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変わり者と妖精の木  作者: きょんしー
妖精使いへの一歩
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旅路③

その日の真夜中、ティアナはぱちっと目を開いた。

何故だかわからないが、急に目が冴えてしまったのだ。

すぐ横を見れば、クレアが気持ちよさそうに眠っている。

だが、自分の分の布までティアナに掛けていたのか、少し寒そうに丸まって眠っていた。

そんなクレアに自分に掛かっていた三枚の布を掛けてやり、ティアナは寝床を後にする。

靴を履いて焚き火がある場所まで行けば、もう火はほとんど燃えていなくて、薪もほとんど燃え尽きていた。

その小さな炎を見つめていると、ざっという地面を擦るような音が聞こえて、ティアナは驚いてそちらに視線を向けた。

すると暗闇から近づいてきたのはカークだった。


「あれ、姫様? どうしたんですか、こんな時間に…」


「か…カークだったの……びっくりした…」


「すいません、今、焚き火に薪をくべようと思って、薪を集めに行ってたんです。んで、姫様は眠れなくなっちゃったんですか?」


「うん、そうなの。なんだか目が冴えちゃって…火の番を任せちゃってごめんなさいね、カーク。私が代わるから、眠ってきていいわよ」


「いや、大丈夫ですよ。今そんなに眠くないですし、ここ暖かいですし」


カークは、ティアナのことを姫だからどうこうというのはあまり言わない。

クレアのこともだが、ティアナのこともカークはよくからかう様な発言をする。

それが、ティアナにとっては何となく嬉しかった。


「でも、最近あんまり寝ていないでしょう?」


「いや、それでも全然辛くないですよ。また姫様とクレア将軍と一緒に居られるのが嬉しくて、眠気なんか吹っ飛びますから」


そんなふうに言いながら、カークは焚き火の横に腰を下ろして、薪をくべ始める。


「姫様とクレア将軍と、カトランガの城で訓練したり勉強したりっていう三年間が、俺の中で一番楽しかった思い出なんです」


勢いを取り戻してきた炎が、カークの顔を照らす。

カークの脳裏には、沢山の三年間の思い出が浮かんできていた。

そんなカークを見ながら、ティアナも悪戯っぽく笑いながら口を開く。


「私とクレアが城を出る時、泣いちゃってたものね、カーク」


「…それは俺の涙腺が脆いというか…よく父に叱られましたけどね、男なら泣くなって」


「トルワードかぁ、何だか懐かしい感じがしちゃうわね」


「そうですかぁ? 俺の頭の中では常時怒鳴ってる気がして懐かしいとかないですけど」


そんなカークの言葉に笑いながら、ティアナは昔のことを思い出した。

毎日のようにクレアとカークはティアナの部屋を訪れてくれていた。

色んな外であったことの話を聞いたり、カークが少しトルワードがうるさいとこぼしたり、クレアが甘いものをどっさり買ってきたり。

時にはカークが、夜に城の敷地内ではあるが、花の綺麗な場所まで連れていってくれたりもした。


「…不思議ね。ずいぶん遠くまで来たのに、二人がいるからかあまり何かが変わっている気がしないんだもの。」


「……俺は、変わった気がしてます」


「…本当? 何が変わった?」


「二人共、ちょっと見ないうちに強くなったみたいで。俺も頑張らないとなって」


「カークも強くなってるわ! 腕相撲じゃ相変わらず私、カークに勝てないし…私だって力、強くなってる筈なのに」


「そりゃあ姫様の腕って俺の二分の一もないじゃないですか。流石に負けませんよ」


「そんな風にカークが油断している間に力を付けておかなくっちゃ」


「ちょっとそれ怖いな、絶対負けたくないです」


下らないような会話。

その最中、ティアナは考えていた。

本当にこの優しいカークに、祭器使いを任せていいのか。

誰かに任せなければならないのは分かっている。

けれどそれは、カークにとって良いことなのか。

カークはティアナがオルゼビアの城を出る前に、祭器使いになりたいか確認したところ、ティアナがいいと言うのならなりたいと、そう断言していた。

正直に、ティアナはその答えが嬉しかった。

カークが祭器使いになれば、父上の命令を受けてもまず離れ離れになることは無いだろう。

しかしそれが、カークにとって枷にならないのか。

そもそも祭器使いに危険はないのか。


既に祭器使いとなり、ティアナについて来てくれているミランに関しても、ティアナは不安に感じている。

ミスティが今祭器を持っている理由を聞いた時から、ずっと気がかりだった。

もしも、祭器使いとなってくれた自分の大切な人たちが、死んでしまったら。

そう考えると震えが走るのだ。


「…どうかしました? 姫様」


そんな風に優しく尋ねてくれるカークに、ティアナは首を横に振った。


「ううん、何でもない」


こんな風に妖精使いである私が一番悩んでいたのでは、話にならない。

そんな風に、ティアナは思った。

カークは祭器使いになりたいと言ってくれている。

ならば、自身も心を決めなくては、と。


「ねぇ、カーク。今晩は、ここに居てもいいでしょう?」


「…なんか怖い夢でも見たんですか?」


「ううん、でも少し、考えたいことがあるの」


「ふぅん…。眠くなったら寝てくださいね」


「うん。カークもね」


そんなティアナの言葉に、カークは小さくはにかんでからこくりと頷いた。

そして、やっぱり姫様は変わった人だと思うのだった。



翌朝、ティアナは困り果てていた。

程よい光と熱を発しながら燃えていた焚き火も、薪が燃え尽きたことで消えてしまっていた。

まぁそれはいいのだ。

炎が消えたのは辺りが明るくなってからのことで、さほど問題はない。

ティアナが困っている理由は、そのことではなく、今まさにティアナの膝の上で眠っているカークの事だった。


昨夜、ティアナが焚き火と睨めっこをしながら祭器使いについてああでもない、こうでもないと考えているうちに、ティアナの真横でカークがすやすやと寝息を立てて眠ってしまったのだ。

ティアナは流石に、カークのことは持ち上げられても寝床に運ぶ間に何処かにぶつけてしまっては悪いと思い、カークに横になって寝るように、カークの体を揺すりながら言ったのだが、体を揺すったせいでカークがそのままティアナの膝の上に倒れ込み、熟睡してしまって今の状態に至る。


別にカークが眠っていることに、そこまで問題は無いのだ。

むしろ眠ってくれた方が、ティアナとしては体調を崩してしまわないかと心配せずに済み、良いと思う。

ならば何が問題かと言うと、それは既に殆ど感覚が無くなるぐらいの足の痺れだった。

しかしこんなにもぐっすり寝ていると、起こしてしまうのも忍びない。

恐らく平気だとは言っていたが、ほとんど丸々二日ミスティをおぶりながらの移動は疲れたのだろう。


そんな風にティアナがなにかすることも出来ずに座っていると、寝床のほうから歩いてくる音が聞こえた。


「…ティナ? おはようございます。随分早いですね?」


そんな声に、上半身だけ捻ってそちらを向くと、クレアが少し眠そうな顔をして立っていた。


「あ…おはよう、クレア。あの…ちょっとお願いがあるんだけど…」


そうティアナが言うと、クレアは不思議そうにティアナに近づく。

そしてティアナの膝の上で眠っている人物を見ると、クレアは少し表情を歪めて、


「どういう状況ですかこれ」


と訝しげに言った。


「カークがぐっすり寝ちゃったんだけど、起こすのも可哀想で…」


「カークはどこだって大体眠れるんですし、その辺に転がしとけばいいんですよ」


クレアは片手を腰に当てて、困ったようにまゆを下げて思う。


全く、ティナは優しすぎて困る。

カークが眠ってしまったからといって、ずっとその体制で我慢していたなんて…。


「だって風邪でもひいたら大変じゃない」


「カークが大変…というか、俺達が大変ですよね。カークを運んだりとかはしたくないです」


「まさにそんなお願いなんだけど…クレア、そろそろ足の痺れが限界で…ちょっとカークを寝床まで運んでくれない…?」


ティアナがそう言うと、クレアは首を横に振った。


「多分寝床まで運んだら起きますよ」


「えぇ…。じゃあどうしたらいい?」


ティアナがそういう前に、クレアはティアナの横にしゃがむと、カークの頭を両手で挟んで持ち上げると、そのまま下に持っていた外套を挟んで寝かせた。

そうした事でティアナは晴れて自由になったわけだが、立とうとするにも全然足に力が入らず、両足が震える。


「ティナ…生まれたての小鹿みたくなってますね。大丈夫ですか?」


そう、クレアはティアナに問いかけながら、ティアナの足元を見て小さく笑ってしまう。


「大丈夫に見えるのならクレアの目の方が大丈夫じゃなさそう」


ティアナはクレアに言葉を返しながら、がくがくと震えて言うことを聞かない足を必死に動かそうとする。


「ですよね。手を貸します」


そんなクレアの手を借りてやっとの事で立ち上がったが、一人で普通に歩けるようになるほどに痺れが取れるまで数分掛かったのだった。


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