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変わり者と妖精の木  作者: きょんしー
第一王女と第四将軍の出会い
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クレアVSカーク

次の日の昼前、ティアナは格技場へ走っていた。

格技場の方の騒がしさに、クレアとカークの試合が始まっているということは知っていた。

ティアナは、クレアにもカークにも決闘は見に来ないで欲しいと言われていたが、その格技場の盛り上がりようから我慢出来なくなって飛び出してきたのだ。

そして、こっそり医務官の部屋から応急処置に使うものもかすめてきていた。

昔から頭が恐ろしく良かったティアナは、この三年で更に城の外の文書まで手を伸ばし、知識を蓄えていた。

もうすでに、医務官をも超える薬や怪我の手当の知識は持っているのだ。

ティアナが格技場にたどり着くと、多くの兵達が歓声をあげながらクレアとカークが対峙する様子を見ていた。

ティアナも端の方から背伸びをして人だかりの隙間から二人を見ると、クレアもカークも既に肩で息をしていて、しかも二人共もうぼろぼろだった。

だがまだ、クレアは槍を、カークは己の拳を相手に向け、お互い挑戦的な笑みをたたえている。

ティアナは、そんな二人を少し心配そうに見つめた。あの二人は、戦いになると己を見失うことがあるからだ。

二人共、普段はとても穏和な性格なくせに、戦いになるといつもとは違った挑戦的な笑顔を見せる。

そういう点では、似たもの同士ということなのだろうか。

格技場では今、二人共が激しく戦っているが、人が多すぎてティアナからは全く見えなかった。

兵達も皆クレアやカークの技術に見入っていて、ティアナがたった一人目立つ金髪をさらけ出していても、誰も気づかなかった。

それは目立つことがあまり好きではないティアナにとっては良いことなのだが、こうも二人の姿が全く見えないと少しガッカリしてしまう。

そんな時だった。後ろから両方の脇の下を掴まれて、ティアナの体が浮いた。

驚いてティアナが後ろを向くと、そこには遠征に出ていたはずのトルワードが立っていた。


「トルワード!?どうしてここに?」

「あぁ、遠征から帰ってきたら格技場が騒がしいんでちょっと覗いて見たら、我が弟子が後ろの方で跳ね回っているのが見えたんでな」


トルワードはそう言いながら、ティアナを軽々と自分の左肩に乗せた。

トルワードの息子であるカークも背も高く、肩幅が広いが、トルワードはそのカークを一回り大きくしたかのような大男だった。

そのため、ティアナのような小さな少女は、片方の肩にでも乗れてしまうのだ。


「ありがとうトルワード、見えなくて困っていたの」


そんなティアナの感謝の言葉を聞いて、トルワードはどういたしまして、というように頷いた。


「にしても、またやってんのかあの二人は…カークのやつも懲りないな」


そう言いながら少しため息をつくトルワードに、ティアナは笑ってトルワードの頭をポンポンと叩いた。


「前までカークの攻撃はクレアに一撃も当たらなかったのに、今はもうほとんど互角に戦えているのよ、すごいと思わない?」

「…まぁ、技のキレは上がったとは思うが…俺に言わせてみればまだまだだなぁ。」

「もう、トルワードも素直じゃないわね。自分の息子が成長してるんだから、もう少し喜んでもいいのではない?」

「あの程度では喜べないな。姫も、人のことばかり気にしていないで自分のことを気にしろ。」


トルワードがにやっと笑いながらそう言うのをみて、ティアナはわかってるわ、と返しながら、とても悔しくなる。

三年経った今でも、ティアナが本気でトルワードを倒そうとかかっても軽くあしらわれてしまうのだ。

これが終わったら、また体術の鍛錬をしようと、ティアナは心に決めた。

そうして、再びクレアとカークの戦いに目を向けると、カークの猛攻でクレアが少しずつ押されてきていた。

クレアは反撃だと言わんばかりに、カークの腹に槍の柄を叩きつけた。それでカークが怯むかと思いきや、カークは若干顔を歪めながらも、クレアの腕をガシッと掴んだ。


「…捕まえましたよ…クレア将軍」


カークはそう、にやりと笑った。

腕をつかまれたクレアは、手を振りほどこうとするが、純粋な力だけではカークの方がクレアよりも上回っていた。

カークはクレアの腕をつかんだまま、クレアの顔を殴りつけた。殴った直後、カークの手が緩んだらしく、クレアは素早くカークを蹴りつけ、距離をとった。

その一連の流れが十秒足らずで、兵たちからもおぉという声が上がった。

この時点で、二人は殆どもう立っているのでやっとな状態になっていた。

だが、二人共相手からは絶対に目を話さない。まだ、闘志がみなぎった瞳で相手を見据えていた。


しかし、決着の時はやって来る。


二人が再び向き合って地を蹴った直後、カークの拳がクレアのみぞおちにめり込んだ。だが、クレアはそれを待っていたかのように、槍を振りかざし、体制を崩し、片膝をつきながらもカークの喉元すれすれのところで槍の刃先を止めた。


その瞬間、審判の旗がクレアの方へ上がり、見ていた兵士達からは大きな歓声が上がった。


戦っていた本人達はといえば、クレアは腹を抑えてうずくまり、カークは疲労困憊というようにその場に倒れ込んだ。


「ほら、姫」


そう言いながらトルワードは、足元の応急処置用の箱をティアナへと手渡した。それをティアナは笑顔で受け取ると、


「ちょっとごめんね」


ティアナはそう言いながら靴を脱ぎ捨て、上手くバランスをとりながらトルワードの肩の上に立つとそのまま両足にグッと力を込めて、身軽に跳び上がった。

前にいる多くの兵達の上を跳び、クレアとカークが戦ったフィールドと兵達がいる場所とを区切る低めの柵に、とっ、と軽い音を立てて着地する。

ティアナはその柵からも素早く飛び降りると、のびている二人へ近づいていく。

ティアナの目にはもうほとんどクレアとカークの二人しか映っておらず、周りの兵士達がざわつくのも全く聞こえていないのだ。

そして二人の側まで行き、


「お疲れ様」


と一言だけ言うと、目を閉じていたカークはパッと目を開き、腹を抑えていたクレアは顔を上げた。


「ひ…姫様、見ていたんですか?」


カークがそうティアナへ言い、クレアもその答えを聞こうとこちらを見ている。

ティアナはその質問には直接は答えず、にっこりと笑いながら


「二人共すごく格好よかったわよ」


とだけ言い放った。

その言葉に、カークは何も言わずに起こした頭を倒し、クレアは困ったように目をそらした。

そんなもうほとんど動けないふたりの傷をティアナは手早く確認し、ひどい外傷がないのを見ると、この箱は使わなかったかなと思いながらティアナはクレアとカークを担ぎあげた。


「ちょっ…姫様!クレア将軍はそのままでいいですけど俺は下ろしてください!」

「ダメよ、あなた足首を痛めたでしょう。それに私の筋肉強化の鍛錬に付き合ってくれてもいいでしょ?」


にこりと笑いかけたティアナにもう十分だろうと思いながらも何も言えなくなってしまうカークと、もう抵抗すらする元気がなくなってしまったクレアは、ティアナに担がれたまま医務室へと運び込まれた。

運びながら、クレアの元気のなさに、これではどちらが勝ったのかわからないなぁ…とティアナは思った。


その翌日から、クレア、カークの両名は部下やらトルワードやらから、姫に運ばれるとは、と散々からかわれることになるのだが、そんなことはティアナが知る由もないのであった。

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