うん。ありがとう」
そのままグッとエンジンをまわし、カメラに映っていた方向に向かって走らせる。
「うわぁあああああっ!!??」




