第92話 【誤爆】
「本当、あの個室の連中、聞いてて恥ずかしくなるレベルなんだよ。
なんかさ、『〜やけん』とか『〜ばい』とかさぁ。東京のド真ん中の、こんなお洒落な店で堂々とそんな田舎の方言丸出しで喋ってんの。マジで田舎者丸出しで痛すぎるだろ?」
加藤は面白おかしく長崎弁のイントネーションを真似て、バカにするように吐き捨てた。
その言葉を聞いた瞬間、英理の身体が指先から凍りついたように硬直した。
(…やけん? …ばい? 長崎弁…?)
嫌な予感が一気に脳内を駆け巡る。
加藤の口から次に飛び出した言葉が、英理のその予感が「確信」へとなった。
「しかもさ、聞いてよお姉さん。その芋くさい男と勘違いブス、二人で盛り上がって、なんか『昔の親友の英理がどうのこうの』って話してんの」
「っ…!」
英理は思わず息を呑み、ハットの奥で目を見開く…!
「男の方がさ、『英理はバリ美人やけん、こんな店に来たら大騒ぎになる』とか大真面目な顔で言っててさ。
もう滑稽すぎて笑いそうになったわ。身内で『美人、美人』って、どんだけ狭い世界で生きてんだよって話じゃん?」
(間違いない…。この人が、ナオを困らせとった加藤っていう人じゃ…! ということは、個室でボロクソに言われとる『ダサいイモ野郎』って…凪くんのこと!?)
すべてが繋がった。
この男は自分のプライドのためにありもしない大嘘を並べて侮辱している!
加藤の無知ゆえの暴走は止まらない。
「まあ、その『英理』とかいうやつもさ、どうせ類は友を呼ぶって言うし? そのイモ野郎や勘違いブスと同い年のなんだろ? だったら、どうせそいつも、芋同士のパッとしない田舎ブサイクに決まってるんだけどね! お姉さんみたいな本物の都会の美人と違って、化粧の仕方も知らないような、垢抜けないブスに決まってるわ。ハハッ!」
「…」
英理は完全に沈黙。
自分の大切な親友のナオを「ブス」と呼び、自分を信じて泥をかぶってくれた恋人の凪を「卑怯な遊び人」と呼び、さらには自分自身のことまで「田舎ブサイク」と吐き捨てた男。
(…この男、絶対に許さん…!)




