ディザ
日が登り着る頃、ティアナたちは、オルゼビアの殆どを占める地形である、砂漠に差し掛かってた。
「わぁ…本当に一面砂しかないのね…」
「ティナ、足を滑らせないでくださいね」
「うん、気をつけるわ」
「ミスティ、ここからどっちに行けばいいんだ?」
そんな風に、カークはミスティに尋ねる。
すると、カークの背中の上が最早定位置と化したミスティが、珍しくカークの背中から降りながら言った。
「さぁ、ミスティにも祭器の塔が何処にあるかなんかわかんないよ」
その言葉に、一行は驚きで固まった。
「それじゃあここからどこへ行けばいいか分からないってこと…?」
「そー! ミスティには分かんないよ」
「そー! じゃない! ここまで来てからそれを言うのか? どうするんだよ!?」
カークが呆れ顔でいうが、ミスティは気にしている素振りすら見せない。
そんなふうに平然と笑顔でとんでもないことを言い放つミスティを一瞥してから、ミランが小さな声で言った。
「……には、ってことは、妖精に聞くってことじゃないの?」
「わぁー、よくわかったね!」
ミランの言葉に、ミスティは驚いたように目を見開いてから、にっこりと笑ってそう言った。
そして、ティアナたちから離れるようにミスティは少し走って行き、そこで腰に下げた袋の口を開くと、その袋から四色の光が一直線に砂漠の奥の方へと伸びて、すぐに消えた。
ミスティはその方角を指さして、ティアナたちの方に叫んだ。
「こっちだってー!!」
その声に、皆は顔を見合わせてから、ほっとしたように胸を撫で下ろした。
「ミラン、よくわかったな。ミスティの言いたい事」
そんなふうに言うカークに、ミランはこくりと頷く。
「僕の祭器も、少し祭器の塔に反応してるみたいなんだ」
「ミランの祭器も光ったりするのか?」
「ううん…多分僕はピクシーとそんなに仲良くなれてないから、はっきりと祭器の塔の場所は教えてくれないんだと思う」
「…仲良く…か」
ミランの腰に下げられた短剣を見ながら、カークはそう考えるように言葉を発した。
どうにも、祭器と呼ばれているものはただの武器にしか見えず、その中になにか生き物が宿っているとは思えないのだ。
そこから暫くの間砂漠の中を突き進んでいると、不意にクレアが足を止めた。
目を凝らして、遠くを見ているクレアに、ティアナは
「どうしたの?」
と聞いてみる。
すると、クレアは目線をそのままに、呟くように言う。
「…なにか…動いてる……?」
「うーん…私には何も見えないけれど…こんな砂しかない場所で何かが動いてるって、どういうこと?」
「それって砂のお化けのことじゃないかな?」
ミスティがクレアとティアナの方を向き、そう言う。
「砂の…お化け? それはどういう…」
クレアが不思議そうに聞くと、ミスティよりも先にミランが答えた。
「もしかして…それってディザっていう外界の獣のこと…?」
「うーん…多分そんなに名前だったと思うよー?」
「外界の獣ってことは、目を突けばいいってことか?」
カークの問いに、ミスティは首を横に振った。
「あのお化けはそんな単純じゃないみたいなんだよ〜。ねぇ、ミランはあれと戦った事あるの?」
そのミスティの問いかけに、ミランはこくりと頷いた。
「じゃあじゃあ、一回あれを倒してみてよ! ほかの人だって、説明するよりも見た方が早いでしょ?」
楽しげに言うミスティを、クレアが止めに入る。
「待ってくれ。ミランにあまり危険なことをさせるのは…」
「ダサい人は黙ってて!」
「なっ…!!」
ミスティはクレアの事をダサい人呼ばわりした上にべーっと舌を出して片目を人差し指で引っ張った。
「み…ミスティちゃん……クレアと何かあった?」
「何にも? でも何か口うるさいところとかちょっとヴィレムと似てて嫌だ」
「あいつと一緒にしないでくれ」
子供の言うこととはいえ、ひどい呼び方をされた上にあまり好きではない人物と似ているとまで言われてはたまらないと、クレアは眉を寄せた。
「それに、祭器使いはあんなのには負けないよ!」
「……うん、僕一人でできるよ」
ミスティの言葉に返すように、ミランは落ち着いた表情で短剣があるのを確認して、そう呟くように言った。
クレアがミランに視線をやると、ミスティは小さく頷いた。
そんなミランを見て、クレアはあの頃の幼かったミランとは全然違うのだと、そう思い直したのだった。
段々と近づいていくにつれて、クレアの目しか捕えられていなかった動いている物体がティアナたちの目にも入ってきた。
「…なんだ…? あれ……」
そんな風にカークが訝しげに、そして驚いたように言うのも無理はない。
その動いているものとは、砂の塊だったのだ。
盛り上がるようにして上に突き出した砂の塊は、うねうねとまるで意志を持っているように動いている。
しかも、他の外界の獣と呼ばれるバケモノたちのような目がどこにも見当たらないのだ。
「あ、そうそう、あれだよ! 砂のお化け!!」
「…なんか気持ち悪いな」
「ほーんと、変なのばっかりいるよね」
カークが顔をしかめて言った言葉に、ミスティは何故か楽しそうに返した。
「ちなみにあのお化けの中に飲み込まれちゃうと、絞め殺されちゃうから気をつけてね!」
そうミスティがにこっと笑いかけながらミランに言うと、ミランはこくりと頷いて短剣を抜き放つ。
そしてミランはとても静かに、そして素早く走り出した。
あっという間にディザと呼ばれる化け物の所まで走っていくと、短剣ではなく、短剣の柄を化け物に突き刺した。
その瞬間、どこにも無かったはずの目がギョロッと現れてミランの姿を捉えたと思うと、急に砂を巻き上げてディザの体が大きくなった。
「あ…危ない!」
そんな風にティアナは叫んでしまうが、当のミランは顔色ひとつ変えない。
大きくなったディザに怯みもせずに飛び込んでいくと、ディザの目に短剣を突き刺した。
その瞬間、ディザの体だったはずの砂は力を失ったかのように崩れ落ち、ミランの小さな姿を飲み込んだ。
そんなミランを見て、ティアナは慌てて走り出す。
そしてティアナが山になっている砂をかき分けようと手を伸ばした瞬間、その砂の山から、ミランがぼこっと顔を出した。
そのまま砂まみれの頭を振り、砂を振り払う。
「ミラン、大丈夫?」
「…うん…ちょっとこの砂が重いけど…大丈夫」
「ミラン、生首みたいになってるぞ」
そう、可笑しそうに少し遠くからカークが言う。
それに、ミランは表情こそ変えないものの、少し嫌そうな声で
「そんなことより手伝ってよ」
と言う。
「退けるの手伝うわね!」
そんな風に一番近くに居たティアナが砂をかき分け、ミランの腕を掴んで引っ張りあげた時だった。
ミランの背後の地面がぼこっと盛り上がり、そこがうねうねと動き出したのだ。
「…!!?」
驚いてそこからミランの手を引きながらティアナが離れようとすると、今度はティアナの背後が同じように盛り上がり、動き出す。
恐ろしい速さでディザは数を増やし、あっという間にティアナとミランは大量のディザに囲まれてしまった。
それでも、はじめこそ驚きはしたものの、もう二人は動揺はしていなかった。
ティアナとミランは互いに背中を合わせ、そして目の前の敵に集中した。
包囲網の外側からは、既にクレアとカークが走ってきている。
「こんなに沢山居たなんて…」
「……ティアナ、気をつけて」
ミランの言葉に頷いて飛び出そうとした瞬間、急にティアナとミランが立っていた地面が崩れ落ちた。
「え…!?」
「…っ!!」
大きな砂埃が舞い上がり、思わずカークとクレアは腕で顔を覆った。
そして次の瞬間、目を開けると、目の前にはディザたちの姿も、ティアナとミランの姿も、忽然と消えてしまっていた。




