第86話 【長崎のあの日から、青山の今日へ】
「…ねぇ、凪くん」
「ん? どうした、英理」
「…うち、バリお腹減った。さっきからお腹の虫がグーグー言いよるんよ」
「おう、お腹減ったか! よし英理、好きな食べ物何でも言ってくれ。このまま青山のオシャレなカフェで遅めのランチにしようや!」
凪が頼もしく胸を張ると、英理はパッと目を輝かせた。
「ほんまに!? うちね、実はお洒落なカフェのふわふわのパンケーキと、あと……カリカリのフライドポテトとか、ガッツリしたサンドイッチがバリ食べたい気分なんよ!」
テレビのイメージ通り、実はお洒落なカフェ飯もガッツリ系も大好きな食いしん坊の英理。
凪は「任せとき!」と、スマホで青山の有名店を検索し、二人の現在地からすぐ近くにある、緑に囲まれた隠れ家カフェへと英理をエスコートした。
二人が訪れたのは、南青山の路地裏にひっそりと佇む人気の(ガーデンテラス キノカ / 木の香)
ウッディで温かみのある店内に座ると、香ばしいパンやコーヒーの香りが漂ってきて、英理は嬉しそうに何度も鼻をくんくんと動かしている。
「わぁ、ここバリお洒落やね! 兄ちゃん、素敵なお店知っとるじゃん」
店員さんがメニューを持ってきてくれると、英理はすっかり「妹モード(カモフラージュ)」に戻りつつも、メニュー表を真剣な目で見つめた。
「うわぁ、どれも美味しそう。
凪くん、うちはね、この『クラシックホイップバターパンケーキ』と、あと『クラブハウスサンドイッチ』が食べたい!…あ、フライドポテトもついてくるって! 最高やね!」
「お、おう、ええよ。食べたいやつ全部頼みぃ。」
♢
「…なぁ、英理」
「さっきは服も靴も、一生懸命選んでくれてほんまにありがとうな」
凪はバーガーを置き、おしぼりで手を拭くと、向かいの席の英理を文字通り真っ直ぐに見つめ。
「なんかさ…俺ら今こうして、東京のこんな青山のオシャレなカフェで、一緒に楽しめとるのがさ、今でも信じられんのや。
高校で出会った俺らが、東京で、こんな風に手を繋いで歩いて、お洒落なカフェでご飯食べとるなんてな。…夢みたいやわ」
英理はゆっくりとフォークを皿の脇に置くと、テーブルの上で重ねられた凪の手に、そっと自分の手を重ね。
「…ほんとやね」
「あの頃はさ、まさかこんな風に東京で手を繋いで歩いて、カフェで笑い合える日が来るなんて、思いもしんかったけん。
だからね、凪くんだけじゃなくて、うちにとっても、今日のこの時間は、宝物みたいな夢なんよ」…




