第13話 生まれしもの
森の奥深くには小さな泉がある。それは動物たちだけが集う泉で彼ら以外は誰もいなかった。
しかし満月の夜、彼らのほかに大きなものの姿があった。
それは黒く赤い、毛むくじゃらとも違う。では何だろう?と傍によった動物たちはそれを見上げた。
匂いは自分たちとは違う。けれど臭い。表面はつるりとしているのに、毛は少し生えている。
泉の主である梟が言った。
「おぬしは何者じゃ?」
けどそれは何も答えない。頭と呼ばれる部分には二つの大きな目玉がついている。けれど白濁して垂れ下がっているから見えていないのかもしれないと、知恵のある動物は思った。
それはゆっくりと泉に腰かけて、体を震わせている。
前足は長く指と呼ばれる先には赤黒い歪んだ爪がついていた。
「おおお、おおお……」
二つの前足が持ち上がり、頭についた口が開くと雄たけびを上げる。
傍で見ていた動物たちは立ち上がり、すぐにその場を離れた。
そのものの背中が盛り上がっていく。ピキピキと音を立てて、皮膚が持ち上がり、ある程度まで来たのかそれは成長を辞めて先が割れ始める。ガクンと頭が下り、そこについていた目玉が落ちた。
「なんなんじゃ……」
梟が動物たちを避難させて高い木の上で見守っている。
それはゆっくりと乾いていった。皮膚がぱりぱりと木の皮のように剥がれて、赤い繊維が見える。
魚をくわえていた動物はそれを見て涎を垂らした。
辺りには腐った匂いが消え、甘い果実のような匂いがたちこめた。
小さな動物たちも涎を垂らし、前足を一歩、地につけた。
その時だ、ポツンと泉に何かが落ちた。
それは水面に輪を作り遠くまで広がっていく。
梟は小さくひきつけをを起こすと叫んだ。
「逃げろ、森が死ぬ!死ぬ!」
小さな動物たちは梟の声に一目散に逃げだした。けれど涎を垂らした動物たちはじっと泉の淵に座っている何かを凝視している。
泉にはもう語れるものはいなくなった。
じりじりと距離を詰め始める動物たち。泉の淵に座ったものは動かずに、その背中だけが蠢いている。
パキッと小さな音を立てて、背中の突起が割れた。小さな欠片を落とし、突起の先が二つに割れると、蕾が開くように中から小さな二つが顔を出す。それは薄い桃色で突起の半分以上になると、大きく左右に分かれた。
動物たちは今か今かと待ちながらそれを見守っている。
二つの薄い桃色は細長く、それは猿の手のようで、大きく開くと干からびた体から這い出た。
薄い桃色の体に銀色の毛が空気に触れてフワフワ揺れている、
涎を垂らしていた動物はそれが目を開く前に駆け出した。それを合図にほかの動物も一斉にとびかかる。
ぐちゃりと乾いたそれにかみついた動物たちは食べ始めた。
みるみるうちに無くなっていくそれは泉の前での晩餐のようだ。
彼らの上では蝶々の羽根を広げた薄い桃色の何かが、それを見つめている。
けして怖がる様子もなく、ただ興味深い顔をしてそれを見ていた。




