第90話 【長崎グルメと完璧な防壁】
「…凪くん、相変わらず正直すぎよ。あんな冷たくしなくても」
「いや、だってナオが困っとる話を聞くのが今日の俺の目的やしな。」
「で、ナオ。何でもええ、俺に話してみ。和也も心配しとったし、英理も……ええと、お前さんが困らんようにって気にかけてたんよ」
加藤は一度はナオに突き飛ばされたものの、未だに遠巻きに凪とナオの様子をジロジロと眺め、隙あらばまた割り込んでやろうと虎視眈々と狙っている。
(さあ、ナオちゃん、何でも言うてみ。俺が全部聞いてやるけん)
周りの喧騒を完全にシャットアウトした二人の席には、ディープでテンポの良い地元の空気が流れ始めていた。
♢
「それにしても東京のちゃんぽん屋とか皿うどん屋って、なんであんなにお洒落ぶっとるんやろな? こっち来て最初に入った店、皿うどんにソースも置いてなくて、ちょっと違うわーって思ったわ」
「そうそう! わかる!!」
ナオは大きく首を縦に振って頷く。
「うちもこっちでちゃんぽん食べに行った時、スープがなんか気取っとってバリショックやったんよ! やっぱり『思案橋』のあの店とか、ウスターソースをドバドバかける本場の太麺皿うどんが恋しくなるよね。
あー、話しとったら急に長崎帰りたくなってきたわ」
「あそこ美味いよな! 俺もあそこの特製ちゃんぽんなら、大盛り2杯はペロリといける自信あるわ。」
「英理、高校で告白…美人やしな…」
ノンストップで喋るため、右隣で隙を伺っていた加藤は、完全に会話の輪から蚊帳の外に置かれていた。
加藤としては、なんとか「俺の知ってる東京のトレンディな話」でマウンティングを取りたいが、二人の間に入り混じる独特な方言と空気感に圧倒され、話しかけるタイミングすら掴めない。
周りのメンバーも、
「なんか…東都農大の彼とナオちゃん、めちゃくちゃ仲良いね…」
「あの独特のテンポ、東京の人間じゃ絶対に入り込めないやつじゃん」
「あ、ナオ、この唐揚げバリ美味いよ。ほら、冷めんうちに食べんさい」
「ありがと! じゃあお言葉に甘えて…ん、ホンマや、バリ美味しい!」
凪の「ナオの相談に乗る」という一途な目的(と無自覚な優しさ)が、結果的に英理と和也の目論見通り、加藤に対して「完璧な防壁」となって機能していた。




