仲間
卵を抱えて山を下りた翌日、シアは隣町の駐屯地に併設された、竜騎士訓練隊への入隊を認められた。
背中に卵が入った大きな麻袋を背負い、両手にも荷物を抱えたシアが隊舎の門をくぐると、廊下を歩いていた少女が目を丸くして近づいてきた。
「あなた、すごい荷物ね。こっち、持ってあげる」
長いまっすぐな栗色の髪に、透き通った青い目をした小柄な少女は、そう言ってシアの荷物を半分持ってくれた。
「えっ? あ、ありがと」
「私はリーナ。リーナ・カルディ。よろしくね」
「私はシア・リードマン。よろしく」
「シアはいくつ?」
「わたしは十五歳。リーナは?」
「わたしも同じ。昨日入隊したのよ」
にこりと上品に笑うリーナを見て、シアもつられて笑った。
「おい」
リーナとは反対側から、突然低い声がかかった。次の瞬間、シアが持っていた荷物がひょいと取り上げられる。
「えっ」
「重いだろ。まずは卵を置いてこい」
背の高い、がっしりとした体つきの男子が、ぶっきらぼうに言った。
「荷物は教室に置いておく」
「あ……ありがと」
「ふん」
「ギータくん、急に荷物取ったら驚くでしょ?」
リーナの注意に、ギータと呼ばれた男は「ちゃんと声はかけた」と無愛想に言い返した。
「ごめんね。ギータくんは私の幼なじみなの。体は大きいけど、私たちと同い年なんだよ」
「そうなんだ。ギータっていうの? わたしはシア。シア・リードマン。よろしくね」
「……ああ。ギータ・フルグラントだ」
「あなた、優しいのね。ありがと」
シアはにっこり笑って、案内された台座に卵の入った大きな麻袋をそっと置いた。
まさか笑顔が返ってくるとは思っていなかったギータが、うっかり荷物を取り落とし、リーナが注意をした。ギータは「んだよ」と反抗的に返すが、頬がわずかに赤らんでいた。
「すげぇ、でかい卵だな」
「わあ、可愛い柄だね」
教室の中にいた少年少女たちが、シアの卵のまわりへ集まってきた。
周りの台座を見回すと、手のひらに乗るほど小さなものから、両腕で抱えるほどのものまで、さまざまな卵が並んでいた。
その中でも、シアの卵はひときわ大きい。
「いろんな竜の卵があるんだね」
シアが言うと、リーナが笑った。
「ふふ、わたしの子はあそこの青い卵よ。水系の竜にもらったの」
「……もらった?」
「そうよ。竜がくれなかった?」
「…………」
「まさか、その卵……托卵じゃなくて、自然にあった卵なの?」
「……そ、そうだけど……」
教室にいた全員が驚いている。
シアは言われて初めて、他の訓練兵たちとの違いに気づいた。
父から聞かされていたのは、山奥に眠る竜の卵の話ばかりだった。だからてっきり、竜の卵とは自然に産み落とされた卵を拾ってくるものだと思い込んでいた。
けれどリーナが言うには、竜騎士の多くは母竜に託された卵を育てるらしい。托卵は、預けてもよいと認めた相手にしか行われない。
つまり、自然に産み落とされた卵を持ち帰る者は、かなり異例だった。
「おもしれぇじゃねえか。どんな竜が生まれるのか」
ギータが卵を見つめたまま、わずかに口元をゆるめた。その不器用な笑みに、シアの頬にも笑みが戻る。
「きっと、すっごい竜になるよ」
「そうかもな」
「えへへ」
そこへ、教官が教室へ入ってきた。
「よし、志願者全員そろったな。卵はここに置いてグラウンドへ出ろ。訓練兵の入隊式を行う」
「はいっ」
教室にいた全員が、声をそろえて返事をした。
─ 続 ─




