第11話 どうか、善き道をお選びください
煉瓦造りの街並みを子供たちが駆けてゆく。平和そのものがそこにはあった。
教会への群れに入り、それぞれが家族と合流すると施設へと吸い込まれていく。
皆が手を組み祈りを捧げる。その一つの偶像が美しく窓からの光で輝いている。
人々は偶像に手を合わせては祈りを口にする。
その人は偶像の前に立ち、跪いて奇跡を願う。
その人は偶像に触れて、涙を流し祈りを捧げる。
その人は偶像を触れられないものとして、遠くより親愛を贈るのだった。
ある夜、教会の者が一室に集められた。
指導者たちは腕を組み、理解に苦しんでいた。そう、偶像は一つではない。多くある。それぞれが美しく名がつけられ、人々に愛されている。しかしそれはゆっくりと人々の中に自由を形成してしまう。
指導者の一人が机を叩いた。
「これでは教えが無に還る」
「では、どのようにするか?」
机の上には書物がずらりと並んでいる。英知に縋ろうと皆が頁を捲ってはうんと唸ってを繰り返している。朝が来ればまた人々は崇拝をするのだ。
机の端にいた指導者が小さな声で言った。
「壊してしまいましょう」
皆が手を止めて顔を上げる。それぞれが顔を見合わせて「ああ、そうか」とでも言うように頷いた。
夜は長く、夜は深い。
指導者達はそれぞれが手に杭と金槌を持ち、示し合わせたように偶像を一つずつ粉砕した。
その顔は恐怖に震え、噛み締めた唇からは血が流れている。彼らの顔には恐怖があった。けして許されないのだと分かっているのだ。
音が静まり返る頃、指導者たちは冷や汗で濡れ、袖は赤で染まっていた。
翌朝、人々はまた煉瓦造りの街並みを朗らかな顔をして歩いてくる。教会の戸は開かれており、皆が吸い込まれるようにそこへと進んでいく。皆が席に着き、その視線が定まるのを待たずに、指導者は教壇に立った。
「皆さん、おはようございます。今日は皆さんにお伝えしなければいけない事があります。どうぞ耳を傾けてください。皆さんが崇拝していた多くのそれは、教えに従い異端とされました。悪しき者なのです。どうか我々の導きを信じ、ここに居わす人を心に置いてください。異端はあなたの心に住み着き、悪しき心を育ててしまうのです。どうかよき道をお選びください。どうか」
人々のざわめきの中で女の泣き声が響き、それが合図となって指導者への懺悔が始まった。自分達が愚かで浅ましい者であると人々は手を合わせ許しを請うている。その喧騒は随分と長く続き、人々が冷静を取り戻し、帰路についた頃にはもう、偶像の名前すら口に出す者はいなかった。
静かな祈りの場の片隅には、ほんの少し小さな石が転がっている。
その一つが小さな輝きを放ち、光の中に消えた。




