表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凪の坂道  作者: 凪葉
第2章 東京編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
84/131

第83話 【うちがしっかりエスコート】

ショッピングデート当日。

車を持たない凪は、都内の大通りでタクシーを拾い、和也と英理が暮らすマンションの前へと向かった。


「…あかん、緊張で吐きそうや」


タクシーをマンションの前に待たせ、エントランスの前でそわそわと時計を見る凪。


今日の彼は、一応手持ちの中で一番マシなネイビーのシャツを着ていたが、手のひらは緊張の汗でびっしょりだった。


東京で二人きりのショッピングデートをするなんて、これが初めてのこと。


その時、


「凪くん、お待たせ!」


声をかけてきたのは、大きめのバケットハットを深く被り、マスクと丸メガネを身につけた女性だった。


顔の大部分は隠れており、一見すれば「神之浦英理」だとは誰も気づかない完璧な変装だ。


しかし、凪は彼女の姿を見た瞬間、言葉を失ってその場に硬直してしまった。


今日の英理は、ベージュの洗練されたロングジレに、すっきりとしたシルエットのパンツスタイル。


露出はほとんどないのに、すらりとしたスタイルの良さと、歩くたびにふわりと広がる都会的な香水の香りが、彼女の周りの空気だけを明らかに違った。


学生時代からずっと一緒にいて、それこそ数日前にはおデコ出しのダサい小豆色ジャージ姿を見ていたはずの、あの「英理」。


なのに、今目の前にいるのは、芸能人として何千、何万人もの前に立ち、磨き上げられ、大人の女性として眩いばかりに輝いている、手の届かないスターの姿だった。


「…凪くん? どうしたん、そんなに真顔で固まって」


メガネの奥の、少し悪戯っぽく微笑む綺麗な瞳。


「あ、いや…なんでも、ない。…行こか」


「ふふ、うん!」


凪は声が裏返りそうになるのを必死に抑え、待たせていたタクシーのドアを開けた。


二人でタクシーの後部座席に乗り込み、運転手に「青山までお願いします」と告げる。


車が滑り出すと、狭い車内は一気に英理の香りと、二人の距離の近さで満たされた。


凪は背筋をピンと伸ばし、正面のフロントガラスを凝視したまま、緊張のあまり、膝の上に置いた両手がガチガチに強張っている。


「凪くん、さっきから全然うちの方見んやん。そんなにまっすぐ前見て、これから救助の訓練にでも行くん?」


「ち、違うわ! 誰が今から訓練行くねん!」


「じゃあ何でそんなに緊張しとるんよ。顔、バリ怖いよ?」


「しゃあないやろ!」


凪はついに耐えかねて、声を潜めながらも必死に弁明した。


「英理と青山デートなんてオシャレ過ぎて、横見たら、なんかバリ洗練された都会の女性がおるし、完全に気後れしとんねん!」


凪はそう言って、慌てて窓の外へと視線を逸らす。


横にいるのが高校時代に知り合った「英理」ではなく、TVの中で見る圧倒的な美しさをまとった彼女が、すぐ隣で自分と肩を並べてタクシーに乗っている。


「ふーん…青山の街とお洒落な私に、そんなに緊張しとるんやねぇ?」


英理はクスッと小さく笑った。


「じゃあ、そんなに緊張しとる凪くんのために、うちがしっかりエスコートしてやるけんね」


英理は凪の強張った手を上からぎゅっと握りしめた。


「…っ!?」


完全に彫刻のように硬直してしまった凪を横目に、英理はマスクの下でニンマリと、してやったりな笑顔を浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ