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変わり者と妖精の木  作者: きょんしー
妖精使いへの一歩
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主と従者?

数日前、岩壁の中から出た、ヴィレム、クレア、ティアナ、ミラン、カークの一行は、既にオルゼビアとカトランガとの国境付近までやってきていた。

この辺りまで来れば、カークの任務であったヴィレムの案内も終わりのはずなのだが、カークはティアナたちが心配だからと帰ろうとしなかった。


カークとしては、クレアという好敵手が城にいない数ヶ月間はそこまで充実した時間を過ごせていなかった。

カークの相手になるような兵は、クレアかトルワードしかいないのだが、トルワードは最近ヴァイゼアス王の側を離れず、訓練どころではなかった。

将軍としての仕事もしっかりとこなしてはいたが、最近の平和さもあってか、自分を磨くことができるような任務が無く、退屈な日々を過ごしていた。

そのため、ずっと気がかりであったティアナとクレアと再開できたこともあって、あまりやる事の無い城に戻る前にティアナたちの手助けがしたい、というのがカークの本音であった。


そんなカークの思いは知る由もないティアナは、ちらりとミランの顔を見た。

いつも通りに無表情で、冷静そうな表情だ。

だが、岩壁を出て初めの頃は、少し浮かない顔をしていた。

岩壁の中に残して来た仲間が心配なのだろう。

その岩壁の周辺には、今ヴィレムの貼った結界がある。

岩壁に強い力が加わった時、岩壁のその部分が燃え上がり、敵を弾く仕組みだ。

ヴィレム曰く、妖精使いならば、誰でも結界は張れるのだそうだ。

その結界の強さは、カークが身をもって体験していた。

かつてクレアの肋骨を砕いたはずのカークの拳による打撃で、岩壁は何ともなかった。それどころか、カークが2mほど吹き飛ぶ始末だ。

そんな結界があるのだから、一応は安心だが、結界を貼った本人が横暴な性格であるが故に、一抹の不安は残った。


「おい、貴様ら。少しは急げ。もうすぐ日が暮れる。」


そう、思った側から横暴な言葉が飛んでくる。


「俺とて暇ではないんだぞ。大体。貴様らのような程度の低い者達と共にいるだけで苛立ちで頭がおかしくなりそうだ。」


「ずっとブツブツ言っている時点で、あなたの方がよっぽど程度が低いわ。」


「貴様は何度俺に喧嘩を売れば気が済むのだ!」


「先に言ってきたのはそっちでしょう!」


「まぁまぁまぁまぁ…!」


そう仲裁したのはカークだ。


「もうすぐ着くじゃありませんか。もう少し穏やかにですね…」


少しうんざりしたようにそう言うカークは、途中でハッとしたように言葉を切って、指を上に向けた。

それに合わせて、ティアナとヴィレムが振り返った、その直後、太い黒い棒のようなものが地面を直撃し、ぐらりと地面が揺れた。


「…オーク…って…遅かったですね言うの…」


苦笑いでカークが巨大な一つ目の怪物、オークを指さしながら言う。

そのオークの片腕には既にティアナが登っており、肩の辺りに到達すると、オークのティアナの身長ほどある顔に回し蹴りを食らわせた。

そこでぐらりと横に傾いたオークの目に、付近の木の上から放たれた炎の矢のようなものが突き刺さった。

その瞬間、オークの巨体は内側から弾けるようにして消えた。

オークの姿が消えたへこんだ地面には、ティアナとヴィレムが同時に着地した。


「貴様一人ではオークすら倒せないではないか。やはり程度が低いな!」

「私一人でも倒せたわ。余計な事しないで!」


ティアナとヴィレムはそう言い合った後睨み合い、同時にふんっと顔を背けた。


「…あの二人…何だかんだで息ピッタリだなぁ…」


そんな呆れたようなカークの呟きに、ミランはこくりと頷いた。

その間、やけに静かだったクレアは、少し眠そうな目をしているようにカークには見えた。

それもそのはず、クレアは岩壁から出てからの数日間、獣やオークなどに皆が眠っている時に襲われないよう、自ら見張り役を買って出ていたのだ。

見張るだけではなく、槍の稽古をしていることも、カークは知っていた。

それをする時は、いつもティアナが眠ったと確認した後だった。

一度カークは、寝た方がいい、見張りは代わるから、とクレアに言ったことがあったが、クレアは応じなかった。

クレアの頑固な部分には、目を見張るものがあるとその時のカークは少し呆れたものだった。


それで日中の行動が疎かになってしまっては意味が無いのに。


と、カークがそう思った時だった。

クレアは静かに槍を前に出し、顔を上げた。

そこにはいつの間にか、オークが立っていた。

いつもながらの神出鬼没ぶりに、一同は少し驚いた。

その驚いている間、ほんの数秒だ。

気がついたらオークは膝をつき、オークの目にはクレアが槍を突き刺していた。

オークが消えたあと、槍を一振するとクレアは腰紐に槍を差した。


そんなクレアに、ティアナは足早に駆け寄って行った。


「クレア、流石ね。」


にっこりとティアナがクレアの顔を見あげてそう言うと、クレアは少し嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます」


そんなクレアの顔をティアナは少しの間じっと見つめると、その後ヴィレムに声をかけた。


「今日は、この辺りで休まない?」


「まだ辺りは見える。もう少し進んでから…」


「お願い」


「俺は暇ではないと何度言ったら…」


「お願い!」


ティアナの一点張りに、ヴィレムはイラついたように頬をピクリと動かす。


「…明日には帝都に着くようにしなければならない。泣き言を言っても明日は止まらんぞ」


「わかったわ。」


ティアナはヴィレムの皮肉の言葉を受け流し、短く返事をすると、


「もう一つ、頼みたいことがあるのだけど」


と、ヴィレムに切り出した。

ティアナがヴィレムと話している間、ミランとクレアは狩りに出た。

夕飯にするための食材が無かったのだ。

ある程度集まると、天幕を張っていたカークのもとへ持ち帰った。

この数日間、料理をするのは、ミランかカークと決まってきていた。

というのも、ヴィレムは手を付けようともしないし、ティアナは料理など生まれてこのかたした事がなく、クレアも細かい作業は苦手なようで、この間は肉を切ろうとして自身の指を切り落としそうになる始末だった。

そんな中でましな方なミランと、その見た目から考えられないほど器用なカークが腕を奮っていた。

ほとんどカークが作った料理で夕食を済ませ、いざ寝るとなった時、天幕の中でティアナは自分の横の布を敷いた地面をぽんぽんと叩きながら言った。


「クレア、今日は少し寒いし、ここで寝てくれない?」


「…俺がですか? 寒いなら、ミランを呼んできましょうか。その辺の木の上で寝てるはずですから…」


「クレアがいいの。お願い。」


「…わかりました」


ティアナはいつもはこんな風に駄々をこねないため、クレアは少し違和感を感じた。

だが、頼まれては仕方ないと、大人しくティアナの側に横になった。

岩壁にたどり着く前までは、天幕もなく二人で一緒に寝たものだが、その後はあまり一緒に寝ることはなくなっていた。

ティアナはクレアを見て満足そうに笑うと、


「おやすみなさい」


と呟いて、すぐに眠ってしまった。

さっきヴィレムにも頑固にここで休みたいと言っていたのは、相当疲れていたからなのだろうか、とクレアは思った。

ティアナが眠り、少し経った頃、そろそろいいかとクレアは思い、そっと起き上がった。

そして、天幕の外に出ていこうとした時、襟首を強く後ろに引かれた。


「…!?」


驚いて後ろを振り返ると、ティアナがいつの間にか起き上がってクレアの襟首を掴んでいた。


「…ティナ、起きてたんですか?」


そんなクレアの言葉をティアナは無視して言う。


「ここに居て、クレア。」


「…少しだけ、外の安全を見てきたいんです。」


「それなら、心配いらない。ヴィレムがこの付近に結界を張ってくれたから。」


「……。」


目がすっきりと覚めているティアナの顔と、その言葉で、ティアナの今日の少しわがままな態度の意味が、クレアにはわかった。


「…わかりました。」


そう答えて、クレアは大人しく元居た場所に戻る。

そして、小さく笑いながらティアナに言った。


「ティナ、すみません。ありがとうございます」


「…なんのこと?」


クレアの言葉を聞いて、あからさまにクレアに背を向けたティアナに、クレアは呟くように返した。


「何でもありません。おやすみなさい」


と。

ティアナがクレアが寝不足なのを見抜き、眠れるようにヴィレムに結界を張るように頼んでくれたこと、一緒に寝てほしいと駄々をこねたこと。

全てクレアが寝ろと言っても大人しく寝ない性格をわかっていたからした事だろう。


その日、クレアは久しぶりに穏やかな眠りに落ちた。


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