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変わり者と妖精の木  作者: きょんしー
妖精使いへの一歩
39/67

ヴィレム②

ティアナはふっと目を覚ました。

そこで一番に目に飛び込んできたのは心配そうにティアナの顔をのぞき込むミランだった。

ミランはティアナと目が合った途端にバッとティアナのそばを離れ、天幕の出口から出て行った。


「え…っと…?」


状況がよくわからず、起き上がろうとしたとき、天幕の入口から三人も人がなだれ込んできた。

いや、正確に言えばなだれ込めたのは二人で一人は天幕の入口の上の布に頭が当たって弾き出されていたが。


「ティナ! 大丈夫ですか?」


そう一番に横に来たクレアが言う。

クレアと外に倒れた人物を連れてきたであろうミランは無言で起き上がるのを助けてくれた。

残りの一人であるカークは頭を擦りながら入ってきた。

いや、入ってきたと言っても、元々狭い天幕には四人も、それも図体がデカイ男二人と少年一人と少女一人が入るはずもなく、カークは顔と肩までを天幕に入れるのが精一杯だった。


「私は大丈夫よ。」


騒々しい三人の登場にたじろぎながらそう返すと、クレアがティアナに問いかける。


「ティナ、どこまで覚えていますか?」


その問いに、ティアナは考えた。


何をしていて…どうして眠っていたんだっけ…?


そう思ったとき、ハッとして急いでクレアの左胸を見た。

だが、そこには傷など無いようで、クレアの元気そうな姿に安堵した。


「…覚えてるのは…あのヴィレムとか言う人の炎を打ち消したところまでだけど…どうやって打ち消したのかは覚えてないわ」


そうティアナが言った時、天幕の入口に四つん這いになっていたカークの襟首を誰かがガッと掴んだ。

そしてそのまま、カークは天幕の外へ放り出された。

代わりに天幕の中を覗き込んだのは、橙色の髪に赤い瞳を持った男、ヴィレムだった。


「なんだ、やはり意図的に操っていたわけじゃないのか。」


そう、急にティアナに向かって言い放つ。

その外側では、カークが抗議の声を上げているが、ヴィレムは完全に無視している。


「…。」


ティアナはヴィレムの顔を睨みつけた。


「…何故まだ居るの?」


そう、ティアナはつっけんどんに言い放った。

その言い方に、ヴィレムもカチンときたのか、無表情だった顔は、少し引きつった。


「貴様、誰に口をきいているのかわかっているのか」


「大体、どうしてオルゼビアの皇帝様がこんな所にいるのよ」


「ヴィレム様は、姫様のお父君のヴァイゼアス王に即位したことの報告と、挨拶に来たそうですよ」


そう、カークがひょいと天幕の端から少しだけ顔を出した。


「…あぁ、それで帰り際このでくのぼうが案内人になった訳だが、こいつに祭器の塔へ連れていけと言ったら間抜け面で分からぬと吐かした。」


「そ…そんなの分かるわけないじゃないですか!」


「だから貴様はいつまで経ってもでくのぼうなのだ。」


「…カークの事をとやかく言えるほど、あなた自身が有能なの?」


急にティアナは刺々しい言葉をヴィレムに言い放った。

ティアナとしては、ヴィレムに相当頭に来ていた。

クレアに大怪我をさせた上に、カークを侮辱する。

殴られたこともあるが、それよりもほかの二人にした事をティアナは許せなかった。


「俺は妖精使いだ。少なくとも、ここにいる誰よりも有能だろう」


ヴィレムが放った言葉に、ティアナは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


「貴様…余程殺されたいらしいな」


「…私にぶっ飛ばされたくせに。」


「なんだと!」


「本当の事じゃない!」


二人ともお互いをすごい形相で睨み、今にも掴み合いになりそうな所を、クレアが割って入った。


「ちょっと! ヴィレム殿が用件を言ってくれないと始まらないんですよ!」


クレアとしてはティアナがこんな風に誰かにぶっきらぼうな言葉遣いをするのは意外なことであった。

クレアに言われ、ヴィレムは忌々しそうに


「わかっている! だがこいつが…!」


とティアナを指さす。

指されたティアナは未だ顔を背けてムスッとしている。

怒り心頭な様子のヴィレムの表情は、クレアには何となく戦ったときよりもずっと幼く見えた。

ティアナとさほど年は変わらないのではないだろうか。

ヴィレムは、はぁ、と大きなため息をついてから顔を上げ、とんでもない事を言い放った。


「赤髪とガサツ女。貴様らは俺とももにオルゼビアに来い。」


「……。」


ティアナは目を丸くしてヴィレムの顔を見た後に短く呟いた。


「幻聴…?」


「はい、俺も聞こえました。幻聴。」


ティアナの言葉に、クレアもそんなふうに言う。


「…貴様らいい加減にしろよ。」


そうヴィレムはわなわなと震えながら低い声で呟くと、


「サラマンダー!」


と叫んで力を込めた左手に炎を纏った。

その拳をクレアがガッと掴むと、炎は掻き消えた。


「天幕の中で火をたいては、火事になりかねませんよ。」


「…貴様、本当に忌々しい。ニンフェケーニヒの力で他の妖精の力をかき消すとは…。いつか絶対殺してやる」


ヴィレムは低い声で言いながらクレアの手を振り払い、そして天幕から出た。

そして天幕の外側から、いつもより大きな声で言い放つ。


「いいか。貴様らが俺に同行しなければ、この場にいる連中は全員焼け死ぬことになるぞ。これが脅しではないこと、貴様らの様な愚鈍者にも分かるだろう」


それは岩壁の中に響き、この場にいた者達を震え上がらせた。

元々闘技場にいた者達しかここには居ないが、奴隷として嫌々ながら戦っていた者がほとんどだ。

争いごとを好むようなものはほとんど居なかった。

ティアナは思う。


この人は相手を屈服させるための技術を心得ている。

今の言葉だけで、岩壁の中にいる人々全員を人質に取った。

断れば、全員死ぬ。


それ即ち、ティアナ達が殺したのと同じことになる。


「…させない。」


その時、小さく、だが鋭い声と一太刀がヴィレムを背後から襲った。

いつの間にか天幕から抜け出たミランが、ヴィレムの背後をとって襲いかかったのだ。

祭器の短剣を振りかざすと、ギリギリで避けたヴィレムの橙色の髪が少し散った。


「…ここにいる人たちは、僕が守る。」


「そんな出来もしないこと、言うものではない」


ヴィレムはそうミランに言葉を返すと、一瞬で炎を纏った左足でミランの脇腹を蹴った。

それだけで、小さなミランは吹き飛んだ。

元闘技場の奴隷達にとっては、自身を救ってくれたミランが手に負えない相手だと確信するとともに、ヴィレムに強い恐怖を抱くこととなった。


「一太刀で敵を仕留められなければ、貴様に勝ち筋はほとんどない。それを学べただけでも良かったと思え。」


ヴィレムは冷たく言い放つと、天幕から出てきて自身を睨みつけているティアナとクレアを見た。


「さぁ、どうする?」


「…あなたの目的は? 私たちを連れて行って、どうするつもり?」


「会わせたい奴がいる」


「……?」


予想外な返答に、ティアナは驚いた。

てっきり、なにかに利用しようとかいう魂胆かと思っていた。


「それと、共にくれば、オルゼビアにある祭器の塔の場所を教えてやろう。オルゼビアにいる間は安全を保証してやってもいい。」


「…どういうつもり? 最初は私を殺そうとしていたくせに。」


「貴様が貴重な愛し子だったから。ただそれだけだ。」


そんなヴィレムの言葉に、ティアナは首をかしげた。


愛し子…?


「それを…あなたの口約束だけで信じろというの?」


「貴様が信じるか信じないかは貴様次第だが、俺の気は長くない。三秒以内に決めろ。さもなくば、ここに居るものは皆殺しだぞ」


ヴィレムの急な制限時間の提示にも、ティアナは慌てなかった。

ティアナは、この場所にいる者を守らなければならない上、オルゼビア帝国の祭器も手にする必要があった。

ならば、やはり少しの危険は承知で彼について行った方が良いのだろうと、回転の早い頭でそう考えた。


そう考え出した上で、ティアナはすばやくクレアと目線を交わすと、すぐさま条件を提示した。


「行くのなら、ミランも一緒に。」


「構わない。」


「それと、ここは襲わないこと。そして、保護すること。」


「…あぁ。その条件、のんでやる。」


そこまでティアナはヴィレムとやり取りをすると、これでいいかというように、ミランに目配せをした。

ミランはそれにコクリと頷いた。


「わかった。では私たちは、あなたに従うわ。」


その言葉に、ヴィレムは満足気に頷いた。


ヴィレムとしても、この場でティアナがこの条件を断れば、この場にいる者を全て焼き殺した上で、ティアナとクレアを半殺しにしてでも連行しなければならなかったため、面倒事が減って良かったと思っていた。


そしてヴィレムはティアナたちから目を逸らす。


ここで妖精の愛し子と妖精王の主を捕まえられるとは、思わぬ収穫だ。

思ったよりも早く、ゾルとの決着をつけられるかもしれない。


そんなヴィレムの考えを知るのは、このすぐあとの事である。

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